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ヒット曲のコード進行は結局シンプルで標準的

私はコード譜を作る仕事を過去に6年間ほどやってきていて、その間に約7000曲(正確にいえば6990曲くらい)の、新旧さまざまな曲のコードの流れを見てきましたが、その経験を通して、

「みんなから支持される曲/ヒット曲/時代を超えて愛される曲のコード進行は、基本的にほとんどがシンプルで標準的である」

ということが実際のデータとしてわかっています。

こちらではそのあたりについて少し細かいところを書いてみます。

※当記事はこちらのポッドキャストの内容を編集/再構成したものです。


「標準的でありがちなコード展開」点はそこまで問題にならない

上記で述べている「シンプル」「標準的」の具体的な状態がややわかりづらいですが、これは簡単にいえば、多くの聴き手が「ああこの感じね」とすんなり理解できる、耳なじみのあるハーモニーの雰囲気を指していて、より突っ込んでいえば、

  • 聴いてすぐに曲の流れが理解できる

  • 盛り上がってほしいところで盛り上がり、締めくくってほしいところで締めくくられる

という本能的なとっつきやすさがあるようなコードの展開がそれにあたります。

作曲しているひとの心理

作曲に取り組むうえで、ほとんどのひとはまずそのシンプルで標準的なところから入門することになりますが、少し作曲に慣れてくると、そのようなコードの展開を「レベルが低くてダメ」だと捉えてしまうケースも多く、さらには、

  • 「もっと込み入ったことをしないと曲としてのレベルが上がらない→まだまだ完成させられない…」

  • 「こんなにありがちな曲ではみんなに向けて公開できない…」

などと考えて、作りきることや公開することを、その「シンプルで標準的なコードの展開=レベルが低い」という点を理由に先延ばしにしてしまうひともいます。

そのうえで、私はその「コード進行がシンプル」とか「よくある標準的でありがちなコードの展開」という点は、そこまで問題にならないと考えている派です。

なぜなら、冒頭で述べたようにヒット曲や時代に残る名曲のほぼすべてがシンプルなコードの展開によって成り立っているからで、例えハーモニーを作る際に込み入ったことをやれなくても、また難しいコードの展開をつくる技術がないとしても曲のレベルが低いということはないです。それでもその曲を「完成したひとつの作品」として誇らしいものと捉えて、胸を張って公開することができます。

聴き手はもっと気楽に聴いている

上記で述べている「みんなに親しまれる曲/時代に残る曲のほとんどがシンプルで標準的なコード進行によって成り立っている」というデータの裏を返すと、

「聴き手もそういう曲を欲している」

ということが明らかになります。

音楽を作っていると、必然的に作り手の目線を持つことになります。

作り手としては

  • 「シンプルで標準的なものはダメだ」

  • 「もっと奇抜で個性的じゃなければいけない」

  • 「込み入っていてそこに難しさが無ければいけない」

などと考えがちで、ひとによっては「理論的に〇〇」とか「ここでこんなハイレベルなテクニックを使って…」という目線で音楽を捉えてしまうケースもあるはずです。

でも、いわゆる一般的な聴き手は、そんなことを考えながら音楽を聴いていません。

これは、例えばクラシック音楽や、ちょっと音楽のジャンルが変わると例外もあるかもしれないですが、いわゆるポップス・ロックなどの音楽では聴き手の中に「難しくなければだめ」などという意識はないし、「込み入っていてハイレベルな展開がなければ作品としてレベルが低い」などと考えている聴き手もおそらくごく少数です。

ポップス・ロックの一般的な聴き手はもっと気楽に音楽を聴いているし、平たくいえば

「気持ち良いか・そうじゃないか」

みたいなところを尺度にしています。

さらに突っ込んでいえば、ポップソングの分野では

「(むしろ)難しくてはいけない」

いうようなジャンルも存在しています。みんなが気楽にその音楽を聴いて、何も考えずに盛り上がって良い気分になりたいような音楽ジャンルにおいては、その「理論的な○○」や「ハイレベルなテクニック」などが逆に不必要なものになることもあります。

むしろ「メロディ」を重視したほうがいい

既に述べたように、ポップス・ロックなどの音楽を作るうえでは、基本的に

「こんなにシンプルなコード進行を許容してはいけない…」

などのように、ダメ出しをする必要はないです。

言い換えると、「コード進行の複雑な作り込みができない」という状態はあなたが思っているほど弱点にはならないため、今あるその「シンプルで標準的なコードの展開を作れる技術」を存分に発揮して、それを誇りに思いながら曲を完成させるところまで持っていったり、それを自分の曲として堂々と発表したりしてほしいです。

付け加えると、特にポップス・ロックなど「歌がある曲」においては、メロディの方をより重視すべきで、コードは思いのほかシンプル・標準的でも形になるものの、「メロディをそこにどう乗せるか」というセンスや作り込みが必要になります。

とはいえこれもただ単に込み入っていて難しいことをやればいいわけではなく、そこでも基本的には親しみやすいものが受け入れられます。

それを前提としつつ、メロディの方が圧倒的にいろいろなやり方が想定できて、受け入れられる幅がコード進行よりも広いと私は思っています。メロディでは、多彩なアプローチで「良さ」や「魅力」を提供できます。

【メモ】もちろん、メロディの良さはコード進行(=ハーモニー)無しには語りづらく、それぞれは表裏一体であるため、両者を総合的に考慮することも必要です。

上記を踏まえて、私としては

  1. コード進行はまず基本的なもの(+欲をいえば基本的な崩し方)を使いこなせるようになればそれで十分

  2. それよりもメロディを作れるようになること→メロディ心/メロディ作りのセンスを磨くことを目指す

という姿勢で作曲に取り組むことをおすすめしています。

自由自在にいろいろなメロディを生み出せるセンスはもちろんのこと、

  • そもそもメロディがどんな構造によって成り立っているか

  • それぞれが聴き手にどのような印象を与えるか

などを深く理解して、意図的に幅広く多彩なメロディを作れるようになれると望ましいです。

メロディのパターンはほぼ無限だといえて、「音使い」「リズム」「音の進め方」「フレーズの置き方」などを組み合わせると無限の可能性があります。だからこそ、これまでの歴史上いろいろなメロディが生み出されてきたのだと思います。

いろいろなメロディを歌ったり、分析したり、弾き語りをしてコードとメロディの調和を体感したり、そんなことを繰り返しているとメロディを作る感覚が養われていきます。

そして、歌を作るなら間違ってもメロディを机の上で作るようなことはせず(楽器上やデータの打ち込みなどによってメロディ作りを頑張ろうとせず)、歌いながらメロディを自在に生み出していけるようになることを目指してみてください。

歌作りは運動と同じなので、ぜひ体で覚えていって欲しいです。

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