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韓国の化粧品を使っている

 化粧品に凝る時期と凝らない時期がある。凝らない時期は主に夏と冬で、スキンケアに時間をかけると体力が消耗されるので、化粧水をスプレーしてからクリームを塗って終わりだ。その他は何もしない。シートマスクパックなんてもっての外だ。
 春と秋は気持ちにも体力にも余裕があるので、色々と凝っている。まず朝は化粧水をスプレーして手のひらで丁寧に押さえてから美容液を塗る。それけら軽いつけ心地のクリームを優しく塗る。夜は化粧水の次にシートマスクパックだ。これはルルルンプレシャスマスクを愛用している。鎮静作用のある緑のパックを毎日使い、お肌はぷるぷるになる。仕上げはやはりクリームだ。

 最近はこの美容液とクリームを韓国のものにしている。
 クリームはVTのシカクリーム。緑色の透明がかったクリームで、つけ心地が軽くて優しい香りがしてよい。美容液は魔女工場のガラクナイアシン2.0エッセンスを使っている。塗っているときだけだが、肌がぷるぷるになるので愛用している。
 ルルルンプレシャスマスクが店頭からよく消えるので、時には夜のシートマスクパックも韓国のVTの緑のシートマスクパックを使っている。
 実はリップティントも韓国のものを使っている。ロムアンドのジューシーラスティングティントは、ものを食べても色だけは残るので重宝している。

 実は以前、私は韓国の製品を見るたびに「韓国ねえ……」と微妙な気持ちになっていた。カタツムリクリームだとか毒蛇クリームだとか、生薬にこだわるイメージのある韓国の基礎化粧品。生薬はある程度なら効くと思っているし信頼していないわけではないが、化粧品にそれを用いる感性が好きではなかった。やはり外国だなあ、と思ったのだ。
 音楽も、私はBoA世代だがさほどハマった記憶がなく、次々に日本にやってくる韓国のアイドルもピンとこなかった。母が東方神起にハマったときも、友人がBIGBANGに夢中だったときも、ふーん、と静観していた。
 映画も『弓』という韓国映画が好きで、いいなと思っていたが、のちに監督が性暴行で訴えられ、国から逃亡してその先で亡くなった件を見て一気に醒めた。
 私が韓国の文化を好きになることはないのか……。そう思っていた。

 ところで、私はアジアの国に行くことに興味があった。
『ももこの宝石物語』で知った台湾。温かい気候の地域で、夜市が楽しそうで行ってみたかった。
 中国にも興味があった。これは一度中国に修学旅行に行ったからで、広々とした大地と羊飼い、北京動物園の柳並木、お土産屋の漢方薬の山など、印象に残っていて他にも行きたいところがあったからだ。
 東南アジアも楽しそうだ。シンガポールがどのような感じか興味があった。どんなふうに清潔なのか?
 しかし韓国にはしばらく興味がなかったのである。それは私の世代が日本と韓国と反目しがちな時代に思春期以降を過ごしたからかもしれないし、たまたま見た韓国の文化が興味を引かれなかったからかもしれない。オルチャンメイクだとか韓国ドラマだとか、周囲が夢中になる間に、私はずっと静かに目を泳がせていた。そんなにいいかな?韓国って。

 しかし、このところ私は韓国に行きたいし韓国のミュージシャンも好きなのである。韓国の化粧品を使うし、韓国のゆるふわな女の子のセンスにもよさを感じてしまうのである。

 化粧品は、日本や海外ブランドのプチプラティントがイマイチ合わないことがきっかけだった。もちろん五千円以上出したら満足なティントがあったのだろうが、そんなお金はもったいないし、何より五千円のティントは田舎のショッピングモールにはなかった。このまま質感のもったりしたティントか、すぐ落ちるティントを使わなければならないのか……。
 ロムアンドのティントがいいと、フォロワーもネット記事も揃って言っていた。仕方ない、買ってみようと思って買ってみた。
 それ以来ほとんどロムアンドのジューシーラスティングティントしか使っていない。もちがいいし、見た目も色も好みで、質感も気にならないからだ。

 音楽に関しては、元々エッセイストでミュージシャンのイ・ランの音楽を聴いたことに始まる。Twitterで彼女の曲が紹介されていた。「世界中の人々が私を憎み始めた」という曲だ。その訥々とした語りのような曲、特に歌詞に惹かれた。わっ、すごい、と思った。世の中には自分の独特の感覚をこんなに当たり前のように世界に差し出せる人がいるんだ、と。
 そこから彼女の関連のミュージシャンをSpotifyで探した。今ではLee YerinやMeaningful Stone、Mingginyu、Yoon Jiyoung、Youra、SE SO NEONなどたくさんのお気に入りがいる。彼女たちは基本的にソフトな声で歌う、アイドル路線やダンスミュージックとは違うシンガーソングライターである。何だ、私は韓国の音楽を発見していなかっただけだ、と思った。

 韓国の物を使って韓国の音楽を時折聴いたりすると、それまで興味のなかった韓国に親しみを感じるようになった。そこで、ふと私は石川県出身の少女を主人公とした漫画『スキップとローファー』を思い出した。
 石川県出身の主人公、岩倉美津未は純粋で明るくて努力家で、好感の持てる少女だ。誰もが美津未のことを好きになる。漫画の外の読者だって。
 今回の能登半島地震は彼女が自分の故郷として帰省するシーンが印象的な地だ。誰もがフィクション世界の住人である彼女のことを想った。彼女の故郷のことも。
 私も今回初めて石川県に寄付をした。元々行ってみたい地域ではあったが、漫画で読んだがためにそうしなくてはならない気がしたのだ。

 韓国然り、能登半島然り、その国や地域の物や人を近くに感じ続ける。それはその場所の文化を受け入れる素地を作り、おおらかな優しい思いを抱けるようになる最も柔らかいやり方なのかもしれない。


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