「 EVの世をおもしろく 」

おもしろきこともなき世をおもしろく

これを詠んだのは、幕末の革命期に生きた高杉晋作だ。

今の自動車産業も、ガソリンを燃やし、振動と音と共に走りを楽しめた時代から、静かでクリーンなElectric Vehicleへの革命期にあると言っていい。
乗り物がEVになるとつまらなくなるのでは。というのが、エンジンに慣れ親しんだ多くのエンスージアストの疑念だと思う。
実はEVの先駆者テスラに乗せてもらった事で、車ではすでに全く新しい価値観の乗り物が出現していることが実感できた。
だが、バイクの様な趣味性の高い乗り物がどうなってゆくのかは、まだまだ先が見えない状況だ。

では、電動で趣味性が高いモノと考えると、まずミニ四駆が思い浮かぶ。
様々にパーツを組み合わせ自分ならではの工夫した車両で速さを競うことは、多くの子供から大人までを夢中にさせる。こういった規格化されたカスタムの容易さは楽しみの一つとなりうるだろう。

 次に思い浮かべたのはスピーカーユニットだ。最近の高性能なユニットは、大きく2つの方向性がある。
1つ目は今の主流で、振動板を強力な電力とマグネットで駆動、制動するダンピング重視の方向性だ。良い音を出すには大きな入力を必要とするが、今では大音量でもしっかりとした音を鳴らすことができる。しかし、それゆえにオーディオが大きく高価になっている側面もある。
 2つ目は、振動板も極限まで軽くし、抵抗となる要素を思い切って排除してゆくことで繊細な動きと音のリアリティを高めてゆく方向性で、MARK AUDIOのユニットがその代表例だ。そのマグネットは貧弱で、これで大丈夫なのか心配になるぐらいだ。しかし、このユニットを使って自作した2wayのスピーカーは、デスクトップで霧が晴れた様なすばらしい音を奏でてくれている。

 この2つの方向性は、バイクの大型車と小型車など、乗り物のカテゴリーの中で必ず存在するキャラクターに通じるものがあるように感じる。
さらに考えると、スピーカーは電気がコイルを流れて発生する磁界とマグネットの磁界の相互作用で振動板を動かす。この動く原理はモーターと一緒だと今更ながら気が付いた。スピーカーはメーカーごとにテイストがある。とすると、モーターの世界は独自の設計思想の元で、味をも創り出す余地が必ずあるに違いない。
味のあるモーターと独自の車体設計が共鳴しあう様な乗り物が出てきたとき、EVにも楽しくもマニアックな世界が開けてきそうだ。

今書いたのは趣味からのインスピレーションでしかないが、それに形を与え、エンジニアと刺激しあい、夢を実現に近づける事ができるのがデザインならではの醍醐味だと言える。

( プロダクト動態デザイン部 シニアディレクター 太田 裕之 )

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