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多様性と言えば何でもOKなのか?(地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案の調査:NHK党浜田聡議員のお手伝い)

はじめに

 みなさん、「多様性」って言葉は好きですか?たぶん、ほとんどの人が、「うん、当然」「多様性はみんなの個性を認めること!だから、OK」と肯定的な意見になるかと思います。今回は、その「多様性」に関するお話です。はじめに、「多様性」の定義を引用します。

いろいろな種類傾向のものがあること。変化に富むこと。「生物の—を保つ」

goo国語辞書「多様性とは?

生物多様性を巡る世界の動き

生物多様性

 まずは、「生物多様性」とは何でしょうか。生物多様性センターが、「生物多様性」について説明している箇所があるので、引用します。

生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。地球上の生きものは40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に適応して進化し、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとしています。

出典:「生物多様性とは何か

なんか、多様性のゲシュタルト崩壊を起こしていますが、生物多様性条約では、多様性を3つのレベルで分けています。生物多様性も細分化されているんですね。

参照:生物多様性センター「生物多様性とはなにか

生物多様性条約

 生物多様性条約は、1992年2月ブラジルで開催されたリオサミットを契機として、「砂漠化対処 条約」「気候変動枠組条約」とともに結ばれました。
条約を締結した目的として、「生物の多様性の保全」「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分」といった、生物多様性を守るために、先進国が途上国に対して、技術支援や経済的支援をしていこうということになります。

 第一条 目的

 この条約は、生物の多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用及び遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分をこの条約の関係規定に従って実現することを目的とする。この目的は、特に、遺伝資源の取得の適当な機会の提供及び関連のある技術の適当な移転(これらの提供及び移転は、当該遺伝資源及び当該関連のある技術についてのすべての権利を考慮して行う。)並びに適当な資金供与の方法により達成する。

第二条 用語

 この条約の適用上、
 「生物の多様性」とは、すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。
「生物資源」には、現に利用され若しくは将来利用されることがある又は人類にとって現実の若しくは潜在的な価値を有する遺伝資源、生物又はその部分、個体群その他生態系の生物的な構成要素を含む。
「バイオテクノロジー」とは、物又は方法を特定の用途のために作り出し又は改変するため、生物システム、生物又はその派生物を利用する応用技術をいう。
 「遺伝資源の原産国」とは、生息域内状況において遺伝資源を有する国をいう。
 「遺伝資源の提供国」とは、生息域内の供給源(野生種の個体群であるか飼育種又は栽培種の個体群であるかを問わない。)から採取された遺伝資源又は生息域外の供給源から取り出された遺伝資源(自国が原産国であるかないかを問わない。)を提供する国をいう。
 「飼育種又は栽培種」とは、人がその必要を満たすため進化の過程に影響を与えた種をいう。
 「生態系」とは、植物、動物及び微生物の群集とこれらを取り巻く非生物的な環境とが相互に作用して一の機能的な単位を成す動的な複合体をいう。
 「生息域外保全」とは、生物の多様性の構成要素を自然の生息地の外において保全することをいう。
 「遺伝素材」とは、遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材をいう。
 「遺伝資源」とは、現実の又は潜在的な価値を有する遺伝素材をいう。
 「生息地」とは、生物の個体若しくは個体群が自然に生息し若しくは生育している場所又はその類型をいう。
 「生息域内状況」とは、遺伝資源が生態系及び自然の生息地において存在している状況をいい、飼育種又は栽培種については、当該飼育種又は栽培種が特有の性質を得た環境において存在している状況をいう。
 「生息域内保全」とは、生態系及び自然の生息地を保全し、並びに存続可能な種の個体群を自然の生息環境において維持し及び回復することをいい、飼育種又は栽培種については、存続可能な種の個体群を当該飼育種又は栽培種が特有の性質を得た環境において維持し及び回復することをいう。
 「保護地域」とは、保全のための特定の目的を達成するために指定され又は規制され及び管理されている地理的に特定された地域をいう。
 「地域的な経済統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成される機関であって、この条約が規律する事項に関しその加盟国から権限の委譲を受け、かつ、その内部手続に従ってこの条約の署名、批准、受諾若しくは承認又はこれへの加入の正当な委任を受けたものをいう。
 「持続可能な利用」とは、生物の多様性の長期的な減少をもたらさない方法及び速度で生物の多様性の構成要素を利用し、もって、現在及び将来の世代の必要及び願望を満たすように生物の多様性の可能性を維持することをいう。
 「技術」には、バイオテクノロジーを含む。

出典:生物多様性センター「生物多様性条約

  社会の教科書でよく出てくる「リオサミット」で締結された「生物多様性条約」は、現在194か国とEU・パレスチナ(米は未締結)が締結国として、日々、生物多様性について議論されています。今や当たり前に言われている「バイオテクノロジー」「持続可能な開発」が1992年から世界に出始めたことが分かります。

参照:「リオサミット

昆明・モントリオール生物多様性枠組

 生物多様性条約が締結、1993年に発効されてから、2年に1 度の頻度で締約国会議(COP)が開催され、上記の3つの目的に対する議論や締結国間の政策的な決定を行ってきました。2010年には、愛知県名古屋市で締約国会議(COP10) が開催され、世界的な目標となる「愛知目標」が採択されました。「愛知目標」とは、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)で採択された、生物多様性の損失を止めるために設定した「20の個別目標」になります。20も目標があるので、引用が大変ですが、コンパクトにまとめたサイトがありましたので、そちらを引用します。

目標1

生物多様性の価値と、それを保全し持続可能に利用するための行動を人々が認識する。

目標2

生物多様性の価値を、国と地方の計画に統合し、適切な場合には国家勘定、報告制度に組み込む。

目標3

生物多様性に有害な奨励措置を廃止もしくは改革し、生物多様性に有益な奨励措置を策定し、適用する。

目標4

自然資源の利用を生態学的限界の範囲内に抑え、すべての関係者が持続可能な生産・消費のための計画を実施する。

目標5

森林を含む自然生息地の損失速度が少なくとも半減、可能な場合にはゼロに近づき、その劣化と分断化が顕著に減少する。

目標6

過剰漁獲が避けられ、回復計画を講じながら、絶滅危惧種や脆弱な生態系に対する漁業の深刻な影響をなくし、生態学的限界の範囲内に抑える。

目標7

農業、養殖業、林業を持続可能に管理する。

目標8

過剰栄養などによる汚染を、生態系や生物多様性に有害とならない水準にまで抑える。

目標9

侵略的外来種のうち優先度の高い種を制御し、根絶する。その導入や定着を防止するための対策を講じる。

目標10

サンゴ礁などの気候変動や海洋酸性化の影響を受ける脆弱な生態系への人為的圧力を最小化し、その健全性と機能を維持する。

目標11

生物多様性と生態系サービスにとって重要な地域を中心に、陸域および内陸水域の少なくとも17%、沿岸域および海域の少なくとも10%を、効果的な保護区制度などにより保全する。

目標12

既知の絶滅危惧種の絶滅を防止する。とくに減少している種の保全状況を改善する。

目標13

作物、家畜およびその野生近縁種の遺伝子の多様性を維持し、損失を最小化する戦略を策定して、実施する。

目標14

自然のめぐみをもたらし、人の健康、生活、福利に貢献する生態系を、女性、先住民、地域共同体、貧困層や弱者のニーズを考慮しながら、回復・保全する。

目標15

劣化した生態系の少なくとも15%を回復させることをふくめ、生態系の抵抗力および二酸化炭素の貯蔵に対する生物多様性の貢献を強化し、気候変動の緩和と適応、砂漠化対処に貢献する。

目標16

遺伝資源へのアクセスとその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書を、国内法制度に従って施行、運用する。

目標17

各締約国が、効果的で参加型の生物多様性国家戦略または行動計画を策定し、実施する。

目標18

先住民と地域共同体の伝統的知識・工夫・慣行を尊重し、条約の実施において考慮する。

目標19

生物多様性に関連する知識、科学技術を改善する。そして広く共有・移転し、適用する。

目標20

戦略計画を効果的に実施するための資金動員を、現在のレベルから顕著に増加させる。

※ここに示したのは簡潔な日本語訳です。もとの愛知目標は長い文章となっており、やや意味を把握しづらいため、この訳を用意しました。
環境省も日本語訳は仮訳としており、公式の日本語による愛知目標は存在しません。正確な愛知目標は、英文等を参照する必要があります。 (
生物多様性条約事務局「愛知目標(英文)」 

出典:WWFジャパン「愛知目標(愛知ターゲット)について

  うん、多い。それ以降、2019年、2020年における会議での議論や取り決めをしていきながら、2022年12月に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。具体的にどんな枠組みを採択したのでしょうか。

新枠組は、2050年ビジョン、2030年ミッション、2050年グローバルゴール、2030年グローバルターゲット、及びその他の関連要素から構成されています。2030年グローバルターゲットには、日本が特に重視している30by30や自然を活用した解決策などの要素に加え、進捗を明確にするために8個の数値目標が盛り込まれました。

なお、その他の関連要素として、新枠組の進捗をモニタリング・評価する仕組みである 「レビューメカニズム」も同時に採択されており、これまでの目標よりも更に実効性を高める仕組みが強化されています。

出典:生物多様性センター「昆明・モントリオール生物多様性枠組」 

 2050年ビジョン、2030年ミッション、2050年グローバルゴール、2030年グルーバルゴールなど、長期的なスパンで、生物多様性に関する数値目標が設定され、進捗状況をモニタリングし、レビューする仕組みも採択されました。その「2030年グローバルゴール」には、以下のような考慮事項が追加されました。

昆 明・モントリオール生 物 多様 性 枠 組(Kunming− Montreal Global Biodiversity Framework)は、生 物 多様性条約に限らず、他の条約や協定、枠組みとの連携促 進を図りつつ、過去の教訓に基づいて、先住民や地域社会 の貢献と権利の尊重、全政府的及び全社会的アプローチ、 人権に基づくアプローチ、ジェンダー・世代間衡平、生物多 様性と健康などが考慮事項として掲げられています。
(黒文字は筆者が加筆)

出典:生物多様性センター「昆明・モントリオール生物多様性枠組

  なんか既視感があるなと思っていたら、「あれ?SDGsじゃない?」ということに気づきました。いや、実際は違うのですが、なんか似たようなものを感じます。詳細の目標は、あまりにも多いので省略しますが、気になる方は、生物多様性センター「昆明・モントリオール生物多様性枠組」をご確認ください。

参照:生物多様性センター「昆明・モントリオール生物多様性枠組
参照:生物多様性センター「昆明・モントリオール生物多様性枠組

生物多様性を巡る日本の動き

生物多様性基本法

 生物多様性を巡る世界の動きを見てきましたが、日本の動きはどうでしょうか。まず、日本には「生物多様性基本法」という法律があります。生物多様性基本法」とは、「生物多様性の保全と持続可能な利用に関する施策を総合的・計画的に推進することで、豊かな生物多様性を保全し、その恵みを将来にわたり享受できる自然と共生する社会を実現すること」を目的としています。平成20年5月に成立し、同年6月に施行されました。生物多様性基本法には、以下の記載がなされています。

第四条 国は、前条に定める生物の多様性の保全及び持続可能な利用についての基本原則(以下「基本原則」という。)にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

出典:e-gov法令検索「生物多様性基本法

 国の責務として、基本法に明記されている基本原則に則った施策の策定及び実施を求めています。そこから、国は「生物多様性国家戦略」というものを策定していきます。

生物多様性国家戦略 2023-2030                ~ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ~

生物多様性国家戦略」とは、「生物多様性条約及び生物多様性基本法に基づく、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国の基本的な計画」です。日本では平成7年に最初の生物多様性国家戦略を策定し、これまで5回の見直しを行ってきました。現行の生物多様性国家戦略は令和5年に策定した第六次戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」となります。今回の戦略の大枠としては、以下のようになっています。

1.位置づけ
・新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に対応した戦略 ・2030年のネイチャーポジティブ(自然再興)の実現を目指し、地球の持続可能性の土台であり人間の安全保障の根幹である生物多様性・自然資本 を守り活用するための戦略
2.ポイント
・生物多様性損失と気候危機の「2つの危機」への統合的対応、ネイチャーポジティブ実現に向けた社会の根本的変革を強調
・30by30目標の達成等の取組により健全な生態系を確保し、自然の恵みを維持回復
・自然資本を守り活かす社会経済活動(自然や生態系への配慮や評価が組み込まれ、ネイチャーポジティブの駆動力となる取組)の推進
3.構成・指標
・第1部(戦略)では、2030年のネイチャーポジティブの実現に向け、5つの基本戦略と、基本戦略ごとに状態目標(あるべき姿)(全15個)と 行動目標(なすべき行動)(全25個)を設定
・第2部(行動計画)では、第1部で設定した25個の行動目標ごとに関係府省庁の関連する具体的施策(367施策)を整理 ・各状態目標・行動目標の進捗を評価するための指標群を設定(昆明・モントリオール生物多様性枠組のヘッドライン指標にも対応する指標を含む)

出典:生物多様性センター「生物多様性国家戦略2023‐2030の概要

 この国家戦略は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に対応したものであること、それに伴い、2030年の目標を意識していること、「ネイチャーポジティブ」「30by30」を推進していることが伺えます。具体的には、以下のようになっています。

第3章 2030年に向けた目標
第1節 2050年ビジョンの達成に向けた短期目標(2030年ミッション)
・ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現: 自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる

第2節 五つの基本戦略と個別目標
・5つの基本戦略
・基本戦略ごとに設定する2030年における目標: 状態目標(あるべき姿) 、行動目標(なすべき行動)
※各状態目標・行動目標は、我が国の状況及び昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえて設定

出典:生物多様性センター「生物多様性国家戦略2023‐2030の概要
参照:生物多様性センター「生物多様性国家戦略2023‐2030の概要」

ネイチャーポジティブ

 ネイチャーポジティブとは、「生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること」を意味します。2050年ビジョンの目標では「自然と共生する世界」を目指し、それを実現するための考え方が「ネイチャーポジティブ(自然再興)」です。日本では、2023年2月28日の第一回J-GBF総会において、J-GBFのコミットメントとして「J-GBFネイチャーポジティブ宣言」を発表しました。

参照:環境省「J-GBFネイチャーポジティブ宣言

30by30

 「30by30」とは、「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標」です。現在の日本は、「陸域20.5%と海域13.3%」を保護地域として保全しています。

参照:環境省「30by30

地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案

法案内容

 今回の法律案は、「ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現」に向けて、提出されたものです。では、どのような措置を講じるのか。以下、引用になります。

「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の実現に向け、企業等による地域における生物多様性の 増進のための活動を促進するため、主務大臣による基本方針の策定、当該活動に係る計画の認定制 度の創設と、認定を受けた活動に係る手続のワンストップ化・規制の特例等の措置等を講ずる。

出典:環境省「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案

 大枠として、「生物多様性増進活動実施計画等の認定制度の創設」「協定制度の創設」をあげています。

増進活動実施計画等の認定制度の創設

 認定制度の創設は、以下の条文が明記されています。

第九条
地域生物多様性増進活動を行おうとする者(連携地域生物多様性増進活動を行おうとする市町村を 除く。)は、単独で又は共同して、主務省令で定めるところにより、地域生物多様性増進活動の実施に関する計画(以下「増進活動実施計画」という。)を作成し、主務大臣の認定を申請することができる。

出典:環境省「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案」

 生物多様性増進活動を計画している者に対して、計画の認定制度を実施するとのことです。企業や市町村または行政と連携する団体が、計画を策定し、主務大臣に申請します。その計画を基本方針に沿って、主務大臣が精査し、認定するという流れになります。ちなみに、市町村の場合は、計画名は「連携増進活動計画」になります。「自然共生サイト」というHPがあり、先行事例として、2023年に認定された事業は184か所あり、詳しい内容が載せられています。また、認定を受けた企業や市町村は、その活動内容に応じて、「自然公園法・自然環境保全法・種の保存 法・鳥獣保護管理法・外来生物法・森林法・都市緑地法における手続のワンストップ化・簡素化 といった特例」を受けることができます。

参照:環境省「自然共生サイト
参照:環境省「自然共生サイト
参照:環境省「自然共生サイト

協定制度の創設

 次に、法律案では「協定制度の創設」です。以下、条文です。

第二十二条 
認定連携市町村は、認定連携増進活動実施計画の実施のため必要があると認めるときは、認定連携活動実施者及びその認定連携増進活動実施計画に係る第十一条第二項第二号に掲げる区域(海域を除き、生物の多様性が維持されている区域に限る。)内の土地又は木竹の所有者又は使用及び収益を目的とする権利(臨時設備その他一時使用のため設定されたことが明らかなものを除く。)を有する者(次項及び第二十六条において「土地の所有者等」と総称する。)と次に掲げる事項を定めた協定(以下「生物多様性維持協定」という。)を締結して、当該土地の区域内の連携地域生物多様性増進活動を行うことができる。

出典:環境省「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案

 認定を受けた市町村等は、土地所有者などと「生物多様性維持協定」を締結することができ、 長期的・安定的に活動が実施できるようになっています。土地所有者と協定を結ぶことで、行政による生物多様性の事業がよりスムーズになることが予想されます。実際に、これとは性質は異なりますが、地方自治体によって、生物多様性のパートナーシップなどを結んでいるところがあります。例えば、京都府京都市では「生物多様性パートナーシップ協定制度」が締結され、以下のような仕組みになっています。

1 京都府・京都市がきょうと生物多様性センターを通じて企業と保全団体をマッチング。

2 生物多様性保全に取り組みたい企業と保全団体、きょうと生物多様性センター、京都府・京都市が協定を締結し、協働で取り組む保全活動の内容や支援内容等を明記(企業が特定の保全団体との協定を希望しない場合には、協定締結後、別途支援先を調整)。

3 企業の支援内容に応じ、活動資材や資金を寄付。きょうと生物多様性センター及び保全団体へ資金等を提供。

4 資金等の支援を受けた保全団体は、地域の生物多様性保全の活動に取り組むとともに、支援を受けて実施した活動について報告。

 京都府・京都市は、協定の取組事項が円滑に進むよう連絡調整を行うとともに、取組に係る広報活動を行います(京都府・京都市やきょうと生物多様性センターのホームページへの掲載等)。

 また、きょうと生物多様性センターを通じて、助言や指導、技術的支援を実施します。

出典:京都市「きょうと生物多様性パートナーシップ協定制度について」 

 このような協定が日本全国の地方自治体で結ばれることになりそうです。

法案への質問

認定制度の創設で、民間企業の取り組みをどれほど推進させる見込みなのか。

 法案への質問として、生物多様性における民間の取り組みに、認定制度を設ける意味です。認定制度を設けることで、企業等の施策に付加価値をつける狙いはあるのでしょうが、民間企業の取り組みをどれほど推進させる見込みなのか。環境省に問いたいです。(ちなみに、私自身は生物多様性を実現するために、企業に対して、環境減税や環境事業に対する規制を改革することによって、自然と取り組めるようにすべきではないかと考えます)


生物多様性の取り組みの財源として、増税を推進させることはあってはならない。

 生物多様性の事業には、「生物多様性保全推進支援事業(交付金)」があります。交付金を貰える事業は以下のようになっています。

交付対象事業
①重要生物多様性保護地域等保全再生
自然公園法に基づく国立公園又は国定公園、自然環境保全法に基づく原生自然環境保全地域又は自然環境保全地域、鳥獣保護管理法に基づく国指定鳥獣保護区、ラムサール条約に基づくラムサール条約湿地、世界遺産条約に基づく世界自然遺産、ユネスコの人間と生物圏(MAB)計画に基づくユネスコエコパーク、環自計発第2303272号第2条に基づく自然共生サイトにおける生物の生息環境の保全再生のための事業

②広域連携生態系保全のための活動計画策定等支援
生物多様性地域連携促進法又は自然再生推進法に基づく計画の策定又は当該計画に基づく事業であって、地域の生物多様性の保全再生・生態系ネットワークの構築に係る広域の取組

③地域民間連携促進活動
生物多様性地域連携促進法に基づく地域連携保全活動支援センターの設置又は運営に係る体制の構築並びに同センターが実施する、地域・民間に対する連携のあっせん(企業と地域・NPO法人等とのマッチングを含む。)、専門家の紹介等の取組

④国内希少野生動植物種生息域外保全
種の保存法に基づく国内希少野生動植物種について、動植物園等が実施する種の保存に資する飼育・繁殖・野生復帰の取組

⑤国内希少野生動植物種生息域内保全
種の保存法に基づく国内希少野生動植物種について、地方公共団体や特定非営利活動法人、民間事業者等が主体的に実施する生息環境改善のほか、これに付随する分布状況調査・保全計画策定等の生息域内保全のための取組

⑥里山未来拠点形成支援
重要里地里山、都道府県立自然公園、都道府県指定鳥獣保護区、モニタリングサイト1000里地調査対象地、重要湿地、特定植物群落、国立・国定公園普通地域、自然共生サイト等の生物多様性保全上重要な地域における環境的課題と社会経済的課題を統合的に解決しようとする活動

出典:環境省「生物多様性保全推進支援事業(交付金)

 各事業ごとに、どのくらいの交付金が出されているか、自分の調査で判明しなかったので、不明ですが、「自然共生サイト内 における生息環境の保全再生」の事業は、「重要生物多様性保護地域 等保全再生」の事業対象とされ、交付率や交付額は「事業費の1/2以内」とされています。

参照:環境省「生物多様性保全推進支援事業(交付金)について

 今後は、認定制度や協定の締結が拡大することが予想される中、補助金の申請が増加することも考えられます。国として、財源確保のために安易な増税や規制強化をしないようお願いしたいです。申し訳ないですが、政府には、生物多様性に限らず、環境行政において「環境のためなら、何をやってもいい」という姿勢が垣間見えます。まずは、レジ袋有料化。レジ袋の有料化は2020年7月から開始されましたが、結局何をもたらしたのでしょうか。地球の環境は良くなったのでしょうか。二酸化炭素は減ったのでしょうか。(そもそも、二酸化炭素の増減がなんなんだという問題もありますが、、)森林環境税もそうです。森林環境税を導入して、日本はどうなったのでしょうか。目的やゴールも曖昧で、残ったのは、増税という制度だけです。具体的なゴールが曖昧なまま、「生物多様性のために仕方がない」という理由で、増税がなされるのは是非避けてもらいたいです。
 実際に、「生物多様性国家戦略2023-2030」において、「基本戦略4 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動(一人一人の行動変容)」があり、以下のような目標が掲げられています。

状態目標4-2 消費行動において、生物多様性への配慮が行われている
状態目標4-3 自然環境を保全・再生する活動に対する国民の積極的な参加が行われている

行動目標4-1 学校等における生物多様性に関する環境教育を推進する
行動目標4-2 日常的に自然とふれあう機会を提供することで、自然の恩恵や自然と人との関わりなど様々な知識の習得や関心の醸成、人としての豊かな成長を図るとともに、人と動物の適切な 関係についての考え方を普及させる
行動目標4-3 国民に積極的かつ自主的な行動変容を促す
行動目標4-4 食品ロスの半減及びその他の物質の廃棄を減少させることを含め、生物多様性に配慮した消費行動を促すため、生物多様性に配慮した選択肢を周知啓発するとともに、選択の機会 を増加させ、インセンティブを提示する

出典:環境省「生物多様性国家戦略2023-2030

  国民の生物多様性に対する行動変容を促す記述があるので、その勢いで、第二の「○○の有料化」「絶滅危惧種につながる恐れのある食品は販売禁止」など、新たな課税や規制が出てくることを危惧しています。


事業に対する評価方法を全自治体で統一するべきではないか。

 「自然共生サイト」では、数多くの事業が紹介されています。数多くの事業の計画を読んで思ったことが、「この事業にどれほどの資金をつぎ込んで、どの部分で多くのお金を費やしたのか?」ということです。そこの部分が非常に不透明だと感じます。地方自治体が新たな協定を結ぶことで、生物多様性の事業を進展させていく中で、事業内容の透明化を図ることは不可欠です。生物多様性基本法が平成20年に施行され、生物多様性地域戦略の策定が地方公共団体の努力義務になり、各自治体の生物多様性地域戦略が公表されています。目標は素晴らしいことをいっぱい書いていますが、評価項目や評価方法に差が見られます。中には、行政事業を評価する「事務事業評価」を行っていない自治体もあり、評価の面に関しては弱さが目立ちます。国家戦略の一つに、国民の行動変容を促すということを目指すならば、生物多様性に関する事業への定量的な評価制度は、全自治体で統一させるべきでしょう。理想的な評価モデルは、東京都府中市の事務事業評価です。事業に対する評価の部分をどうするのか、政府に問いたいです。

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/kekaku/gyosei/gyosehyoka/gyouseihyouka.files/fuc23b07a_e35administrative_evaluation.pdf


参照:府中市「令和4年度事務事業評価シート」

生物「人間さん、ほっといてくれ」

 最後に、私の考えを述べたいと思います。今、この瞬間も世界中、生物は活動しています。世界のどこか、絶滅したり、新しい命が生まれたり、、。

 みなさん、世界中では、「新種」の生物が日々出てきていることはご存じですか。そうなんです。絶滅危惧種もいれば、新種もいるのです。

 メコン地域では、224種の新種が発見され、中には「生息状況に関する情報が足りず、絶滅の危機にあるかどうかすら判断できない種も見つかっています。
 つまり、人間の知らない生き物が世界には山ほどいるのです。絶滅危惧種を声高に叫ぶのもいいですが、生物界は生物界で、新陳代謝を繰り返しているのではないでしょうか。地球環境の変化で、適応できずに絶滅をしてしまう生物もいれば、新しく誕生する生物、適応して生き残る生物もいるでしょう。それを無視して、「この生き物は守らないといけない」「この生き物は害獣だから、駆除する」なんて決めるのは、「生物多様性」ではないような気もします。ともあれ、生物多様性の推進のために、増税と規制強化をするのは断固反対です

 たぶん、世界中の生物たちが思っていることを代弁します。


人間さん、ほっといてくれ!!!!

参照:「白神山地の生き物たち「ホンドテン」」



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