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水沢まつりという女

サブロウタ先生作、最高の百合漫画「citrus」に出てくる水沢まつりちゃんをご存知だろう、ご存知だよな?

まつりちゃんへの感情が限界なので、ここに水沢まつりという女に関して考察していこうと思う。citrus+ 2巻終了時点での考察とする。カッコ内の数字は実際にその描写が出てきた巻数とページ。(3-15)なら3巻15ページ、(+2-24)なら+の2巻の24ページ。

☆水沢まつりの恋愛観

水沢まつりといえば谷口先輩に「どこまで性欲の化身なんだよ」と言わしめ(+1-13)、エッチなサイトで金を稼ぎ(3-18)、作中の下ネタの10割を独占し、あまつさえ主人公2人とキスを交わした(3-40, 3-74)女だ。

恋愛観としては柚子ちゃんとは対照的に「愛情表現=セックス」というメンヘラ的思考をしており、柚子芽衣のピュア交際ぶりにおなかさんを痛めるほどである(+1-78)。

怒らないで聞いてほしいのだが、これをメンヘラ的思考と呼んだのは、これが人からの愛に飢えた人間に多い思考だからである。人からの愛に飢えるが故に、目に見えない愛というものが信じられず、実際に行為として目に見える形の愛であるセックスというものに依存してしまいがちになる。メンヘラビッチの生き方はこれが原因だ。なお、便宜上メンヘラ的と名前を付けただけで、まつりはメンヘラではない。

この愛に対する飢えからくるメンヘラ的思考というのは、1巻帯で「黒髪ビッチ」と称される芽衣さんにも共通した思考であり、セックスをキスに置き換えれば、柚子ちゃんと付き合う前の芽衣さんも同じことをしていたのが分かるだろう。ここが芽衣さんがまつりを「あなたは私と似ているわ」と評する所以である(3-143)。

しかし、そもそもなぜまつりは「周囲を恨み心を閉ざして」(3-144)しまっているのだろうか?本編では両親が不在がちなことくらいしか描写がないが、それだけだと何か不足を感じる。そこで、まつりの恋愛経験、性経験を考察してみる。

「知らないおじさんにヤられちゃう」ことに対して良くないことだという意外にも常識的な性倫理を持っていることが判明しており(3-145)、少なくとも援交などを行っている線は薄いだろう。(余談だが、水沢まつりは『円光してそうなアニメキャラランキング』に2018年11位、2019年20位にランクインしている)

しかし、柚子ちゃんよりは恋愛経験が豊富であるという描写が少なくない。それなりの恋愛経験はあるはずだ。

考えられる可能性としては、過去に周囲の異性といわゆる普通の恋愛をしてみたものの、そこに何らかの虚無感を感じてしまったということではなかろうか。芽衣さんと雨宮ほどの酷いものではなかったかもしれないが、単純につまらなかったとか、そういうことで良い。他にも、周囲の恋愛の悲惨な結末を見てきたのも大きいだろう。(2-153)

これらが今のまつりの「世の中からっぽな人ばっかり」観を作り上げる一因となっているのだ。

そうすると、作中で異性への興味を一切示さないことや、目に見えない愛が信じられずに即物的なものに愛を求めてしまうメンヘラ的思考にも説明がつく。

これも、1巻での雨宮との一件の後、目に見える愛を求めて柚子ちゃんにキスをした芽衣さんと共通する価値観だ。

よって、ここから現状想像できるのは、「一度は異性と恋愛をしてみて事に及んだこともあるが、虚無感を覚え、心を閉ざした」、つまり一応恋愛経験はあり非処女だが、本当の愛は得られず飢えているという線である。

☆水沢まつりの洞察力

水沢まつりはちょっと引くくらい洞察力が鋭い。

・プリ一枚で柚子ちゃんが芽衣さんに恋していることを見抜く(3-31)

・5巻まで隠されていた谷口先輩のステルスギャルを3巻の時点で見抜いている(3-161)

・はる柚子の行動を読んで先回りする(本人曰く「すこし考えればわかること」)(8-21)

・はる柚子の登校ルートから寧音さんの隠れ場所を見つける(+1-46)

・テンチョーが藍原家と会っていることを電話だけで見抜く(10-113)

・氷上さんが桜庭さんに抱いている気持ち、およびそれが原因で校則に執着していることを見抜く(+2-95)

藍原学院に首席で入る(10-10)ほどの頭脳が成せる技なのか、世の中を俯瞰で見る姿勢が成せる技なのか。

しかし的確であるが故に相手の神経を逆撫でしてしまうのか、喧嘩になることも。

☆水沢まつりの行動原理

水沢まつりは「世界一カッコいい負けヒロイン」である。

芽衣さんに「負けた」後でも(勝ちとか負けとか安っぽい言葉でくくってはいけないのだが)、本気で二人の幸せを願い応援している。芽衣さんの許嫁問題を知るや否や塞ぎ込み、本気で悩んでいることからも(9-43)、心から彼女らの幸せを願っていたことが分かるだろう。10巻での活躍ぶりに関してはカッコいいとかいうレベルではない。

上述の洞察力により、谷口先輩が柚子ちゃんに好意を抱いているらしいことも見抜いており(3-160)、同時にそれに向き合わない谷口先輩をもどかしく思い、背中を押すような言動も目立つ(10-12, +1-56)。

実際のところ、「柚子ちゃんが喜んでくれたらそれで……」という本音(8-115)からも分かる通り、柚子ちゃんや谷口先輩が幸せなら自分は割と二の次でよいタイプで、それがまつりの行動の根底にある。

芽衣さんが柚子ちゃんを幸せにしてくれると信じたからこそ芽衣さんに恋路を譲り、芽衣さんが許嫁問題を柚子ちゃんに黙ったまま指輪を受け取ったことに怒ったのである(9-18) 。

ただ、一心に姉達の幸せを願うあまりに氷上さんの件で暴走し、柚子ちゃんに怪我を負わせてしまった。これにまつりは大きな罪悪感を感じ、行方をくらませてしまったのではないか(+2, 154)。そろそろ誰かが今度はまつりの幸せを考えてあげなければならない。

☆水沢まつりと柚子ちゃん

水沢まつりは元々かなり人見知りタイプであったことが柚子ちゃんから語られている(8-91)。まつりの今の社交性は、柚子ちゃんによって培われたところが大きいだろう。柚子ちゃんはまつりにとって全てだった。

柚子ちゃんに対して割と昔からスキンシップが激しかったり(3-52)、「柚子ちゃんが好き」と公言している通り、柚子ちゃんに対しては明確な恋心を持っている。(3-30)

しかし、異性愛が普通だとされているcitrusの世界観においては、それを「恋」だと認めるにはいくらかの葛藤がまつりの中にもあったはずだ。ちなみにこれは柚子ちゃん(1-105)や氷上さん(+2-143)も通った道である。

ここからは想像になるが、まつりの場合柚子ちゃんへの想いこそ恋なのだと自覚した瞬間は、上記で普通の異性愛に対して虚無感を感じたタイミングだったのではなかろうか。

しかし、その時点ではまつりも柚子ちゃん自身も柚子ちゃんが異性愛者だと思っていたわけで、ついに柚子ちゃんが引っ越すまで想いを伝えることは叶わなかった。

しかし、久々に会った柚子ちゃんはどうやら同性の義妹に恋をしていることを知る(3-22)。これはまつりにとって強大なライバル出現であったと同時に、自分の恋も叶うチャンスの到来であったのだ。

現に、例のプリを見た直後から柚子ちゃんへの猛アタックが始まっており、恋敵の「ルールに縛られた生徒会長さん」の排撃に打って出ている。

なお、どのタイミングで谷口先輩が柚子ちゃんに恋をしていると気づいたのかは定かでないが、少なくともゲーセンからカラオケに向かう時点で「谷口先輩は帰ってもいいですよ」と暗にライバルを排除しようとしていた可能性がある(3-24)。プリを見てからここまではたったの2ページ。恐るべき洞察力と行動力である。

ちなみに当の柚子ちゃん自身は意外とまつりの機微には疎く、まつりが愛に飢えていたことに気づいたのは芽衣さんであるし(3-126)、今でもどちらかというと最初にまつりを気にかけるのは谷口先輩の傾向がある。

☆水沢まつりと谷口先輩

まつりは谷口先輩が柚子ちゃんへの想いに向き合わないことをかなり気にかけており、谷口先輩も意外とまつりの機微に疎い柚子に代わって、まつりのことをかなり気にかけている。本人の前以外では、だが。

柚子ちゃんが「柚子お姉ちゃん」(8-88)であり、その他年上も芽衣さん、まゆげちゃん、寧音さん等と呼ぶのに対し谷口先輩はどこまでも「谷口先輩」であり、妹ではなく後輩としてかなり懐いている様子が伺える。(ちなみに旅行中のみテンションが上がったのか「谷口センパイ」「先パイ」「そこのおっぱい」などのバリエーションが出る)

対して谷口先輩はまつりのことを「お前」「あいつ」「こいつ」と呼んでおり、やはりまつりには妹というよりはやんちゃな後輩、悪友として接していて、実際に芽衣奪還作戦に際し「こいつ連れていきな」と進言する(10-118)ほどの信頼を見せているし、まつりの泣き顔を見て咄嗟に顔を隠してやる(9-19)などの先輩然としたカッコよさも目立つ。事あるごとにまつりの心配を口にするのもさすがは谷口先輩である。

お互いかなり気になる存在であることは確かだが、実のところここまで谷口先輩⇄まつりどちらの方向に関してもハッキリとした「恋愛感情」の描写がない。

谷口先輩が自分の感情に対して逃げの姿勢を取るステルスギャルであることと、まつりが基本的に自分の恋路を譲って相手を応援する負けヒロイン体質であることが重なり、お互いがお互いにとって何なのかということがお互いの中ですら確定していないのだ。

+2巻の表紙を二人で飾ったり、特典内では冗談でも彼女を自称するなど、明らかに準公式カプと言ってもいいほどの描写が見られながらも、結婚前提の柚子芽衣に対してその実かなり不安定で、百合カプの恋愛という枠に収めるにはあまりにもデカい感情が錯綜しており、この信頼関係が崩れた+2巻は、まつはるにとっても大きな転機であろう。谷口先輩が「あいつ」をどう救ってくれるのか、期待と不安が残る。

ちなみに三人称でまつりのことを「あいつ」と呼ぶので、その後に「まつり?」と聞き返される場面が2回くらいある。

☆水沢まつりと芽衣さん

上述のとおり、他人の愛に飢えていたという点では芽衣さんとまつりは似ていたため、それを察した芽衣さんが柚子ちゃんに「あの子と会ってあげて」と頼む(3-125)など、恋敵として戦いつつも同時にまつりが救われることを願っている描写が見られる。

上述のとおり芽衣はキスを目で見える愛の表現として重視していたわけなので、まつりへのキス(3-74)は愛に飢えているまつりに愛を与えてあげる意味もあったのかもしれない。伝わらなかったが。

☆水沢まつりの髪色

citrusの各キャラは黒髪も多いが、ポスターなどで黒髪キャラがカラーで描かれる場合、独特の色のハイライトが入ることにお気づきだろうか。まゆげちゃんは赤紫、谷口家には赤、白帆先輩・丸田には緑、寧音さんには黄色などが入り、まゆげちゃんの場合は遠目から見た時に全体的に赤紫に見える。

ただし、アニメ版では色付きのハイライトは入らず、ハイライトだった色が全体的な髪色として残るのみである。例えば黒髪に赤が入る谷口先輩はアニメだと全体的に赤毛っぽくなるし、漫画版で黒髪+緑ハイライトの白帆先輩がアニメに出ると全体的に緑がかった髪色になることが予想できよう。

この色は別の記事でまとめるとして、他ならぬ水沢まつりも元は黒髪であることがアニメで明かされた。黒髪のまつりはアニメにしか出てこないのだが、アニメのまつりの黒髪はほぼ無彩色で、ハイライトの色が想像できない。

しかし、ここでヒントになるのが目の色だ。実は、citrusにおける各キャラの目の色とハイライトの色は、大抵の場合同系統に統一されている。そんな中まつりはピンク髪に青い目と、かけ離れた色をしているのだ。

つまり、ここからまつりの素の髪色は青味のハイライトが入った黒髪であることが推測可能である。

ただし、先生の画風の変化もあり割といろんな色がバラつくので、あくまで大まかな参考程度に留めてほしい。特に最近のカラーページは、線状の「ハイライト」というより面状の「光沢」のような描き方になってきている。本編内の線画についても、3巻と10巻を見比べてみると髪の描き込み方などは特に変化が著しい。

☆まとめ

推しが行方不明のまま巻が終わった……つらすぎる……
た、助けてくれ

早く幸せになってくれ。。。


ところで、氷上さんは校則校則言う割に髪青いですよね……?タチバナ姉妹以外はみんな髪色は現実的だったし(水沢まつりも素は黒髪なので)、タチバナ姉妹も海外の血が入ってるで説明つきそうなもんだけど、氷上さんのあれは一体どういうことなんでしょうね……


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