「順次進行」「跳躍進行」でメロディの雰囲気を操作する
メロディを生み出すうえでは、ただ漠然と「良い感じのメロディないかな…」と音を探るよりも、何らかの指針のようなものを持てると望ましいです。
特に、ポップス・ロックの作曲では「歌いながらメロディを生み出す」というやり方が基本的なスタイルとなるため、その際に「〇〇なメロディになるように…」と心に留めておくだけでも、生み出されるメロディには大きな違いが生まれます。
これを実施するためには根本的にメロディの構造について理解を深めておくことが欠かせませんが、その中でもわりと見逃されがちで、かつ知っておくとメロディ作りに大きく役立つ、
という観点があります。
これは音楽用語的には、
順次進行
跳躍進行
などの分類に相当するもので、これらを考慮しつつ部分的に構造を意識しながら音を選び、またあくまでも歌ってみて自然だと感じられるように音の進み方を探っていくことで、いろいろな形のメロディを生み出せるようになっていきます。
こちらでは、そのあたりについてまとめます。
前提
そもそも
というルールは、ポップス・ロック系の音楽を作るうえでどんな時でも同じです。
これは簡単にいえば、例えば「キー=Cメジャー」の音楽を作る際には「Cメジャースケール」に相当する「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の7音を主に活用しながらメロディを組み立てる、ということを意味します。
▼念のため、以下に各メジャーキーの音を表としてまとめておきます。
こちらでテーマとしている「音の進め方」に意識を働かせるうえでも、同じように
という発想がその土台となります。
音の進め方[1]順次進行
音の進め方としてまずひとつめに挙げられるのが「順次進行」で、これはスケールに沿って順番に隣(2度の音程にある音)に向かって音を上下させるような音の進め方(以下譜例)を指すものです。
「順次進行」は音の急激な上下が無く、なだらな波を描くように音が進むため、聴き手に「スムーズ」「穏やか」というような印象を与えます。
また音の上下が少ない分、歌のメロディとしても歌いやすく自然であり、ポップス・ロックの歌のメロディを作るうえでは必然的に順次進行がメロディの中心的な存在になっていきます。
以下に、順次進行を多めに盛り込んだ例として「TRUE LOVE(藤井フミヤ)」のメロディ譜を示します。
こちらの例ではメロディのほとんどが順次進行によって作り込まれていますが、歌として自然で、かつ聴きごたえのあるメロディとして十分に成立していると感じます。
順次進行のメロディは比較的作りやすい
メロディを作るうえでは、
「なだらかな波を描く感じで…」
「音がスムーズに上下するように…」
などと心に留めながら音をつなげていくことで、比較的簡単に順次進行の形を持つフレーズを組み立てていくことができるはずです。
また、必要に応じてスケールの音を実際に楽器で鳴らしながら、その音階を歌に置き換えていくこともできます。
特に音がスムーズに流れていくような雰囲気や、メロディの波をあえて立たせず穏やかな印象を聴き手に与えたいような場面では、この「順次進行」を多めに盛り込むことを検討してみてください。
音の進め方[2]跳躍進行
ふたつ目に挙げられるのが「跳躍進行」で、これは「隣よりも先の音(2度以上の音程にある音)」への音の進み方を指すものです(以下譜例)。
基本的に順次進行のようなスムーズさは少なく、どちらかいえばいびつな雰囲気をが生まれるため、その急激な音の変化をメロディのインパクトにつなげるように盛り込まれることが多いです。
また、「小さな跳躍」「大きな跳躍」のように、跳躍の度合いによってもそこから受ける印象に違いが生まれ、使い分けができる点も特徴のひとつだといえます。
以下に、跳躍進行を多めに盛り込んだメロディの例として「ロビンソン(スピッツ)」のサビ冒頭のメロディ譜を示します。
この例ではメロディの冒頭に跳躍進行が連続して盛り込まれており、それがサビのインパクトにつながっていると感じます。
音を確認しながら跳躍部分を作る
跳躍進行を踏まえてメロディを作るうえでは、「音階の幅を広げながら…」というような意識を持ちつつ音をつなげていくとその性質を押し出しながらフレーズを組み立てていくことができますが、順次進行よりもメロディを生み出す難易度は上がるため、例えば楽器でキーの音を鳴らしつつ、
というように、ある程度音名定めてそれを歌に変換しながらメロディを組み立てるやり方も現実的だといえます。
メロディのインパクトを考慮するうえで、跳躍進行もあわせて検討に加えてみてください。
実用的な案:順次進行の一部に跳躍進行を混ぜる
上記で挙げた「ロビンソン」の例のように、跳躍進行を何音か連結するようなやり方も検討できますが、順次進行が歌メロディの中心的な存在になることを踏まえると、
というやり方が歌いやすく、かつ印象に残るメロディを考えるうえでより実用的だといえます。
以下にその例として「TSUNAMI(サザンオールスターズ)」の歌い出し部分のメロディ譜を示します。
この例ではメロディの冒頭に4度の跳躍が盛り込まれており、それ以降は順次進行によってメロディがなだらかに展開しています。
メロディは基本的に歌いやすく自然で、それでいて一部の跳躍進行によって「ただ単にスムーズなだけではない」というメロディの個性のようなものも生み出されていると感じます。
既に述べた「順次進行をメロディの主体としつつ一部に跳躍進行を混ぜる」という案を取り入れるうえでは、この例のようにメロディの歌い出しを「跳躍」で始めて、その後を「順次」でなだらかに進める、という作り込みが検討できます。
また、もちろんこのようなやり方以外にも、
順次進行が連続していた先に跳躍進行が現れる
順次進行と跳躍進行が交互に登場する
というように、いろいろな組み合わせによって「順次」と「跳躍」のバランスを取ることもできます。
*
上記でご紹介した「順次進行」「跳躍進行」とあわせて、音の進め方にはもうひとつ「同じ音を連続させる(=音を進めない)」というやり方も存在していますが、聴きやすく、歌いやすく、かつ聴きごたえのあるメロディを組み立てるうえでは、これらの観点に意識を働かせながら音の進め方を検討するようにしてみてください。
また、ここまでに挙げたいくつかの譜例と同様に、ヒット曲のメロディ譜を「音の進め方」という観点から分析してみると、この概念についてより理解を深めていくことができるはずです。
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