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龍宮城FCLIVE 「JAPANESE PSYCHO」の衝撃ードレスコードは”戦える服”ー

※注意事項※
龍宮城FCライブ「JAPANESE PSYCHO」21日1部のネタバレを含みます。

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思えばあの時から、戦いは始まっていたのかもしれない。

「ファンクラブ限定ライブをやります。」
「場所は代官山UNiT。」
「ドレスコードは、戦える服です。」

限定ライブ?
代官山?
タタカエルフク?
戦える、、、服?

その日のインスタライブで、完全にファンの想定外の情報を開示し、更にその戦闘民族ぶりも惜しみなく発揮して、彼らは去った。

勿論龍宮城は、道場の類ではない。
7人組ボーイズグループもとい、「オルタナティブ歌謡舞踊集団」だ。

言わずと知れた唯一無二のカリスマバンド、女王蜂のボーカルであるアヴちゃんがプロデュースする彼らの表現は、常に攻めに攻めている。
この世のどこでもない、それは正に龍宮城のように、美しくも狂気と迫力に満ちた、力強い夢幻の世界を私たちに魅せてくれる。

彼らはライブを真剣勝負の場と捉えており、演者と観客の魂のぶつかり合いといった意味で、「戦い」と称しているのだろう。
が、ライブハウスでスタンディングと言われると、さすがにリアルに戦えそうな服の方が、今回は良いという事なのか。
そう思い一応、クローゼットを確認する。

そこには、生地からしてあまりに頼りない、テロテロ量産型オフィスカジュアル達が、同じ顔をして並んでいた。
もはや拳を振り上げただけで脇から裂けそうなラインナップだ。

まぁ、チケットどうせ当たらないから、、、。
そう思って、そっとクローゼットの戸を閉じた。

1週間後。手元には電子チケットが一枚、ご用意されていた。

タタカエルフク、、、タタカエルフク、、、。うわごとのように呟きながら、量産型OLは、会社の昼休みにショッピングモールを彷徨い歩くこととなった。

ミリタリー柄を試着すると、
広い肩幅と相まって特殊部隊と化した。

ダボっとしたジーンズを履いてみると、
シルエットが土偶になった。

「戦える服」で検索すると、軍服をお勧めされた。

悩んだ挙句結局、「スポーティだけど少しテロっとした生地のトップスと、パンツにスニーカー」で落ち着いた。
まずここまでで、かなり戦った気がした。

お金も時間も使ったけれど、何か一つの楽しみのためだけに、自分の服を選ぶなんていつぶりだろうか。 

今思うと既にあの時から、私はかつての宝物を取り戻しつつあったのだと思う。

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運命の日。体を冷やす雨。
折り畳み傘を震える手で支えながら、寒空の中待機し続け、待ちに待ったこの瞬間がやってきた。

淡々と自分の整理券番号が読み上げられる。
全身を黒で包んだ、気だるげなスタッフに小銭を渡してドリンクチケットを受け取り、そのままいそいそと歩を進める。

建物に染みついた煙草の匂いが鼻を掠めた。
その瞬間、不意にノスタルジーに襲われた。

ライブハウスなんて、最後に行ったのはいつだろう。
息つく間もない現実の忙しさは、私を暫くあらゆる夢想の世界から遠ざけていた。
若き日の熱狂は過ぎ去った思い出と、自分を納得させる事にも、近頃は慣れ切っていた。

そんな自分がまさか。
RYUGUJOの名前がガッツリ刻まれたサコッシュをかけ、迷彩柄のラバーバンドを装備し、巨大なリングライトを複数装着し(紫に光らせるとさながら湯婆婆である)再びこのような場所に来ようとは。
人生はわからないものだ。

階段を下りきり、上手寄りの位置につく。
巨大なスピーカーから流れる一昔前のJ-pop、眩しく客席を照らすライト、スモークの匂い。
柵の位置を確認して驚く。あぁ、こんな見え方だったな。
しかし、想像より舞台が近い。本当に近い。

ここに、龍宮城が立つのか。

私は信じられない気持ちで虚空を見つめ、時折同行のオタク仲間と話し、(ヤバいアカンなどの鳴き声を放つだけ)開演の時を待った。

緊張を紛らわすため周囲を見渡す。スマホを無心でいじるお姉様、友達と髪型をチェックし合う可愛らしい女の子たち、ライブハウスが様になる厳つい男性。
ファン層は様々だが、皆一様に紫に光るグッズを手にしている。
一体感を感じて嬉しい気持ちと同時に、一つ思う事があった。

皆結構、おしゃれな格好してるやんけ、、、。

そう、戦える服とは、やはり自分の気持ちが戦う気になれる服という事でよいはずで、(というか好きな服でいいですとも言ってたはずで。)
必ずしも今の私のような、そのままグラウンドで騎馬戦できるレベルの格好で来る必要はなかったのだ。

ウォーキング用のウエストポーチまで装備して来てしまった事に少しばかりの恥ずかしさを覚えたが、これが文字通りの戦える服じゃい、そう気を持ち直した。

次第に周囲の言葉数は減り、緊張が辺りを包む。
急に大きくなるSE、一斉に上がる歓声。
光の中、彼らがそこに現れた。

ライブハウスだし、FCライブだし、一曲目から盛り上がっていこうぜヒューヒューと来るかと思い、軽率に振り上げた拳を、私はすぐに下ろすことになる。

舞台上で位置につき静止。
沈黙、そして訪れる静寂。

一曲目、RONDO。
正に龍宮城が結成されたスクール型オーディション番組、0年0組を包括する課題曲であり、彼らのプレデビュー曲でもある。
出逢いと別れ、そして巡りあいを司るその曲は、龍宮城を語る上で欠かすことのできないピースだ。 

伸びやかな歌声、美しい輪舞。

何と物語を感じる表情だろうか。声色だろうか。
一気に彼らの世界に引き込まれた。

悲しくなるからすこしだけ
同じ窓から眺めたあの景色は
僕らだけのもの

「そう思っているよ。」

曲終わり、ITARUの深く、神秘的な声が響く。
その後、一言一句は記憶できなかったが、このように続けていたと思う。

「そう思っているよ。」かつて無責任に放っていたその言葉に、今は責任を持つことが出来るようになった、と。

責任。間違いなく彼らは、発した言葉に対して、あまりに強い責任感を持つグループだ。
会場に緊張の糸が張り詰める。
この舞台で何が起こるのだろうか。彼らは何を私たちに示すのだろうか。逃げ場のない真剣勝負。

「JAPANESE PSYCHO よろしくお願いします。」

異様な空気の中、賽は投げられた。

心を揺らすバラードから始まった舞台は、龍のように美しく激しい舞踊を経て、彼らの軌跡を描く選曲に続く。

懐かしい校歌を高らかに歌い上げるその顔には笑顔が浮かび、時折友と目を合わせ微笑み合う。
始まりの姿を見せてくれることに心から感謝しながら、その微笑みの背後に地獄の気配がつきまとうのは、気のせいではないだろう。
私たちは既に彼らの作品の中にいるのだと悟る。

そして拳を振り上げる時が来る。 

「JAPANESE PSYCHO Aow!!!」

龍宮城のリーダーもとい、JAPANESE PSYCHOであるKEIGOのキレキレのシャウトが響き渡る。
その煽りと歌声の素晴らしさたるや、観客を熱狂させるには充分すぎた。
振り上がる拳、躍動する無数の紫の光。巨大なスピーカーから放たれる重低音が内臓を揺らす。

ボルテージの上がる会場に、異質なコールアンドレスポンスが響く。

「JAPANESE PSYCHO
ドン引きさせちゃうぞ
細かいとこが最高」
「すぐ切る?」

『領収書!!!』

一曲終わったところで、息つく間はない。KEIGOからJAPANESE PSYCHOを奪い取り、高らかにシャウトする、Ray。
KEIGOとはベクトルが異なる、挑発的で激烈な歌声が、底なしの表現力に魅力を増幅され会場に響く。
ここは龍宮城。7つの才能がひしめき合い、高め合い、時に抱き合い、時に奪い合う。
真剣勝負のバトルフィールドなのだ。

そこから先は、怒涛だった。
備忘録として致命的だが、この先具体的なレポートが不可能だ。覚える、といったような理性的な行動の全ては、感情の洪水に呑み込まれてしまった。(アホの言い換えにしかならないが)

彼らの一挙手一投足全てが荒波のように情緒をかき乱し、殴り飛ばし、切り裂き引きちぎり、めくるめく香りで優しく包み込む。

全てを巻き込む渦のように、彼らは形を変えながら会場を異界に変えた。

MCすらも作品として作り込まれており、空気感が大変独特だった。
彼らは素の姿というか、隙を殆ど見せない。

そこにあるのは、ひたすらに表現なのである。
「ライブ」と称するより、「舞台」と包括した方が近いような気さえする。

正気と狂気は裏表。他愛もないやりとりだと脳が決めつけた途端、ありふれた表情のまま想定外の不思議ワードが飛び出す。
意識の不意を突かれて、思わず客席から笑いが起こる。一切構わず彼らは言葉を続け、舞台の住人であり続ける。

私は彼らと私たちの世界の間に、何か空気だけではない、次元の壁のようなものが存在する感覚を覚える。
この雰囲気が異界を創り出し、ひとたび茶番を始めるとシュールで面白いのだろう。

シュールな笑いとは。いつぞやの国語教師の言葉を思い出す。 
「シュールな笑いが成立するのは、本人がふざけている自覚がなく、至って真剣な場合なんです。」
的を射ていると思った。
彼らは最初から最後まで、どこか狂っているようにも見えて、実は本当に、楽曲にも表現にも観客に対しても、「至って真剣」なのだ。
その本質を持っているから、シュールもこんなに様になるのだろう。

楽曲は続く。次第に遠慮がちだった観客たちの拳も、どんどん高く挙がる。

突如始まったポエム。
KENTの切実な語りは炎を確かに宿し、その詩は会場を深い集中へと誘った。

そして重低音鳴り響くこのような場でこそ真価を発揮するであろう、Mr.FORTUNE。
龍宮城のデビュー曲だ。私はこの曲を聴いた日から、龍宮城に囚われ続けている。

そしてファンにとっては最もと言っていいほど馴染み深いこの楽曲すら、途中からわたしたちの知らない姿に豹変して襲いかかってきた。

時が止まる。
冨田侑暉のパートだ。彼は歌い出すかと思いきや、
マイクを通さない声で観客に語りかける。

「誰も見たことないでしょう 
なのに予想がついてんの?」

目を逸らす事は許されない。
彼のその狂気に満ちた表現は、正に憑依とも形容すべき水準のものだ。
この豹変を、かつて予想することができなかった。
彼を勝手に占ったMr.FORTUNE達、全てを嘲笑うかのように彼は続ける。

「さてとなにをはじめよう。
もうとっくに、始まっちゃってるけど」 

龍宮城には一人一人番号がある。壱から漆。
この番号はオーディション番組0年0組の最終回、生徒であった彼らが龍宮城に選ばれた順番だ。

この数字には、「先生」が込めた意味があるとされる。
彼らはその順番に一人一人呼び出され、強烈なパンチラインを放ち出した。

誰かが、もしかすると私たちが、彼らにかけた呪い。
または、自分で自分を縛りつけていた鎖か。
彼らはそれを自ら跳ね除け、表現として昇華する。
どこまでもアーティストなのだろう。

七つの龍が躍動するダンスフロアは紫に彩られ、熱狂は果てしなく。
Sの独唱の響きは物語に富んで、その深みと成長は語らずとも凄まじいもので。
斎木春空の歌声はその大きく深い器にどこまでも満ちて、歌に留まらない表現の大きさにも胸を打たれた。

舞台の住人である彼らも、一時、私たちに向けて言葉を放つ。
その言葉にすら隙はない。ただ本当に伝えたい事だけを、痛いほど真っ直ぐに伝えてくる。
仮面を外した彼らの素顔は、不器用なほどに真っ直ぐなのだ。

灰になってしまった、忘れ難い「彼ら」にも逢え、感極まる中。
大きなサプライズを引き連れ、観客を最後まで龍宮城に捉え続けた。

その余韻を残す間も無く。

蜃気楼のように、彼らは去った。

龍宮城は跡形もなく姿を消し、私は気がつくと海辺に打ち上げられていたことに気がつく。

正直、この近さなら、彼らの実在が掴めるかもしれないと邪にも思っていた自分がいた。
そんなことは無かった。
この距離だからこそ、かえって明確になった。

彼らは徹底的に夢幻の世界を全うする。
たとえ笑われても、理解されなくても、誰に何と言われようと。

彼らを信じる者の前に現れ、魂の限りを尽くして歌い舞い踊る。
夢と現のあわいにある、龍宮城なのだと。

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熱狂の時は終わり、楽しい語らいの時間もあっという間に過ぎ、日常へ戻る帰路に就く。

ライブは終わってしまった。
でも私の胸は充足感に溢れていた。

忙しさにかまけて忘れていた大切なものを、今回また一つ取り戻した気がするからだ。
なくても生きていけていた。だから不要だと信じ込んだ。

何の役割も肩書きも外した、ただ表現に没頭する、私であって私ではない純粋な意識体。
言うなれば、私の「感受性」だ。

生きるために必要なものだけで、生命は維持できる。
けれど私の心は、ただ生きるためには要らないはずの「表現者たち」に強く揺さぶられ、今、途方もなく余韻に溢れている。

少なくとも、こんな見るに耐えない長文を書き散らさずにはいられない程度には。

私を夢幻の世界へ連れて行った紫色たちは、箱に仕舞われ、再び輝く日を待っている。
その日まで私は、今までより豊かに、朗らかに強く、現実を生きていきたい。
そんな力が湧いてきた。自然と背筋が伸びる。

きっと彼らも、彼らを支える全ての大人達も。
日々泥臭い現実を生き、「龍宮城」を創ってくれているのだから。

その全てに心からの感謝を込めて。
次回も対戦、よろしくお願いします。


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