大阪弁護士会による、若手弁護士の「タダ働き」を「強制」する「『共同受任弁護士』制度」創設に反対する

1.はじめに
部外者にはたいていなんのことか分かりかねると思いますが、私が所属する大阪弁護士会は、2019年4月から「分野別登録弁護士」制度を始めようとしており、その運営を行う「登録センター」に関する規程(の議案)を来る2019年3月12日の臨時総会に諮ろうとしています。
「共同受任弁護士」制度とは、これにともなって設けられる予定の制度です。もっとも、今回の総会で諮られる議案にはこの制度は直接登場しません。今後、規則を定めて設けられる予定になっています。
本稿は、おもに同業者(弁護士)向けに、この制度がいかにヘンテコなものになっているか知っていただきたい、同会の弁護士には来る臨時総会で反対票を投じてもらいたいという呼びかけの目的で書かれています。

制度の詳しい内容は、次のツイートに添付した議案を見ていただければよいと思います。


2.本制度の制定に関する経過の問題
まず、議論の前提として会内の情報開示はどうなっているんだ、という問題を指摘しておきたいと思います。

当然ながら、この制度はあくまで「予定」に過ぎず、今度の臨時総会で議案が否決されればさしあたっては雲散霧消することになります。

ところが、私(なお、私は会務にほぼノータッチの負担金支払い組であることを前提に)がこの問題を知ったのは、2月4日に、他会の弁護士が、ツイッターで「大阪弁護士会の制度では、登録弁護士の持ち込む事件を実務経験要件を充たさない弁護士に共同で受任させる場合、登録弁護士の報酬総取りになるそうだ」とつぶやいていたのが最初で、それまでそういう話は一切流れてきていませんでした。

この議案書が配布されたのは、2月21日です(レターケースでの配布なので多少の誤差はあると思います)。

これに先立ち、会報誌「月刊大阪弁護士会」1月号が1月31日に発行されているのですが、この中で(たぶん)初めて「分野別登録弁護士制度が始まろうとしています」と題する記事がありました。そして、「今回から3回連続で、『制度の概要、研修要件、実務要件』(今号)、『共同受任弁護士制度、OJT』(2月号)、『システム、登録方法、表示内容』(3月号)について説明させていただきます。」と書かれています。

・・・さて、2月号は2月28日発行です。3月号は3月31日発行(予定)です。
・・・総会は3月12日です。
・・・「はじまろうとしています。」だそうです。
この記事は「専門分野登録制度立上げワーキンググループ」の手になるものだそうですが、このグループは「総会の決議で議案が可決されて経て初めてスタートする制度」であることをうっかり忘れているのではないでしょうか?
この種の記事は、「総会に先立って、提案されている制度の趣旨を説明するもの」か、「制度が開始された後、その内容を会員に周知するもの」かどちらかであるべきで、「ワーキンググループ」によって勝手に制度を始められたのでは会員はたまりません。いつもどういう記事の書き方をしているのか私は知りませんが、これが適切な書き方だとはとても思えません。

というわけで、議案書が来た段階では、「共同受任弁護士」制度について議論をしようにも議案書以外に議論の素材がなく、2月号がきてやっと内容が少しだけ補充されました。

3.「分野別登録弁護士」制度自体への疑問
次に、この「分野別登録弁護士」制度自体の当否も大いに疑問のあるところですが、(これは当業界向けの記事なので)そこは基本的に割愛し、必要なところだけ触れます。

ちなみにこの制度は、さんざん「弁護士の専門性に関する情報を知りたいとのニーズ」に応えるための制度であると強調されているのに、弁護士会が弁護士の「専門性を認定する制度」ではないので、「専門」を標榜してはならず、「大阪弁護士会離婚分野登録弁護士」みたいに名乗らないといけないそうです。なんのこっちゃ。

この制度では、「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」の4つの分野でスタートするものとされています。

登録要件は次のとおり。
(1)弁護士登録期間が3年以上であること。
(2)保険金額1億円以上の弁護士賠償責任保険に加入していること。
(3)専門研修を登録申請前3年以内に3件以上受講すること。
(4)当該登録分野の実務経験を登録申請前3年以内に3件以上処理していること。

(1)と(2)はまあいいとして、(3)と(4)が実質的な専門性にかかる要件であるわけですが、さて、そもそもこの程度で「専門」といえるほど「専門」性が高まるかというと、「やったことがないよりはマシ」程度のような気がします。登録は3年間有効(登録していることを開示できる)なので、登録後も同じペースで研修と事件を受けていれば継続的に登録できるわけです。

この件数のカウントの仕方は、「自ら代理人として活動した」ことが必要なので、「例えば、共同事務所などにおいて、単に委任状に名前を連ねただけのケースについては、『自ら代理人として活動した』ことにはなりません」と説明されています(1月号15頁)。
これもずいぶん微妙な話で、じゃあ、主担当以外で、1回代わりに法廷に出ていればいいのかというとダメでしょうが、じゃあ半分くらい一緒に行っていましたとか、兄・姉弁として起案をチェックしていましたとかそういうのはどうなのでしょうかみたいな話は必ず出てくるでしょう。

4.「共同受任弁護士制度」について
さてここからが本題です。
研修はともかくとして、若手弁護士にとっては、3年以内3件という実務要件をクリアすることが難しい場合があり得ます。登録できないとクライアントにアピールできず、より受任できないというスパイラルも(そこまで影響力のある制度になるかも疑問ですが)考えられます。
そこでこの「共同受任弁護士」制度を設けるのだというのが今回の案です。要するに、登録弁護士(既に名簿に登録されている弁護士)と、共同受任弁護士(まだ名簿に登録されていない弁護士)を組ませて、OJTで経験を積ませ、この実務要件のカウントをみたしてもらおうということです。
この制度自体は、別に何か問題というものではないと思います。十分かどうかはともかく、若手に対する配慮ということで一応了承できます。

問題はその報酬の取り方です。

なぜかこの制度では、
「共同受任弁護士の持ち込み事件では、共同受任弁護士と登録弁護士が報酬を折半(50:50)」
「登録弁護士が自ら受任した事件では、報酬は登録弁護士がすべて取得(100:0)」
と定められています。厳密にいうと別にまだ定められていないのですが、そうするつもりであるということがとても明確に示されています。

要するに、登録弁護士が共同受任弁護士に事件を共同受任させてあげた場合、共同受任弁護士は、その事件の報酬は一円ももらえない「タダ働き」になるということです。

これが、単なる「見学」程度でいいのであれば、「タダで見学できるんだからそれで結構」ということもあり得なくはありません。
ところが、本制度では、前述した「自ら代理人として活動した」ことが必要なはずですから、「見学」程度では要件を充たさないことは明らかで、手を動かさないとカウントにならないのです。それは「タダで」というのです。

他方で、共同受任弁護士が持ち込んできた事件については、上記のとおり、共同受任弁護士が主担当となって事件を処理するはずであるのに、登録弁護士は、必ず報酬の半分をもらうことができます。極端な話、登録弁護士のほうは委任状に名前を連ねた程度でも報酬折半になるわけです。

いったい何なんでしょうかこの制度は。

そもそも、共同受任である以上、報酬の配分は(もちろん依頼者の了解を得ることが大前提として)当事者間で自由に決めたらいいのが原則であって、なぜ会がここに口を出さないといけないのかと思うのですが、この議案書や会報では、当事者間の協議で報酬等の配分割合を変えることすらまったく予定されていません。登録弁護士のほうが親切で共同受任弁護士に報酬を取らせてあげることすら「不可」とされているようです(可ならそういう注記が普通あるでしょう)。

むしろ、登録弁護士のほうが、共同受任を「させてあげる」という優位にあるわけですから、会が口を出すとしたら、登録弁護士の「取り過ぎ」規制でしょう。例えば、「報酬等の分配は両者の協議により定める。ただし、登録弁護士が取得する報酬等は、依頼者が支払う報酬等の総額の2分の1を超えてはならない」とでもしたらどうでしょうか。

そんな「割の悪い」条件では、登録弁護士は事件を共同受任に回さないというわけでしょうか。そういう性悪説に立つのであれば、そもそも「共同受任弁護士」制度自体が絵に描いた餅でしかないように思います。

2月号20頁には、わざわざこの点の説明が付されています。少し長く引用します。
「前者の場合(引用注:登録弁護士の受任事件の場合)も、分野別登録弁護士と共同受任弁護士の間で報酬等を折半するという考えもあるかもしれませんが、この共同受任弁護士制度は、分野別登録弁護士において、実務要件を満たしていない共同受任弁護士のために分野別登録弁護士に自ら受任した事件を共同受任してもらう制度であり、共同受任弁護士も分野別登録弁護士の指導のもと実務経験を積むことができることを考え、上記のとおり、すべて分野別登録弁護士が報酬等を取得することにいたしました。
この分野別登録弁護士制度は、大阪弁護士会の会員情報を市民に提供する制度であり、分野別登録弁護士は本制度により、一定の利益を享受することとなりますので、是非とも、共同受任弁護士のスキルアップにご理解とご協力をお願いしたいと思います。」

なんというか、「登録弁護士というのはずいぶんエライんだな・・・」と思わずにいられません。会がわざわざ「若い人に事件を回してあげてください。報酬はあなたが全部とっていいですから。若い人はそれで勉強になるからタダでいいって言いますから」みたいなことを言って、言うだけでなくそういう制度を作ってくれるわけです(そうとしか思えません)。

仮に二、三歩譲って、「最初の1件はタダで」とか、「登録したてではまだまだ右も左もわからないから」というなら、まあ分からなくもありません。しかし、それなりの報酬が見込める事件を3件もタダでやらないといけないというのは何なんでしょうか。また若手といったって2年目、3年目ともなればそれなりに一丁前に(登録弁護士におんぶに抱っこでなくても)事件処理はできるはずで(でないと困ります)、そんな弁護士にまで「タダ働き」をさせるのでしょうか。

逆に、登録弁護士にしてみれば、この制度は、1人あたり4分野×3件=12件もの事件を若手に「タダ働き」で処理させる機会を与えることになります。

しかも、本件の深刻なところは、「そういうタイプのボス弁」も散見されるので若い人にも気をつけてもらおうといった話ではなく、なぜか会によって公的にこんな強制報酬分配制度が設けられようとしているということです。個々の弁護士にはいい人もそうでない人もいるわけで、それは会全体としてはある程度仕方ないことだと思いますが、何も会自身が進んでそんなやり口に乗っかることはないでしょう。

5.最後に
 長くなりましたが(読んでくれる人がいるのか分かりませんが)、現在、会が設けようとしている「共同受任弁護士」制度についての批判を述べました(正直、わけが分からなすぎて、私が何か根本的に誤解していて恥をかくのであればそのほうがいいと思います)。これがセットになっている以上、私としては「分野別登録」制度にも反対票を投じようと思います。同調してくれる方がおられれば幸いです。


6.追記

一目で分かりやすいよう、タイトルを加筆しました(2019.3.2)。

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