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『シンフォニー・イン・C』は、バランシンの本音と建前と全幕古典バレエ数作分の見どころを凝縮した、簡潔で緻密なチュチュ・バレエ

 1947年7月28日にパリ・オペラ座バレエ団(以下、オペラ座)で初演された『シンフォニー・イン・C』は、振付家ジョージ・バランシン(1904〜1983)の長く豊かな黄金時代の始まりを告げることになる、世紀の傑作である。
 同年、ゲスト・バレエマスターとしてオペラ座に招かれ、『アポロ』『セレナーデ』『妖精の口づけ』を再演していた間に着想を得て、2週間で振り付けたもの。パリ滞在中の新作ゆえ、音楽はフランス人作曲家の楽曲こそが相応しい。バランシンの人選は、ジョルジュ・ビゼー(1838〜1855)。オペラ『カルメン』の大成功を見届けることなく夭逝したパリジャンが、パリ音楽院在学中だった17歳の時に作曲した「交響曲第1番 ハ長調」に白羽の矢が立った。堅苦しさとは無縁の若々しさに満ちた音楽は、第二次世界大戦の戦禍から復興の一途にあったパリの晴れやかな気分に合致していたのだろう。
 ビゼーの楽曲に準じた4つの場面からなる構成は、さながら数式のように簡潔にして緻密だ。変化に富んだ4つの楽章にのって、特定のプロットを語るかわりに、幾つもの趣を写し出していく。時に古典的、時に自由奔放な『シンフォニー・イン・C』は、バランシンの本音と建前と全幕作品数作分の見どころを全30分に凝縮(=アブストラクト)した一大パノラマなのである。

『シンフォニー・イン・C』*
音楽:ジョルジュ・ビゼー「交響曲第1番 ハ長調」
第1楽章 アレグロ・ヴィーヴォ
第2楽章 アダージオ
第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
第4楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ

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