思春期の水曜日 其一三

 今の俺は、視力だけはいい。スマホ、PC、タブレット全盛の現代において、視力だけは2.0より下がった事がない。
 そのせいで、隣席の女子が進路希望記入用紙に「理論物理学者」と書いているのが目に入った。理系に強い、学力上位の才女だ。当然の進路希望だとしか思えない。
 俺はため息をついてペンを手の中で回した。ペン回しは、俺の指の性癖である。昨年、ペン回しに憧れ、猛練習し、気づくと手癖になっていた。今では行儀が悪いと注意される始末である。
 ペンは、日常的に握っている。ノートにイラストを書くためだ。マウスやタブレットでは、どうも上手く書けない。作品の良し悪しではなく、気分が乗るかどうかの問題だ。それに、座位の姿勢を躾けられてからは、ノートに手書きしている方が姿勢が良い自覚がある。それに画面を延々見続けるよりも身体に優しい。
 ええい!言うならタダだ!
 俺はその思いで「イラストレーター」と用紙に書いた。
 不意に、教師の説明途中に、用紙をしまっている級友が目に留まった。

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