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バランシン振付『ヴィエナ・ワルツ』——ワルツの調べと共にメイン5品のフルコースをがっつり賞味、または心踊るデートマニュアル5編勝負

〈 contents 〉
名曲に彩られた豪華5場面
スザンヌ・ファレルは、やはりバランシンの特別なミューズだった
サプライズ・ゲストの正体
お宝映像ガイド

 振付家ジョージ・バランシン(George Balanchine、1904〜1983)が1977年に本拠地であるニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)で振り付けた『ヴィエナ・ワルツ / Vienna Waltzes』は、数あるバランシンの一幕作品の中で最高レベルの豪華さとスケールを誇る大作だ。
 ウィーン所縁の作曲家、シュトラウスやレハールの耳慣れた楽曲を選りすぐった、全45分の5場面構成。 “ウィーンの森”ないしハイソサエティ感満載の美術に彩られた舞台で、オートクチュール・レベルの衣装をつけた総勢55名のダンサーが乱舞する。1品だけでメインディッシュになるウィーンの名物料理5品を次々と賞味する、満腹必至の豪華フルコースディナーの趣がある。いかに男性が女性をエスコートし、いかに女性が男性にエスコートされるのかを伝授するデート・マニュアルとしても有用だろう。
 軽装のダンサーが疾風怒濤のスピード感で踊るアブストラクト仕立の作品を好んで振り付けたバランシンとしては、例外的な作品ではある。しかしバランシンのアブストラクト・バレエがどれほど逸品揃いであっても、数週間かそれ以上にわたるNYCBの定例シーズンで、連日連夜(休演は月曜のみ、土曜日はマチネがあるので週7回公演)、簡潔な作品ばかりを見ていると、時には重厚なバレエを見たくなるのが、ファン心理というもの。バレエ初心者から百戦錬磨のうるさ方まで、不特定多数の観客が欲する作品を提供するツボを心得たバランシンは、本作のような、折々に趣向の異なるオタノシミを用意したものだ。
 換言すれば、バランシンは己れのインスピレーションの赴くままに新作を発表する振付家だったのではない。シーズン毎にアブストラクト・バレエを振り付けるかたわら、先鋭的な異色作を作り、通俗的に過ぎるとの批判を恐れることなく親しみやすい作品をも発表した。あっという間に上演が途絶える作品があったとしても、バランシンは目先の評価にとらわれることなく創作を続け、バランスのとれた、次世代に踊り継がれるに相応しいレパートリーが生み出されることとなった。NYCBの屈指の人気作品『ヴィエナ・ワルツ』は、バランシンの豊かなレパートリーの一翼を担っているのである。

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