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『うちの男子荘がお世話になります!』⑦

〇EP6『ふたりの関係』


 船長とリョクさんに話を聞こう、と榛くんを誘うも、「兄貴がいるなら絶対行かないっす」と断られてしまった。そのため、おれと東西くんと殿下とで事情を聞くことになった。
「さて、どこにふたりを呼びだそうか」
「気軽な気持ちで来てくれそうなところがいいよねえ」
 と、東西くんがセッティングした場所は、近所の飲み屋だった。
「おとなしかいないし、夕飯がてらってことで」
 西さんご夫婦が経営する『飲み屋 西』は、二階建て住居の1階部分を改造して作られた、超小規模居酒屋だ。佐々木男子荘から歩いて行けるところにあり、よくお世話になっている。
「人数いるならテーブル席用意しようか? 」
 という提案に甘え、おれと東西くんと殿下は店奥のテーブル席に陣取った。
 ただふたりを待ってるだけというのも迷惑な気がして、ソフトドリンクと青椒肉絲を頼む。ひとつの大皿を、3人でつつく。
 そういえば、この3人で集まることって、今までなかったな。気がつき、言うと、東西くんは、
「たしかに。いつも榛くんとかがいるもんね」
 とうなずいた。
「ふたりは、いつもどんな会話してるの? 」
「ボクら? 」
 そうだなあ、と東西くんは目を天井に泳がせた。
「最近見た映画の話とか、してるかも」
「映画好きなの? 」
「まあ、殿下がね」
 東西くんが答える。
「殿下はこんな馬鹿でもさ、趣味だけは高尚なんだよ。読書と映画鑑賞。まったく高飛車な趣味でしょ? 」
 そんな高飛車かな? たしかに、インテリな趣味ではあるけど。
 おれが言うと、東西くんはケラケラっと笑った。
「殿下にしては、って意味だよ。ボクは殿下は地の果てまでの馬鹿だと信じ込んでるもんだからさ。読書なんてできるんだ、映画なんて分かるんだって思っちゃうのよ」
 まったく失礼な話だが、殿下は少しも怒る気配がない。いつもの気難しそうな顔で、青椒肉絲をひたすら啜っている。
「でもね」
 東西くんは続ける。
「殿下ったら、読む小説こそ、強がっちゃって小難しい変なのばかり読んでるけど、映画の趣味はいいんだよ。だから、ふたりでいる時は、だいたい映画見てるよ」
「へえ」
 意外、といえば意外だが、他になにをしてそうかって言われれば、映画を見ている、という回答がいちばんしっくりくる気がした。一切口を聞かないひとりと、つかみどころのないひとり。
 おれはあのボロアパートで、東西くんと殿下が並んで映画を見ている風景を想像した。シアターに寄せて電気を消した部屋の中で、映画を見る。東西くんはなにか物を言うだろうか? それとも最後まで黙って映画をみるだろうか? 
 お互い知り合って半年、やっぱり、このふたりの関係性は謎だらけだ。おれが東西くんなら、会話に対してこんなに反応が薄い殿下といてもおもしろくないだろうし、殿下だったら、こんなに自分のことを馬鹿にしてくる相手といたら腹が立ってしかたがないだろう。不思議な関係だなあ、と、ふたりを見る度に思う。
 そんなこんなで話をしていると、船長とリョクさんが揃ってやってきた。
「突然呼んじゃってすみません」
 おれは席を立ってあいさつをする。
「いえいえ! 」
 リョクさんは笑って手を左右に振る。相変わらず、人の好さそうな人だ。船長も、「いえいえ……」とリョクさんを真似てつぶやいている。このふたりがお餅ちゃんをストーカーしてるだなんて。おれの視点からは、到底信じられない。
「どうぞ、すみません、待ってる間に料理頼んじゃいました」
「いえいえ、ありがとうございます」
 一辺を壁につけたテーブルを中心に上座から、リョクさん、船長、東西くん、殿下、おれ、と座ることになった。
「ところで」
 全員でビールとその他料理を頼み終えたところで、リョクさんが口を開いた。
「なにか、ありましたか? 珍しいですね、このメンバーは」
 どうして船長と一緒に呼ばれたのか、ピンと来ていない様子だった。
「ええ、まあ……」
 言い掛けるおれを、
「まあ、乾杯してから話しましょうよ」
 東西くんが止めた。
 たしかに、ストーカーの話なんて、いくら西さんご夫婦でも聞いて欲しくない話題だ。
「そうですか」
 緊張気味の雰囲気に気がついたのだろう、リョクさんはそれだけ言うと、黙ってしまった。
 船長は相変わらずぼんやりした顔で、店内を見渡していた。


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