見出し画像

【詩】詩人よ

そこに書かれた物語を読むのではなく
そこに書かれた言葉を詠む
見ず知らずのあなたが書いた言葉を

ひとり無名の街角に降り
詩人が行かねばならぬのは
小銭を握りしめ汚れた顔を気にもせず
湯気の立つ
黄ばんだ湯呑に唇をあてて
大切に
ゆっくりと
寂しげに
しかし安堵と歓びを湛えた笑顔を晒しながら
朝の酒を愉しむ者たちが集うその場所だ

図書館に心などあるものか

その街角の
寂しく嬉しい酒の隨に
ぽつり
ぽつり
またぽつり
無精髭の隙間からぽつり
ぽつり
ぽつり
またぽつり
滲んだ朱紅の隙間からぽつり
息継ぎの間だけ零れ落ちる
その言葉
心はここにある絞り出すように
溢れ出るように

酔い爛れた想いの情熱が雑踏に
           雑音に
揺れ迷いながら
途切れ途切れの言葉となって
この街角で風に遊ぶ

詩人よその声を聴け

黄ばんで欠けた歯の隙間から漏れる
痣だらけの
シミだらけの
その声を

詩人よその声を呑め

頬の瘡蓋から滲む赤黒い血液と共に滴る
腫れて
膿の溜まる
その声を

詩人よその声に頷け

半開きの瞼で白く涸果した涙に凍る
憎しみと
諦めに支配された
その声に

そして詩人よそこに立ち
同じ風の中
詠んで 詠んで
詠んで 詠んでただ詠んで

あの高慢なペテン師を嬲り
          殺し

微笑みながらまた歩け

詩人よ言葉を選び
あの酒臭い幸福に感謝を
あの黄ばんだ歯に祝福を
あの涸果した涙に共鳴を

いつか高慢な似非文化人を蹴散らし
詩人よ
あなたの謳うそのうた

あの哀しみにあの憎しみに怒りに
絶望に届いて響き

呑み干すチカラとなることを

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?