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【ライブレポ】「杏祭り Vol.2 ~皐月の音~」2023.5.3

池袋EDGEで開催された、杏祭りのVol.2。
ホタルをはじめ、様々なプロジェクトにて活動しているギタリスト・杏太による自身の総括的イベントということで、すべてのステージに杏太本人はフル参加となる。
転換を挟むとはいえ、本番だけでも5時間近くある長丁場。
これは、社会人バンドマンを公言している彼が、どれだけ音楽に対して真摯に向き合っているかの可視化とも言え、ストイックさのたまものに他ならない。
ゲストあり、カヴァーあり、タイトルどおりのお祭り感。
まずは、素晴らしい杏太フェスであったと言っておこう。

杏太


口火を切るのは主催者のソロから。
演奏されたのは、この日発表したシングルに収録されている2曲。
「少年記」は、ホタルのメンバーをイメージして書かれた楽曲とのことで、実際にホタルとして演奏することも想定していたのは、アレンジ面でも理解できたのでは。

アッパーな雰囲気を強めて、このまま盛り上げていくのかと思っていた矢先、衝撃的だったのが続けて放たれた「primary」。
ギターを置き、ハンドマイクで展開するポエトリーラップ。
自分の内側を曝け出して、ダイレクトに心を撃ちにいくアプローチは「少年記」と同様と言えるのだけれど、kc+loidで知って、ホタルにハマってから、その動向を20年以上追ってきた身としては、グッとくる、という言葉だけで済ませてはいけないほどに感情を揺り動かされる。
近年、強く影響を受けているとして知っているからこそ、方法論としては意外には感じないものの、ヴィジュアル系のシーンで、ここまで泥臭いポエトリーラップを武器にしているアーティストは稀有。
耐性を持っているはずなどなく、実際に目の当たりにした激情の洪水に、ただただ圧倒されてしまった。

この「primary」だけで、「杏祭り」としてのチケット代の元はとった、と言えるほどのパンチ力。
温存するどころか、いきなりアクセル全開の熱量でぶつかってきた杏太のスタンスには、音楽を趣味に変換した社会人のひとりとして、感服するしかないのである。

  1. 少年記

  2. primary


コウモリ達の夜会


君は鋭く。のVo.凌舞と、杏太による不定期ユニット、コウモリ達の夜会は、ソロステージが終わったところに凌舞を呼び込む形で、転換時間ゼロでのスタート。
「primary」の余韻が冷めやらぬ中、これはやりにくいだろうと思いきや、さすがのキャリアを見せつけていたのが、凌舞であった。
いつもと変わらない調子で、あっという間にオーディエンスのピリっとした空気を解きほぐすと、アコースティックなのにグルーヴ感のあるステージを展開。
新曲である「夜に潰される」にしても、ぎこちなさを見せずに歌い上げていた。

『公転する世界の片隅で「おやすみなさい。」』では、ゲストヴォーカルとしてホタルから慎一郎が参加。
前回から一緒に歌いたいとオーダーを出していたものの、凌舞が「こんな歌ウマお化けと一緒にはやりたくない」と退けていたとのことだが、そんなやりとりの一コマからも、ずっとシーンで切磋琢磨してきた盟友同士というのが透けて見えて、ほっこりしたりする。
興味深かったのは、杏太がギターを弾く楽曲を、慎一郎が歌ったとしても、慎一郎&杏太の楽曲とは異なる質感だったこと。
こういうところに、相手を意識して楽曲を作る杏太のセンスの良さが滲んでいるな、と。
もちろん、色々と言いつつも、決めるところで決める凌舞のステージングもさすがである。

ラストは「その旅路の途中」。
まだ演奏が続いている中で、凌舞が締めの言葉を告げてから、再び最後のワンフレーズに戻っていくのがなんともお洒落だった。

  1. ゼラニウム

  2. 夜に潰される

  3. 公転する世界の片隅で「おやすみなさい。」

  4. その旅路の途中


IOLITE -アイオライト-


ホタルでは、サポートでキーボードを担当することが多いVo.悠歌-youka-だが、自身のプロジェクトであるIOLITE -アイオライト-では、杏太がサポートギタリストという位置づけ。
ただし、同じメンバーで3年継続しているとなれば、もはやバンドとして成立していると言っても過言ではないだろう。

杏太が作曲した「朽澄空」でのスタートは想定通りであるも、そこからは純粋にベストアクトを狙うぞ、と意気込んでいた印象。
Ba.山本伸彦、Dr.キリは、どちらかと言えば職人気質のプレーヤーだが、その分、視線が悠歌-youka-に集中するようにパフォーマンスが計算されているかのようで、彼の深みのある声質や、ステージを支配するかのような表現のすべてに、引き込まれずにはいられない。
良い意味で、杏太ありきでライブを楽しむ、というこの日の趣旨から外れたステージを体現していたのが、彼らだったと言えよう。

もっとも、だからといって、この日のお祭り感を削ぐわけでもなく、ホタルの「サクラチル」をカヴァーしてくるあたり、強かである。
耽美を地でいく悠歌-youka-が、"親父殿"や”味噌汁"が登場する歌詞を口にするギャップはあるも、強がりの中に死にたくないという本音が透ける本家に対して、これが軍人の定めと言わんばかりに、厳かで覚悟が決まった感のあるIOLITE -アイオライト-の「サクラチル」も、なかなかどうして雰囲気が出ていた。
リスペクトを示しつつ、楽曲の新たな一面を見せる、理想のカヴァーだったのでは。

  1. 朽澄空

  2. HUMAN ERROR

  3. 儀ザ儀ザ

  4. サクラチル(ホタル)

  5. この想いに名前はない

  6. Prayer


デンタク feat 杏太


本人が、「突然、縁もゆかりもないやつが出てきた」と自虐したように、どこか異質な雰囲気を持っていたのがVo.マツオカエイジのソロプロジェクトであるデンタク。
その楽曲の良さに惚れ込んだ杏太がオファーしたそうで、オリジナルの打ち込みに杏太がギターを重ねる形でのコラボレーションとなった。

このオファーが正解だったのは、杏太の音楽性的に、全体的に暗く、シリアスになりがちなイベントに、キャラクターとしても、サウンドとしても、ポップ感をもたらしていたこと。
歌われている内容こそ、必ずしもポップではないかもしれないのだけれど、パフォーマンスの自由度や、MCでの盛り上げ方は、アットホームな居心地の良さを提供していた。
杏太との共通の趣味として、THE BLUE HEARTSの「青空」をクラブアレンジでカヴァーしたり、杏太の「空花乱堕」をデンタク色に染め上げてカヴァーしたり、矢印が双方向であることをアピールしたかと思えば、お互いをヤンキーだ不良だと罵り合ったりと、曲中はおろか、曲間も含めて目が離せないステージだったのは間違いない。

最後に演奏された「星に願いを」は、アレンジが完璧すぎて、ギターを差し込む余地がなかったと言わしめた歌モノ。
杏太のプレゼンの段階から期待値が爆上がりしていたのだが、実際、想像の余地はあるけれど、サウンドには隙が無い名曲。
物販でCDを出してくれていたら、結構売れていたと思うのだが、物販がチェキだけだったのがちょっと残念だったのは僕だけではないはず。

  1. 神様とUFO

  2. トーキョーブレードランナー

  3. 青空(THE BLUE HEARTS)

  4. 空花乱堕(杏太)

  5. 星に願いを


ホタル


定番のナンバーを持ってきて、準備期間における負担を減らす選択肢だってあっただろうに、復活後の杏太曲だけを詰め込むレアセトリ。
このあたり、杏太の"爪痕を残してなんぼ"という貪欲な姿勢が見受けられるのだが、「杏祭り」という場においても、なんの悪意もなく自我を突き通せるのが、Dr.がおの末っ子キャラということだろう。
自分の誕生日にYouTubeで見て、リハだけでもいいからやりたい!と深夜にグループLINEに投下した結果、ねじ込まれることになったのがジュリィーのセルフカヴァーとなる「バースデイ」。
結果として、お祭りらしいサプライズにもなっていたし、Ba.たかしの誕生月と重なることになり、演奏されるべくしてされた感は出ているのだが、その出自が杏太ではなく、がおによるものだというのが、なんともホタルらしいのである。

「花時雨」、「氷雨」と、ハードな楽曲で畳みかけた後に、そこから更にアクセルを踏む「バースデイ」。
図らずもホタルにおいてジュリィー曲が解禁されたわけだが、「サクラ心中」や「鉛の雨」など、ホタルの既存曲と組み合わせることでセットリストに幅が出そうな楽曲も多いだけに、これがどう作用していくかにも注目していきたい。
声出しがOKになっていれば、もっとテンションは上がっていたのだろうな、と思うと、さすがに定番になるわけではないだろうからこそ惜しまれる。

「金色花火」については、ホタルにおける夏の代表曲にしていきたい、と慎一郎。
ノスタルジックなギターのフレーズが印象的で、同じ夏の代表曲である「たからもの。」とはまた違った、あたたかい余韻に包まれる。
"ホーム”であるホタルがトリでなかったのは少し意外な気もするが、イベントのクロージングとなると別の選曲になっていただろうし、この位置だからこそのホタルを見ることが出来たのも、ひとつの収穫だった。

  1. 花時雨

  2. 氷雨

  3. バースデイ(ジュリィー)

  4. 泣き空

  5. 金色花火


透×杏太


もともとはソロでのツーマンライブをきっかけに、音源を制作していたふたりだが、ユニット"透×杏太"として登場。
既に6曲あるオリジナルのうち、5曲を披露することとなった。
どうせだったら、残る「薔薇の棘」も聴きたかったが、全部を出し切らないのも、また見たいと思わせる手段であるから仕方ない。

とはいえ、インスト曲を3曲とも演奏するとは予想していなかった。
1曲目が透作曲の「PRISONER」だったので、あとは歌モノを何曲か披露したうえで、時間が余るならお互いのソロ曲をユニットヴァージョンで、という構成を想像したのだが、続いて演奏されたのも、インスト曲である「見えないLyric」。
随分と攻めてくるな、と思ったものの、ギタリストの本領発揮といった顔が見られて、これはこれで面白い。
長丁場のライブにおいては、良いアクセントにもなっていた。
途中で演奏が止まってしまうハプニングもあったが、それも含めてライブの魔力。
少し演奏が狂うだけでリカバリーが出来なくなる世界で、彼らはいつも戦っているのだな、と思うと、ミスすら格好良く見えてくるものだ。

歌モノは「黒煙」と「遺書」の2曲。
どちらも杏太による作詞・作曲であるが、「黒煙」には透らしさが色濃く出ている気がして、ここでも相手の旨味を引き出す彼のセンスが発揮されていた。
一方の「遺書」は、どこを切り取っても杏太節なのだが、だからこそ透が弾き、歌う面白さが出ていたと思うし、バランスが絶妙である。
最後にセッションした「愛憎September」も、インストながらふたりの個性や共通項が凝縮されていて、表情が見える楽曲。
ギターインストに目覚めてしまいそうなステージだった。

  1. PRISONER

  2. 見えないLyric

  3. 黒煙

  4. 遺書

  5. 愛憎September


夕凪に朱く燃ゆ


慎一郎&杏太の、バンド編成における名義”夕凪に朱く燃ゆ"が大トリ。
サポートメンバーは流動的であるも、この日はThe BenjaminのBa.ツブク“Mashoe”マサトシ、Pf.まぐろ、Dr.桐(heidi.)という布陣で、個人的にはもっともホーム感のある面子となった。

登場時から、杏太がフルートを構え、「ハーメルン」を再現するように他のメンバーを迎え入れる。
この段階から濃厚な世界観が充満していて、期待に応えるかのように激しいナンバーを立て続けに演奏してくるからたまらない。
音源ではバンドアレンジで収録されていても、普段はアコースティックで演奏されることが多い楽曲たち。
メンバーが語っていたとおり、1年ぶりのバンド編成というのがもったいないほどの仕上がりで、それぞれに魅力はあるけれど、やはり慎一郎&杏太が描く完成形は、このアレンジなのだな、と納得せずにはいられないのだ。

その中で「残想」、「スターチス」は、大切な人に向けられた楽曲たち。
定番にはなってきたものの、何度聴いてもグッとくる、というのが名曲たる所以だろう。
ジュリィーやホタルからの楽曲には頼らず、オリジナルだけでのセットリスト。
最後の「軌跡」は、エンドロールのようでもあり、これで終わりとは思えない、続きを予感させる楽曲であった。


イベントとしては、ここでいったん終了となるのだが、アンコールに代えて、ラストは出演者全員が登壇しての大セッション。
演奏のベースは、夕凪に朱く燃ゆの面々が引き続き担当していくものの、杏太がアコースティックギターに持ち替えるにあたり、透がエレキギターを新たに構えていた。

披露されたのは「いつか死ぬ僕らの死なない歌」。
ワンパートずつ、出演したバンドのヴォーカリストが歌い回して、歌詞のないサビの部分は全員で手を振りながら。
主要人物が被っている分、どうしても扱いが軽くなるホタルの残りふたりが不憫にも思うが、ホタルからはじまった縁がこれほどの繋がりを生んでいるのだと思うと、やはり無下にはできないのである。
いずれにしてもハッピーエンド。
間違いなく、これはハッピーエンドの物語だった。

  1. ハーメルン

  2. アンサー

  3. 残想

  4. スターチス

  5. 軌跡

en1. いつか死ぬ僕らの死なない歌


なお、転換中、会場にはずっとhideの楽曲が流れていた。
前日が命日だった、ということもあるのだろうが、杏太のルーツでもあり、"少年時代の自分"のメタファーにも感じる。
少年時代の杏太が、今の自分を見て納得してくれるか、頑張ってるじゃんって笑ってくれるか。
この日リリースしたソロシングルのテーマとも言える命題に対して、仲間たちやオーディエンスの拍手によって大団円を迎えたアンコールの一幕は、言葉以上に価値のある答えだったはずだ。

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