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ココロ

家にいて、何もやる気が出ない時はとりあえず手を動かそうと掃除が始まる。今日  本棚の整理をしていると、学生時代のスケジュール帳が出てきた。見ればぎっしり予定が詰まっていて、休みの日が一切ない。この頃、大阪でモデルを始めた頃で何かと出費があり、上京も視野に入れていたのでお金が必要だったのでバイトを掛け持っていた。平日は朝の6時からホテルのバイト、午後から学校で授業を受け、夜は深夜までレストランでバイト。そこに1ヶ月に1回提出する設計課題(建築を勉強していたのです)、学外の建築系展覧会の運営、モデルの仕事、友達との遊び、当時付き合っていた人とのデート。

一体このスケジュールをこなす(こなせていたのかは微妙。)体力と気力はどこから生まれていたのか。

ただ、一度だけ授業中に倒れかけたことがある。朝のバイトを終えてから、学校に行き、いつものように授業を受けていると急に震えが止まらなくなった。 家に帰って熱を測ると38度(ちなみに平熱は35度台)。これはまずいとひたすら寝たら驚異的な回復力をみせ、次の日は元気が有り余っている状態だった。睡眠は何より大事らしいと気付く。

その頃、夜のレストランのバイトで疲れからくるイライラがシェフに伝わり怒られた。閉店後、半べそになりながら早く片付けて帰って少しでも多くの睡眠をとろうと急いでワイングラスを洗っていたら割ってしまい、指を切った。全く血が止まらず、シェフとタクシーに乗り夜中の救急病院へ。1件目は皮膚科がやっておらず、そこで紹介してもらった診療所へとまたタクシーに乗ってむかう。着くと薄暗い診療所の奥から眠そうな医者が出てきて、切った指を診てもらい、幸い縫うほどの傷でなかったようで応急処置をしてもらい一件落着となった。

不貞腐れた上にキッチンで血を流し、救急病院も行くことになるし、診療所の医者を叩き起こしてしまった気がしたし、何よりシェフに申し訳なさでいっぱいだったが、体力と気力の限界で「ごめんなさい」と「ありがとう」の言葉を小声で言うことしかできずにいた。

その後、家に帰って3時間後には早朝バイトにふらつきながら行き、終わってから近くのドトールで一息つく。携帯を覗くとシェフからメールが来ていた。

「 "忙" という漢字は心を亡くすと書きます。たまには立ち止って振り返りみてください。」

これを読んで今まで我慢していたものが急に溢れ出し、一人でむせび泣く。近くにいたお客さんやカップルはそれに気づいたのか気づいてないのかわからないけど何事もないように話し続けていて、それが私にとって優しさのようにも感じ、さらに涙が止まらくなった。

その後、いろんな事が重なり早朝レストランのバイトを辞め、スケジュール帳にところどころ空白が見られるようになっている。日記を見れば、それなりにご機嫌な日が続いたご様子だ。

忙しくなることは良いことだけど、私はそういう時大事なことを見落としがちになる。人に優しくできないだろうし、イライラだってしやすい。今日は風が気持ちがいいとか、季節の些細な変化、目の前で偶然起こる素晴らしい瞬間に気づかなくなる。それに反応する心の余裕もないのだと思う。

今はその頃とは比べものにならないほど静かで、自然が起こす日々の出来事に敏感になり、自分にとって本当に大事にすべきことは何なのか対峙できる時間ができ、きっとそういう時期なんだと思うようにしている。

これから世の中が大きく変化するだろうし、深くアクセルを踏まないといけない時がくるだろうけど、心は亡くさないようにしよう。というのが、本日の掃除で出た結論です。