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岸辺内閣総理大臣の憂鬱/バトルロートル・ビギニング①

内閣総理大臣 岸辺不死朗の浅薄な思考

 めでたい。
 おめでたい。
 おめでとう。
 めでてぇ。
 んー、なんとなくどう読んでもこう、ちょっとコケにしてる感というか、見下してる感みたいなのを感じてしまうのは私だけか?
 漢字で書くと「御目出度う」ということになるということが、便所で気張りながらネットで調べたらすぐわかったのだけど、もうこの字面からしていかにも当て字であって、個人的な意見としては言葉を漢字で表記する場合に「目」という字が使われると一気に冷める凍える。いや、そもそも生物の器官としての目を表す言葉として「目」を使うのは当たり前というか納得できるのだけど、そういうわけでもない、あんまりフィジカルな意味を持たない言葉で「目」を使われると途端にインチキ臭く感じてしまうのだ。
 例えば「デタラメ」。放尿しながらなのでついついスマホの画面に気を取られて性器を支えることをおろそかにしてしまったために、尿が便所の床に飛び散って事が済んだ後は必ず便器と床をトイレットペーパーで拭き取る癖がついてしまったのだが、そんなことをするなら初めからしゃがんで用を足せばいいのだ、洋式便所なんだから。というようにいつも妻子から叱責を受けつつそれでも有用な検索は便所で立ち放尿しながら行うということを徹頭徹尾、首尾一貫、徹底して行っている私が今日も妻子に叱られながら検索した結果、漢字表記は「出鱈目」である。ほら出た。「目」である。もうこの漢字表記自体が完全に人を馬鹿にしている。「出」「鱈」「目」なにこれ?そこで私は再度便所に立ち、またもや尿をまき散らし、上の空で便器と床を拭きながらこの意味をも調べてみる。「根拠がない事首尾一貫しない事いい加減な事」。もう「目」を使った感じの総合的なイメージをそのまま表したようなダークな言葉である。
 
 愛でたい。
 お愛でたい。
 お愛でとう。
 愛でてぇ。
 その気になればこういう愛くるしい表記だって可能なわけでね。
 出鱈目の「目」
 御目出度うの「目」。

 今日もまた嘘臭い空は青くネギは緑で餅は澱んだ白。
 個々人の都合や気持なんかはお構いなしに時は過ぎゆくそして白々と新年を迎え、一族四代十八名が三LDKに犇めいて暮らす貧乏所帯で内心は「上の十人には今年こそ早々に死んでもらいたい」と若者たちは考えながらしかし蟻の糞ほどのお年玉欲しさにとりあえずは「飽けまして御目出度う」と死にぞこない共に愛想を振りまく。
 もういい加減生き飽きただろうに心中は「ふん、そう簡単には逝かない。とことん人生の隅々まで舐めるように生き切ってやるぜ」と嫌味たっぷりに生きる気満々で、しかしあまりにも元気溌剌としていては年寄りとしての面子が潰れるので「あたた、腰が痛い」「うー膝が痛くて立てない」「便秘だ」「まだたかだか米寿の若造なのに勃起しなくなった、EDだ、死にたい」「インドカレーを喰ったら痔が悪化した」などと詐病で弱々しさをアピールする狡猾な老人がニコニコしながら十年前に購入して色の変わったポチ袋に小銭を入れ、ドヤ顔で「御目出度う」と言いながら配っている。
 私にはこの御目出度い新年の儀式というのが強烈に毒々しく生々しく生死の鬩ぎ合いの場としか感じられない。
 正月に餅を喉に詰まらせて死ぬ老人は相当数いるらしいが「もっと死ねよ」「まだまだだよ」「千倍は死んで欲しいね」「老人は死ぬ事が仕事」「老人が死ねば年金問題は解決する」というのが若者たちの本音であって、それは決して間違いではなく正論である。
 国家の年金財政がひっ迫している原因をして「少子高齢化」と安直に言う人が多いけれども、直接の原因はあくまで「高齢化」である。もっと直截に言うなら「死なない老人」である。まあ、確かに医学の進歩が三途の川幅を拡げてしまっているという面はあるのだけど、医療と言うのは進歩しないといけない。若く美しく元気な命を救う事になるからこれはこれで年金問題解決の一助となることは明白だが一方で本来とっくに消滅してしかるべき古く醜く腐り果てた老人の命も救ってしまっていて、結果的にむしろマイナス効果の方が大きくなってしまっている。

 と、暇過ぎて暇にも飽きた私、内閣総理大臣岸辺不死朗はぼんやりとそんな妄想に胸をときめかせていた時にふと思いついたのだ。
 私以前の総理だってこの根本的な問題には気付いていたはずである。なのに放置した。目を背けた。見て見ぬふりをした。見ざる言わざる聞かざるすなわちHEAR NOTIHING SEE NOTHING SAY NOTHINGである。少子化対策つったって例えば今すぐに成人女性一人に対して年間最低一回の出産を10年間続けること、実現できぬ者は死刑って事にしたとしてもその効果が出始める時期すなわち労働年齢に達するまでにはいくら頑張っても15年はかかるわけでこれを考慮すれば少子化対策の効果が出る前に高齢者で国が破綻するのである。もっと具体的に言うと、成人女性を対象とするわけだから18歳から上は全員対象で上限はなく、80歳だろうが100歳だろうが出産せねばならず、できなければ死刑。だから確かにこの段階で相当数の老人を滅することは可能だけれど、諸事情によりかなり若年の層も滅しかねない。これでは本末転倒になってしまうし転倒しなくて最良の状態が成立したとしても最短15年は効果が出始めないということになる。だから少子化対策なんてのは端から考えないんだ私は。
 ポイントとなるのは高齢者対策、唯此一点である。
 具体的に言うと合法的な老人の大量虐殺であり、それを企て実行に移そうというのがこの岸辺なのである。

                                                          (to be continued…)

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全5話の小説をマガジンに纏めました。

以前、webで公開していた作品をブラッシュアップしました。 ナンセンス小説、不条理小説です。 やや残酷、やや性的な描写が含まれます。

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