思春期の水曜日 其一二

「何か言った?」
 後ろに座る男子生徒を座ったまま振り返り、あたしはそう尋ねた。しかし、
「あー、いや……なんでもない」
と、煮えきらない反応が返ってきただけだった。あたしは首をかしげつつも、
「あっそ」
とだけ言って机に向き直った。
 クラス中、いや学年中の話題の渦中にいる学級委員二人も着席し、一応の静寂が教室内を包んでいる。しかし隣同士の小声での会話は止んでいない。無のようでいて、煮え立つ声たち。まるで量子場のようだ。
 ふと、自分の進路希望用紙に目を落とした。その第一希望に、私は「理論物理学者」と書いていた。

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