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ハートにブラウンシュガー 6

 季節は音も無く静かに過ぎて行く。春先の冷たい風に震えながらも希望に燃えた日、しとしとと雨が降り続いた梅雨の時季、ココ夏フェスに参加し、熱く燃えた夏の日々、そして秋を迎え、ブラウンシュガーの面々も新しいステージへと踏み出す事になった。
 ティナの住むアパートは都内の外れの方にある小さいながらも小洒落たアパート。埼玉の実家から出て来てまもなく六年目になる。平日は商社の受付業務を派遣社員として勤め、夜や週末は大好きなバンド活動に身をやつす。そんな生活が数年続いている。
 最初に始めたユニットは派遣会社で知り合った女の子三人組でフォークやニューミュージック系のヒットソングをカバーして、それはそれで楽しかった。『白い風船』というユニット名で、いくつかのフォーク喫茶やライヴハウスに出入りするようになって、少しずつ世界が広がっていった。人前で演奏したり歌ったりする事に歓びを覚えた。けれど、ティナとしてはもっと観客を熱狂させるビートの利いた曲を歌いたかった。
 そんな時、ブラウンシュガーのステージを目にすることがあった。一目でレイの弾くエレキギターのサウンドに心が惹かれた。あんな音をバックにヴォーカル出来たら最高な気分になれる。そんな気がして、出会う度にレイに話し掛けた。レイの方もティナの声質の良さに目を止めていた。やがてレイはブラウンシュガーでヴォーカルをやらないかとティナを誘った。
 この誘いにティナは心躍った。今のユニットを辞めてブラウンシュガーに移ることをメンバー二人に伝えた。流石に二人(ミユとマユ)は困惑した。話をする上で少し言い合いになってしまって、最後は押し切った形で脱退する事になった。後味としてあまり良い感じではなかったものの後悔はしていない。今は自分の選んだ道が間違ってなかったことを信じている。これからもきっと、そうでありたいと切に願う。
 Aレコードから声が掛かって新人ライヴツアーに参加出来ることになったのはラッキーだったと思う。ディレクターの松尾は如才のない喋りでどこか嫌味な男だったし、紹介された音楽プロデューサーのKはアーティストである分ストイックで、辛辣な言葉でレイのギターやティナのヴォーカルに容赦なくダメ出しをした。バンドにはキーボードが必要だと当面はサポートという形で演奏にも加わる事になり、ブラウンシュガーも小さなハコでやってた時のような勢いで押すだけでなく、楽曲を聴かせる部分に梃入れした。
 そんなKの言葉に従って練習を重ねたのは、何より新人ライヴツアーに参加して認められればメジャーデビュー出来る可能性が大きく広がるからだ。もちろんKの手腕は尤もでブラウンシュガーのバンドとしての演奏力はこのところ飛躍的にアップしたと言える。

 さて、そのツアーに先立ち、参加する五組の新人グループ及びソロ歌手の顔合わせと今後のツアーの詳細や日程スケジュールなどの説明が行われた。
 Aレコード主催による新人ライヴツアー参加は次に紹介する五組。

グループ名またはソロ名とジャンルなど

①『ノア』   女性三人によるテクノポップユニット

②『バーンズ』 男性四人組によるヒップホップ系歌&ダンスパフォーマー

③  春風祐希はるかぜゆうき  ソロ演歌歌手 和服姿で日本風ではあるが、洋楽やアニソンもこなす。

④  柳町やなぎまち とおる  ソロ歌手 カバー曲を中心としてバラードを得意とするシンガー

そして、
⑤ ブラウンシュガー 女性ヴォーカルのロックバンド

 と、以上五組。

一度のコンサートではそれぞれが二十分から三十分のステージを任される。
 話し合いやくじ引き等により、名前の横についた番号順でステージを務める。


「おい、演歌にテクノにヒップホップダンス……、なんでも有りのステージだぜ」
 ブラウンシュガーのメンバー、サブこと佐藤三郎さとうさぶろうはリーダーのクマこと茶倉満男ちゃくらみつおに囁いた。
「ステージ順が五番目てのはかなり不利だな」
 クマは進行表を見ながらそう呟いた。
「ん? どうして?」
「新人ばかりのステージだろ、一組三十分として俺達の出るのは始まってから二時間後だ。その頃にはまず客の半分は飽きて帰っちまうだろ」
「そ、そうなのか?」
「ああ、しかも演歌目当てに来てる人がロックなんか聴かねえし」
「そ、それじゃ、ロック好きな客に来て貰わなけりゃあな」
「バカ、ロック好きの奴らが演歌や歌謡曲を聴きに来ると思うか?」
「……それもそうだな。こりゃ、相当なアウェイだな。くそ、ごちゃまぜにしやがって!」
「まあ、俺達としちゃ、客が居ようが居まいがやるしか無い」
「……だな」

 と、そんなやり取りがあった頃、ティナはあまり表情が冴えなかった。
「おい、ティナ、どうした? 元気ないな」
 レイが声を掛けた。帰りの車の中での会話だ。
「そんなことはないのよ。ただ……」
「何だよ?」
「『ノア』っていうテクノユニットあるでしょ」
「ああ、聞いたよ。あちらもKがプロデューサーらしいな。しかもあっちが本職だってよ」
「そんな事は別に良いのよ」
「じゃ、他に何か気になる事でもあるのか?」
「レイは覚えてない?」
「何を?」
「私が前にいたフォークソングのユニット」
「え? ああ、なんかゆる〜い感じの」
「私の両隣でフォークギター弾いてた子達のこと覚えてない?」
「ああ、たしか白いオーバーオールのデニム着て麦わら帽子みたいなのを被ってたよな」
「そう、ミユとマユと言ってね」
「そうだ、そんな名前だった。で、それがどうした?」
「『ノア』のメンバーになってるのよ」
「えっ? マジか! 随分イメージが変わったな」
 レイはノアのメンバーの顔を思い出してみた。衣装や曲からの雰囲気で『パフューム』みたいだなと感じていた。あれが……? 以前の牧歌的なイメージから都会的なセンスに変貌している。まさかあの時の二人だとは、思いもよらなかった。
「マリンというミユの姉をメインヴォーカルに仕立ててね、テクノサウンドに路線変更よ。衣装からメイク、髪型まですっかり変わっちゃって、私も話しかけられるまで気がつかなかったわ」
「そうだったのか」
「『白い風船』を抜ける時、ちょっとモメたから、私に恨みを持ってるみたい。化粧室で鉢合わせしたんだけどね。なんか対抗心ありありで変な嫌味を言われたわ」
「嫌味って、何を言われたんだよ」
「『久しぶり元気そうね。お互い頑張りましょう』だって」
「ん? それって……、嫌味か?」
「言葉つきで判るのよ。そんな感じだったって事。ああ、最悪。あの娘達にだけは会いたくなかった」
 そう言ってティナは暫く黙った。
 レイもこんな時どう言葉をかけてやれば良いものやら、逡巡する。
 結局、気の利いた言葉も思い付かずに、
「う〜ん、まあ、あまり気にしても仕方ないから、俺達は俺達で集中してやろうぜ」と、当たり障りのない事を口にした。

 ライヴツアーはそんなめまぐるしさの中で始まった。
 初日、クマとサブが予期したように五番目でステージに出たブラウンシュガーの時には客席は半分ほどの入りでしかなかった。ステージから見るとあちこちにチラホラと人がいるようにしか見えない。拍手もまばらで、熱気なんてものは殆ど感じられない。
 三番目の春風祐希の演歌のあと十五分程の休憩が入るため、そこで帰ってしまう客が多かったのだ。
 条件としては四番目に登場する柳町亨も同じではあったが、彼は『瞳を閉じて』や『さくら(独唱)』『壊れかけのラジオ』などのカバー曲を自己陶酔的に歌い上げていた。
 ブラウンシュガーはその後の静かな雰囲気の中、ステージに上がった。ココ夏フェスの時とは大違いであった。
 案の定、レイのエレキのリフやティナのヴォーカルに客席は盛り上がることも無く、淡々とステージ上で演奏が進んだ。
 当然、ティナのヴォーカルのパワーもダウンし、なんとかしなければと思うあまりレイのリフも先走り始めた。クマとサブも必死になってリズムキープするのだが、所々、ミスが出てしまう。緊張しているのではなく、緊張感のまるで無い気の抜けた演奏になってしまった。
 それを支えてとりあえずそつなくまとめ上げたのは、Kがキーボードで全体をリードしていたからだった。その事はブラウンシュガーのメンバー四人は全員、演奏しながら肌で感じていた。もしもKのキーボードがなかったら途中で楽曲はバラバラに分解していた。
 上手く行ったのは最後のバラード曲くらいで、とにかく反省点の多いステージになった。
 メンバー全員、打ちひしがれた様子でステージを後にした。
 意外な事にKは特に何も指摘せず、涼しい顔をして「じゃ、また明日」と言うのみだった。
 ライヴは週末の金曜日から日曜日まで三日間かけて三公演行う。それで秋に三十回、来年の春にまた三十回と計六十回予定している。

 先が思いやられるな、とばかりに四人は久しぶりにその夜、リーダークマのアパートに反省会を兼ねて集まった。
 疲れ果てた顔をして帰って来たメンバー達をクマの奥さんである涼子はいつもの明るい笑顔で迎え入れた。
「お疲れ様!」
「ただいま、疲れたよ。たった三十分のステージなのにな」
「さあさ、みんな、遠慮しないで上がって、お腹空いたでしょ、お料理いっぱい作ったからたくさん食べて行ってね」
「あ、手伝います」ティナがキッチンへ向かう。そう言えばティナは涼子にお料理を習っていたのだ。
 リビングにクマ、サブ、レイとどやどやと入り込み、卓袱台を囲んで絨毯の上に直接座り込む。
「もう彩花は寝たかい?」
「ええ、さっきまで、まだねんねしない、なんて言い張ってたんだけどね。待ちくたびれて寝ちゃったわ」
「そうかい、いや良いんだ、後で見に行くよ」
 ふふっと涼子は笑って、「はい、どうぞ」とみんなの前にビール置き、グラスを並べる。
「今日の出来は散々だったけど、とりあえず、乾杯しよう。ティナもこちらへ座れよ」
 とそれぞれビールをグラスにそそぐ。
 「じゃ、お疲れ」とクマが言って、ささやかにカチッ、カチッとグラスを重ねる。
 渇いた喉を潤し、やっとふーっとひと息つく。
「それにしても……」サブが切り出す。
「Kの奴、何にも言わないなんて、不気味だよな」
「今日のミスは俺のせいですよ」レイが言う。
「間奏のソロで走り過ぎた。リズムが合わなくなったのは俺のせいです」
「お前だけじゃないさ。オレもサブも乱れた」
「そうそう、悪かったよ。結局、誰に合わせりゃいいか分からなくなって……」
「あのまばらでシーンとした客席のせいよ。いつもの調子が出なかったわ」ティナも料理を運びながら、ついつい愚痴を言う。
「でもな、流石だなKは」クマがしみじみ言う。
「顔色ひとつ変えずに立て直して行ったぜ」
「そうだったな。あれがプロか」
 サブがきんぴらを口に放り込んで、やり切れないなといった顔をする。
「これからまだまだこんなのが続くんだぜ」

 ため息を吐く四人を見て、
「まだまだ、これからじゃない」と涼子は笑う。
「そりゃそうだ。今日はちょっと調子が狂ったけど、そうと判れば、この次は本領発揮と行こうぜ」
 サブは立ち直りが早い。
「しかし、ステージの順番はずっとこのままなんすか?」
「あ、いや、それは今度確認してみよう。確かに一組目二組目辺りまでは客席はそこそこ埋まってたよな」
「あのパフュームみたいなのとか、三代目みたいな奴らを目当てに来る客が多いらしいぜ」
「なんだ? パフュームとか三代目ていうのは?」
「あ、悪い、クマ兄ぃの時代で言うと、スリーディグリーズとジャクソン5かな?」
「なるほど、てか、おい、オレはお前と三つしか違わないんだぞ」
「そうか、それなら、モーニング娘とDA PUMPでどうだい?」
「は? モーニング結びとパンツ?」
「もういい! とにかくあいつらが割りかし人気あるんだわ」
「『ノア』と『バーンズ』すね」
「おうおう、それそれ、特に『ノア』はKがプロデュースしてるらしくて、もしかしたらそちらに力入れてるから、こっちの方は後回しかも知れねえぜ」サブはいい加減な当て推量を口にする。
 レイとティナはこっそり目を見交わした。
「ま、そんな事はないと思うけど、俺らは俺らでやって行こう。また明日頑張りゃいいよ」
 そんな話を交わしながら涼子の作る手料理に舌鼓を打って、今日の憂さを晴らした面々はそれから程なく明日に備えて各々帰宅する事にした。
 帰りがけクマはレイに声掛けた。
「曲作りの方はどんな調子だ?」
 Aレコードの松尾ディレクターから秋のツアー中に十曲、春のツアーの間にさらに十曲の計二十曲を作るように言い渡されている。
「はあ、まあ、二、三曲はほぼまとまりかけてるんすけど、もう一つパッとしたもんが出来なくて……」
「そうか、俺も涼子に手伝って貰いながら二曲位はなんとかする。サブにも一曲作れと言ってある」
「そうすか」
「あまり出来栄えの事は考えずに、とりあえず作ってみて、それを演奏してみてみんなでアイデア出し合ってまとめて行くってのもアリだからな、一人で抱え込むな」
「はあ、すみません。またその時はお願いします」
「うん」
 クマはポンとレイの肩を叩いた。そして顔を近付けると声をひそめてこう聞く。
「それから、ティナはなんかあったのか?」
「え? 何か、気になることでも?」
「いや、ライヴツアーの顔合わせの頃から、どうもいつもより表情が冴えない気がしてな。思い過ごしだったらワリイ」
「……、いや、大丈夫っす」
「そうか、それなら良いんだ。じゃ、また明日」
 クマはニッコリした。

 ライヴツアー二日目、三日目と初日よりは無難に過ぎて行った。客の入りは変わり映えしなかったが、もうその事についてはあまり考えないようにしようとメンバーで話し合った。
 平日に二度のスタジオリハーサル、週末にライヴ、最初の数週間は都内各所を隈なく回る。渋谷、新宿、池袋、秋葉原・・・など。
 その間プロデューサーのKから指導された事は、ティナとレイにムラ無く一定の力量で演奏(歌唱)するのを心掛けるようにということのみで、クマとサブには具体的な指示は出されなかった。

 あっという間に一か月程が過ぎ去り、秋のツアーも中盤に差し掛かった頃、ディレクターの松尾から呼び出しを受けて、四人は揃って青山の本社ビルに顔を出した。
 「どうですか、調子は?」
 松尾は相変わらずにこやかな表情で四人の前に姿を現した。会議室にはKも同席していた。
「はあ、最初は戸惑いましたけど、段々慣れて来ました」クマが返事する。
 松尾はうんうんと頷き、
「今日、来て頂いたご用件は二点です。先ず、これまでのライヴツアーでの様子をまとめた動画をAレコードの公式チャンネルで配信することになりました。それと同時にYouTubeでも各アーティスト個別で動画配信致します。もうすでに他の皆さんには了解済みです。ブラウンシュガーの皆さんも宜しいですね」と、淀みなく話した。
「ええ、もちろん。有難いです。なあ」クマはメンバーに同意を求めた。意義を唱えるものはいない。
「とりあえずその動画を見て貰いましょう」
と、松尾はマネージャーの竹田に指示を出し、モニターを用意して動画を映し出した。
 動画は五分程の短いもので、ティナのヴォーカルとレイのギターを中心に撮られていて、たまにクマがドラムを叩くシーンが入り、サブのベースを弾く指先が映し出されて終了した。
 特に誰も感想を述べなかったが、サブだけがポツリと「オイラの顔だけ映ってねえじゃん」と呟いた。
 さて、それはともかく、もう一つの用件。
「えーっと、Kとも話し合ったのですが、皆さんにはオリジナル以外にいくつかカバー曲にも挑戦して頂きたいという事です」
 これにはメンバー全員、驚いた。
「えっ、それは、どういう事です?」
「ああ、何もオリジナルがダメだと言ってる訳ではありません。オリジナルを聴いて貰うためにカバー曲で客を寄せ付けようという作戦です」
 作戦という言葉がそれぞれの胸に引っかかりはしたものだが、今の客席の様子を見てるだけに強く反論も出来なかった。
「で、何をやるんですか?」
「ええ、とりあえずクリスマスも近付いて来てるので、ジョンレノンの『Happy Xmas』を演奏して貰いたい。それと、これはKからの提案ですが、ボブ・ディランの曲をいくつかカバーしてみるのはいかがでしょう?」
 突然のメジャーな選曲に皆声を失った。 『Happy Xmas』は有名だし、知っているけれど、ボブ・ディランの曲にはそれほど馴染みがある訳ではない。
「それは、決定事項でしょうか?」
 クマが代表して質問した。
「とりあえずそう思って頂いて結構です。ただ実際にはリハーサルをしてみた上での判断です。そこはKにお任せしてあります」
「Kさん、ボブ・ディランの曲は主に何を予定されてるんですか?」と、これはレイが質問する。
 すると、Kはメンバー一人一人にファイルとCDを差し出し、
「これらの曲は、今後の君達のサウンドに合うと私は見ています。一度チャレンジしてみて下さい。曲目は『Like a Rolling Stone』『時代は変わる』『ブルーにこんがらがって』『見張塔からずっと』の四曲選んでみました。曲のキーはヴォーカルのティナの音域に合わせて変更してありますが、原曲のアレンジはそのままです。もちろんあくまでカバーですから、練習と経験を積む意味で取り組んで頂ければ、それで構いません」
 それらの言葉を全員、流されるまま聞き入れるしかなかった。
 メンバーの戸惑いを察知したのか、松尾は、
「まあ、とりあえず次のリハーサルで試してみて下さい。ただ、問題は皆さんのやる気です。情熱が無ければ音楽は伝わりません。要は何を演奏するかではなく、どんな演奏をするかです」

 最後にティナが発言した。
「ライヴの出演順は何とかなりませんか?」
「何とか、とは?」松尾が答える。
「最初は客が多くても最後の方は少なくなってる」
 ティナは不満そうな顔で意見した。
「だから君達も最初の方でやりたいと?」
「まあ、そういう事です」
「一応頭には入れておきますが、ステージのセッティングの都合も有りますしね。それに現状としてはノアとバーンズが人気の点ではかなりリードしています。これは単に出演順の問題だけではないでしょう」
 松尾の声はいつも冷ややかで淀みがない、

 結局、その日の話し合いはそんなやり取りで終了した。
 その日からブラウンシュガー四人のメンバーは、当面クリスマスに向けての『Happy Xmas』それとボブ・ディランの各曲の音源をひたすら頭に叩き込んだ。どの曲も簡単そうに見えてなかなか難しい。
 ティナは、ノアとバーンズに現状ではリードされてるという松尾の言葉に少なからずショックを受けていた。
 だが、心は静かに燃えている。遠くに見える光は小さいが、そこに向かって走り切るしかない。どんな要請や逆境にも負ける訳にはいかない。

 ライヴツアーは全体の四分の一を終えたばかり、巻き返しのチャンスはまだまだあると、四人は心に誓った。



ハートにブラウンシュガー6話
おわり

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