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フランスのデモって、なに歌う?

仏大統領マクロンが公約に掲げていた年金改革の法案が先日16日、憲法49条3項の発動により強行採択されました。内容はざっくり言えば年金受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げるというもので、この強行採決に対する内閣不信任案も20日、惜しくも9票差で棄却されました。ボルヌ首相はこの法案施行のため「できるだけ早く」この年金改革の文言を憲法評議会に照会する旨を述べています。

この改革には世論調査で8割のフランス人が反対しているという結果が出ています。そもそも本当に必要なのか?とか(長期で見れば収支の均衡は取れているという調査も)、富裕層や企業向けの減税を推し進める一方で労働者を搾取するのか?とか、そもそも年金システムそのものが男性的なキャリアモデルを規範に作られているという根本的な男女不平等の問題、若くから肉体労働に従事していたブルーカラーの労働者へ皺寄せが行く問題(この層は平均寿命も短い)、未曾有の気候変動に直面する今抜本的な資本主義の変革が必要ではないかという環境問題の視点…
さまざまな争点がある挙句の果てのこの採決。コロナと戦争、インフレの影響で疲弊しきっている国民の怒りの火に油を注ぎました。

もともとマクロンはその新自由主義的な経済政策により、「金持ちの大統領」と言われてきましたが、今や「カオスの大統領」と呼ばれるなど…全国的なゼネスト、デモ隊の警察との衝突、ストによりゴミ袋で溢れたパリの街を夜になると暴徒が火を点けて回る様は本当にカオスで、まるで革命の最中に生きているような感覚になります。デモの動員数の公式発表の数字を見ると、かの有名な五月革命よりも多いんですね。いま私たちはフランスの行く末がどうなるかが決まる、かなり歴史的局面にいるのではないでしょうか。個人的にも、ここで止められるかどうかがかなり鍵だと思っています。

次回予定されているデモは今週木曜日!かなり大規模なものにあることが予想されてます。怒ってますから。なのでこの記事では来たるデモに備え、デモでよく歌われる歌やスローガンをご紹介したいと思います。しっかり覚えて、デモの行進の予習をしましょう!

① On est là


最初に紹介するのは、一番有名だと思われるこちらの歌

On est là ! (×2)
Même si Macron le veut pas, nous on est là !
Pour l’honneur des travailleurs et pour un monde meilleur
Même si Macron le veut pas, nous on est là !
私たちはここにいる(2回繰り返し)
たとえマクロンがそれを望まなくても、私たちはここにいる !
労働者の名誉のため、そしてより良い世界のため
たとえマクロンがそれを望まなくても、私たちはここにいる !

この歌は、もともと黄色いベスト運動の時に広まったものです。オリジナルはイタリアのChe seràという歌で、サッカーの応援曲を経て、歌詞が変わって労働者のための歌になりました。

燃料税引き上げを発端に広がった黄色いベスト運動はコロナの騒ぎもあって運動の流れは一時途絶えましたが、この年金改革で再びこの歌と共に息を吹き返しました。どちらの運動も「財政難」を口実に、資本家の富を肥やし中産階級や労働者がますます搾取される構造を生み出す資本主義の暴力に抵抗するものですから、同じ歌が継続して歌われていくのも納得ですね。

② 年金改革反対スローガンと言えば……

La retraite, à 60 ans,
on s'est battu pour la gagner, on se battra pour la garder
60歳の定年制、
これを勝ち取るために戦った。そしてこれを手放さないために戦う

これまたフランスの年金政策の歴史を感じさせる良いスローガンですね。80年代前半にミッテラン大統領率いる社会党政党が年金の受給開始年齢を65歳から60歳に引き下げたのですが、そこに至るまで、そしてその後も支給年齢の引き上げ案が出るたびにデモやストライキで徹底抗戦してきた、という歴史を端的に伝えるものです。60歳を基準に話をしているのに、まして62歳から64歳なんて!?という彼らの怒りのメンタリティもよくわかります。

③デモといえば横断幕

Macron nous fait la guerre
et sa police aussi  (police aussi ) !
Mais on reste déter
pour bloquer le pays ( bloquer le pays ) !
マクロンが私たちに戦いを挑んでいる
警察もだ(警察もだ)!
でも私たちは国を封鎖すると
決心している(国を封鎖しろ)!

ここで出てくるdéterってなんだ?という話ですが、これはdéterminé というと長くて面倒だから省略しているだけです。

この歌では、一度しゃがんでから、♪ Macron〜!の歌い出しと共に一斉に立ち上がって飛び跳ねるのが特徴的です。手にもつ横断機も一緒に揺らして、存在をアピールするのに有効ですね。デモといえば催眠スプレーを使ったり殴りつけてくる警察との衝突も付きものですが、そのいざこざもよく表れている歌詞ですね。

この歌はしゃがんだり跳ねたりする動きがあるせいか、若い子達の行進で見れることが多い印象です。マクロンの政策にはろくでもない大学の制度改革とかもあったので、若者も不満が溜まっていて当然だと思います。失業、インフレ、進路、住居不足…若者を取り巻く不安定な環境も日に日に深刻度を増しています。

④ 最新、フランス革命再び


ルイ16世の首は切ってやった、マクロンにもまた同じことをしてやろうか!といったニュアンスです。
この動画は16日木曜日、49,3の発動により年金改革が強行採決された翌日のコンコルド広場。コンコルド広場は国民議会の真向かいにあり、ルイ16世が革命の果てにギロチンで処刑されたまさにその広場なので、まさしく象徴的な場所ですね。強行採決の果てに、ツイッターでは「革命」「ルイ16世」などの単語がトレンド入りし、広場ではこうしたスローガンが叫ばれていました。絶対王政下のもとのアンシャンレジームでは第三身分が重税を課される中、特権身分である聖職者と貴族は免税の権利を持っていたというのですから、その特権階級が資本家に変わったというだけで、革命の後共和制が樹立した今だって似たような構造を抱えているわけです。


以上、こういう歌やスローガンはたくさんあるのでまだまだ全然紹介し切れていないのですが、ひとまず、有名どころは押さえたかな、と….. あと当たり前(?)ですが『インターナショナル』などもフランス語で歌えると良いですね!YouTubeなどで簡単に歌詞が見つかると思います。

デモ歌紹介シリーズ、気が向いたらまたやります。では安全に気をつけて、良いデモを!


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