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『うちの男子荘がお世話になります!』②

〇EP1『佐々木荘の住人の紹介』


 まず、おれの部屋の紹介から。ドン。おれの部屋は佐々木男子荘のいちばん西側の、1階、101号室。部屋の間取りは、1K。玄関をあけてすぐにキッチン、浴室、トイレがあり、奥に主な居住地があるという、普遍的なものだ。築40年ということで、お世辞にも綺麗と呼べない部屋だが、風呂トイレ別なのはありがたいといったところ。ドンドン。
 駐車場代込で家賃3万円。元は大学生を対象にしたアパートらしく、おれ以外の住人は学生だ。ドンドンドン。
 さて、問題の住民たちを紹介していこう。ドンドンドンドン。

 まず、そろそろ、読者のみなさんも気になってきているであろう、この、ドンドコドンドン騒がしい足音を。この足音を鳴らすのは、上の階、201号室の住人、大本オオモト 黛泉タイセンくん、通称『船長』だ。アパートの築が古いせいからか、壁という壁が薄く、隣りの部屋の生活音すら聞こえてくるから仕方ないのだが、彼の足音は格別賑やかだ。
 で、そもそも、ぼんやり屋、車のハンドルすら握ったことのない美青年が、どうして船長と呼ばれるのか。原因は彼の特殊な服装と特殊な思考から来ている。
「どうして船長は、“セーラー服”を着ているの? 」
 いつか尋ねたことがあった。春夏秋冬、セーラー服を着続ける船長は、ねむたそうな表情で答えた。
「溺れた時……助けてもらう……昔……本で読んだ……セーラー服着てたら……助けてくれる……」
 つまり船長は、いつ溺れても助けて貰えるように、セーラー服を着ているらしい。こんな内陸部で。海なし県で。
 船長の実家はアパートから10分と歩かないところにあり、大学への送り迎えは母親がやってくれるという過保護っぷりだ。ならどうしてわざわざ一人暮らしをするのだろう、という疑問が湧くところだが、つぎの住人の紹介に移ろう。

 どうしてわざわざ一人暮らしをしているのか、と言ったら、隣りの部屋に住む佐々木ササキ 榛名ハルナくん、通称『榛くん』もそのうちのひとりだ。
 アパート最年少、高校1年生、明るい茶髪に金色のインナーカラーがトレードマークの榛くんは、“佐々木”という名字からお察しの通り、大家さんの息子さんだ。
 19コ上にリョクさんというお兄さんがいて、将来佐々木男子荘その他2荘の経営は、リョクさんが継ぐことになっている。佐々木さんご夫婦同様、リョクさんも、すこしおっちょこちょいなところはあるが、朗らかで、温厚な人だ。老齢のご両親に代わり、アパートの管理全般をやってくれている。
 いつか、おれが会社に鍵を忘れてしまった時なんかは、夜中だったのにも関わらず、嫌な顔せずすぐに飛んできてくれた。
「やさしいお兄さんだよね」
 と、榛くんに言うと、榛くんは決まって、不機嫌な顔になる。どうしてなのか、尋ねれば、
「晴さんには関係ないっす! 」
 歩いて1分としない近さに実家があるにも関わらず、頑なに一人暮らしをする榛くんも、なにか理由があるのだろう。

 そんな榛くんの上の階に住むのが、大学1年生、柏餅カシワモチ 夢子ユメコさん、通称『お餅ちゃん』だ。
 読者のみなさん、「え、ちょっと、待って」と思ったであろう。おれも、引っ越してきたばかりのころ思った。男子荘なのに女子いるじゃんって。……彼女のことを知れば、なぜこんな男子荘、しかもボロアパートにうら若き彼女が住むことになったのかわかる。
 まず大前提として、お餅ちゃんは普段の素行こそ普通だが、脳内はかなりの変わり者だ。俗に言う“不思議ちゃん”で、趣味はポエムを書くこと。彼女は日常感じたことをすぐにポエムにして、ウェブで発信する。
 『夢子の夢々なるままに』というサイトは彼女のポエムブログが読めることでお馴染みで、アパートの住民の愛読ページだ。特に榛くんは熱烈な読者だ。その理由も、おそらく後々わかってくるだろう。
 そんな天然ポエマーのお餅ちゃんは、大学進学を機に一人暮らしをはじめようとした。市内数々のアパートを練り歩き、ここ、『佐々木男子荘』に、“インスピレーション”なるものを感じ取ったらしい。
 誰もが(彼女の親御さんは特に)入居をとめた。が、彼女の熱意は正に、ホンモノだった。
「絶対にここに住みたいと思ったんです。だって、このお部屋が、ワタシを呼んでたんですから」
「はあ……」
 最終的に、彼女の熱意に折れた、という訳だ。

 困り者、といったら、103号室に住む屯田田トンデンダ 新治シンジくん、通称『殿下』もそうだ。
 彼は、とにかく無口だ。彼の友人曰く、
「『ドリアングレイの肖像』って知ってる? ま、そういう小説作品があるんだけどね。そこに出てくる、『アースキン』って貴族がいるのよ。殿下はそれに憧れちゃってね。で、喋んないってワケ。ほんと、傑作の馬鹿だよねえ」
 アースキンという登場人物は、「話すことは話した」という理由から一切口を閉ざしているらしいが、どこからどう見ても、若干25歳の殿下は話し足りないというように見える。

 そんな殿下の友人、というのが、203号室に住む吾妻マズマ 東西トウザイくん、通称『東西くん』。東へ西へ、その名の通り、掴みどころがない青年だ。
 船長が年中セーラー服を着るように、彼もまた、派手な柄シャツを年中来ている。
「東西くんって、おしゃれだよね。そんな服、どこで売ってんの? 」
「輸入品よ。GUTTEAグッティーとかCHANNELチャンネルとか知らない? 」
 かなりの金持ちらしい。どうしてこんなボロアパートに住んでいるんだろう、と不思議だったが、本人曰く、
「殿下を観察するのが趣味でねえ」
 らしい。
「あんな馬鹿、なかなかお会いできないよ。晴さんもありがたく生態観察するといいよお」

 そんなわけで、住民の紹介を終わる。
 あ、おれの名前を言い忘れてた。おれの名前は、牧南マキナミ 晴太郎セイタロウ。アパートのみんなからは、『セイさん』って呼ばれてる。


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