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【ADVゲームレビュー】428 〜封鎖された渋谷で〜 / Steam(2018)

428 〜封鎖された渋谷で〜 / Steam

2008年にWii用にリリースされ、その後も数々のハードにも移植され続けている名作サウンドノベルゲーム。


あらすじ



発端となったのは、ひとつの誘拐事件。 
渋谷中央署の新米刑事である加納慎也は、身代金の引き渡し現場に張り込んでいた。
誘拐された大沢マリアの妹・ひとみに、現金5000万円を持ってハチ公前に立っているよう、犯人から指示があったからだ。
同じ時間に、日課であるゴミ拾いに出かけた元チーマーの遠藤亜智は、ひとみに危険が迫っていることを察知して、声をかける。
渋谷で繰り広げられる物語は、フリーライターの御法川実、ウイルス研究社でありマリア・ひとみの父親である大沢賢治、謎の猫のきぐるみ・タマを加えたメインキャラクターたちの選択によって、少しずつ様相を変えていく。



概要/感想(ネタバレなし)


10年以上前、正月で帰省した際に妹から借りてPSP版でプレイしていたのだけれど、そのときは時間的な制約があり、十分にやり込めず。
本編のストーリーも良い感じに忘れていたため、Steamのセールに乗じて再プレイしてみることに。

実写ではあるが、当時のハードのスペックなどもあって、静止画が主体。
台詞についてもテキストが流れるだけ、ということで、出演者は写真だけで演技をすることになっているのだが、これがなかなか侮れないもので。
表情だけでもストーリーを伝えられる演技力があるからこそ役者なのだな、と感心させられたうえ、CVの台詞を待たなくてよいので、自分のペースでシナリオを進められるという利点もある。
基本的にはバッドエンドを避けて、エンディングまで辿り着くことが目的のシンプルな構成だが、プレイするキャラクターの選択が、他のキャラクターに作用するというパラレルの設定が物語を立体的にしていて、没入感を高めながらゲーム性を維持しているのが見事だった。
トゥルーエンドまでのクリアであれば、難易度もちょうど良い。

そして、秀逸なのがシナリオ。
伏線としてはフェアに張り巡らされていて、スケールの大きい内容ではあるが、無茶も少ない印象。
おそらく、小説としてこのシナリオを読むのであれば、犯人の狙いも、黒幕の正体も比較的わかりやすいのだと思われるが、小謎が解ける=クリアではないのがゲーム。
そこに辿り着くまでの道筋を引くにはどうしたらよいか、といった楽しみ方も出来るので、なんら面白さは損なわれない。
主人公が切り替わっていくことで盛り上がっていく臨場感は、ゲームだからこその醍醐味だろう。



総評(ネタバレ注意)



一度プレイしていても、面白いゲームは面白いもので。
なんといっても、最終章に入っていく直前のスピード感。
ゲームとしては、一番難しいところではあるのだが、真相が少し見えてきたタイミングで、ジャックと建野が使用キャラクターに加わる展開は熱い。
建野=杖の男、というのは予想できてしまうところであるが、その目的はすぐにはわからないし、わかったところで、その後にこんな見せ場が用意されているなんて。

マリアを投入するタイミングも絶妙。
さすがに、この衝撃は忘れていなかったのだが、振り返ってみて改めて上手いと感じた部分だ。
ひとみは視点人物にはせず、マリアも正体が明かされない状態で登場するので、双子の入れ替えトリックがある可能性について考えさせる。
そのうえで、タマ=マリアの種明かしを中盤ですることで、入れ替えトリックがブラフだと強く思わせ、誘拐の目的がひとみにあった、という事実をカムフラージュ。
黒幕の正体にしてもそうだが、ベタをベタに見せない工夫が、緻密であるとしか言いようがない。

クリア後のおまけについては、ストーリーを補完する位置づけのシナリオと、ファンサービスの側面が強い隠し要素に分けられる。
前者は、普通にトゥルーエンドまで辿り着ければ問題なく見られるので、妥当な難易度。
本編で唯一ひっかかっていた鈴音のその後が描かれる鈴音編は、ちょっと演出過剰な気はするものの必要だったのは確かか。
カナン編も、アニメでの展開というところに賛否はありそうだが、過去の因縁を知ることができる。

一方で、後者は攻略サイトでも見ないとコンプリートは現実的ではなかったな。
御法川のスペシャルコンテンツは、カナン編の前に読むことで演出としての意味がありそうなのに、普通にプレイしていたら鈴音編とカナン編の間で隠し要素集めをするなんてことは考えにくい。
そうすると尻切れ感が出てしまって、唯一、メインキャラクターで後日談があるにも関わらず、ちょっと中途半端になってしまっているのが惜しい。
エコ吉編を仕込むのなら、もっと丁寧に他のキャラクターにもスポットを当ててアフターストーリーを展開してほしかった。
最後は作業ゲーになってしまった感はあるので、おまけの多さは嬉しい反面、本編の余韻が冷めない範囲での詰め込み方にしておいたほうが、ゲームの後味としては良かったりして。


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