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ジェローム・ロビンズの『ファンシー・フリー』は、掟破り5連発の愛すべき確信犯的・歴史的大ヒットバレエ ---- パリ・オペラ座バレエシネマ「ジェローム・ロビンズ・トリビュート」公開記念エッセイ

 1944年4月18日(火)、バレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)は有望なソリスト、ジェローム・ロビンズの振付による『ファンシー・フリー』を地元ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で初演した。オーケストラの演奏が始まる前に舞台上のジュークボックスからジャズ風のボーカル曲が流れると、オペラ、バレエを鑑賞し慣れている観客はざわついたが、30分後に幕が降りた時、ロビンズは時代の寵児になっていた。
 20数回のカーテンコールが繰り返され、出演者でもあったロビンスは万雷の拍手を浴びた。振付家ジョージ・バランシンを何かにつけ酷評することで知られるニューヨーク・タイムズ紙のダンス評論家ジョン・マーティンは、同作をかけ値無しのヒット作と評した。4月9日(日)に始まり、5月7日(日)に終了予定だった公演は5月21日(日)まで延長された。マチネを含む17回公演中、『ファンシー・フリー』の上演回数は11回を数えた。
 音楽はレオナード・バーンスタイン(1918〜1990)、振付はロビンズ(1918〜1998)、装置はオリヴァー・スミス(1918〜1994)、衣装はカーミット・ラヴ(1916〜2008)。20代の若者たちが生み出した新作の評判はあっという間に巷に行き渡り、リアルな観客が劇場に殺到した。本作はバズったのである。

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