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『うちの男子荘がお世話になります!』⑥

〇EP5『隠された真実? 』


 かつて東の国にはニェン一族という王族が存在した。歴史から封印された一族である。なぜなら、国の最高機密の人々だと認められ、厳重に管理されていたからだ。
 さて、問題は、なぜニェン一族が、一族ごと、国の最高機密にされたかということである。理由は、彼ら一族の“内側”にあった。文字通り、内側である。
 ニェンの血を引く者は、腹の中にダイアモンドを形成するのだ。生まれたばかりのころは欠片ほど。だが、体が大きくなるに比例して、ダイアモンドも大きくなってゆく。ダイアモンドが体内で成長するのだ! 80カラットにまで成長した例もあったらしい。
 消化器官の近くに存在する、ダイアモンド。取り出してみても、なくなることはない。取り除かれた部分にまた新たにダイアモンドができるからだ。ダイアモンド生成器。ニェン一族が一生遊べるだけの財を手に入れた方法など、想像するだけでおぞましい。一族内の残酷極まる歴史である。
 一時は尽きることなき財産で膨れ上がったニェン一族だったが、ある時期を境に衰退の一途を辿ることとなる。それは、国規模の飢饉である。この大飢饉の中で、ニェン一族のみならず、さまざまな王族が衰退することになったのだが、ニェン一族にはそれ以上の危機が訪れていた。
 ダイアモンドを生成する、その体質が狙われ始めたのである。
 人々は血眼になってニェン一族の人間を探し、ある者は監禁し、ある者はセリにかけて売り飛ばした。そんなことをされているうちに、ニェン一族は分散し、数を減らしていった。
 飢饉が収束するころには、もう数えるほどになり、国は彼ら一族の保護を行う。国の最高機密に指定することによってニェン一族は事実上、地球上からその名を消すことになったのだ。
 さて、消えた王家、ニェン一族の末裔はどこにいるか。噂では、海を渡ったと言われている。海を渡り、遥か日本へ。日本の、ボロアパートへ。その名も、佐々木男子荘だ。
 佐々木男子荘の紅一点、柏餅 夢子は、ニェン一族の最後の末裔として生を受けた。そんな生い立ちを持つ彼女は、簡単に警察に駆け込むことができない。警察に調べられれば、彼女がニェン一族の末裔だと世に知られてしまうかもしれないからだ。
 しかしこのままひっそり潜んで暮らしてゆくのも寂しい。彼女は携帯を手に取った。誰か、ワタシの存在に気がついて欲しい。彼女はサイトを立ち上げた。
 『夢子の夢々なるままに』──タイトルを打つ。
 ニェン一族の紋章であったピンクと水色のカラーリング、ウサギ。

「そう、すべてのピースは最初から提示されていたのだ……」
「いや、なんの話」
 おれは榛くんに思わず突っ込む。
 一方で、東西くんと殿下は慣れっこなようだ。
「小説家先生の誇大妄想話だよ。タダで先生の小説が聞けるなんてありがたい! って思って適当に聞き流すのが吉だね」
「そうなんだ……なんというか、似たもの師弟なんだね」
 どっかの星の電波を拾ってるのはお餅ちゃんだけだと思ってた。おれは溜息をつく。
 榛くんはまだ夢の世界にいるらしい。一点を見つめ、ブツブツと話の続きを唱え続けている。
「ちょっと、榛くん、榛くん、戻ってきなって」
 東西くんに目の前1センチで手を叩かれ、やっと、
「うおっ! びっくりしたっす! 」
 と、意識を取り戻した。
「佐々木 榛名大先生の傑作小説も一段落したところで」
 東西くんが切り出す。
「さっそく、リョクさんたちに話、聞きに行こうか」


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