桃とカミツレ


りんりんと 咲き誇る「希望」は
すでにここにあって走り
「戸惑い」が伴走する
今、エイッとそれらを出しぬいて
透明にひとり
全速力で、駆けだしたなら

またたくまに ひらける 景色は
確信の草原だ
朝露がぱちぱちと 素足を濡らす
あの本当のことが
わたしのすべてになったみたいに
心安く あかるい
すこしくして ベルベットのような「恐怖」が草原にさみしく影をおとす
あやしく燃えだす ひとつ星
むこうの畑道
鵺の海原 さんざめく
「思い出」は できたての金平糖のように
きらきら
ころころ
果てしなく
地平線から おびただしく こぼれあふれ
追ってくる
痛みのなかで涙をながし
その星巡りを 見送る
星々のどれひとつとして 愛すべきでないものはなく
どれひとつとして  とどめたくない

静かになる
すべて 行ってしまったから
すると 新鮮な「やさしさ」が温泉のようにあたたかく湧きいでて
あたりを満たしゆく
にわかにゾッとして 体がとけてしまった
誇りたかい 大きな空は
あかつきかしら
たそがれかしら
白い月よ
ただ ぼんやりと ふたつの鏡にうつす
からっぽの心にとどけるために
ふと どこからか
桃とカミツレの香りがはこばれてきて
ふりむくと
おぐらい森の 奥のほう
奥のほうから
せつなげなため息がひとつ
きこえた









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