思春期の水曜日 其一一

 HRの最中、学級委員二人の手によって、進路希望の用紙が配られていく。噂の渦中にいる二人の様子に、これといった変化はない。人間観察を趣味とするオレにも、事の真相はわからない。
 オレの趣味は演劇で、劇団にも所属しているが、これといった「芽」は出ていない。同じ劇団の同年代が、TVに出た、舞台に立った、という話を聞く度に、己の才能の無さを痛感してきた。
 しかし、それは本当に才能の不足が原因なのか?稽古中にそう問われた時に、自分の努力が有意義かどうか、わからなくなった。
 改めて人を見、芝居を観た。そして、人の生き様を表現出来ていなかった己を、拙く感じた。
 俳優とは、脚本の表現をする存在ではない。脚本に刻まれた登場人物を、この世に映し出し、降臨させるための依り代なのだ。さながら、太古の精霊術師、シャーマンのように。
 それからは人間のあらゆる所作を、観察し、収集し、己の一部としていった。そして、先日大人に混じって公演にも出た。
 だがその観察眼をもってしても、用紙を配る学級委員二人に違和感は感じられない。
 学級委員から受け取った用紙に「俳優」と書きながら、
「オレもまだまだ修行が足りない」
と小声でボヤいた。
「何か言った?」
 目の前の席に座る女生徒が、振り返って尋ねてきた。

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