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これぞ、理想のキッチン?

年に一度の防空壕公開日だったので、旧安田楠雄邸庭園へ。
団子坂から奥に入った須藤公園の急な坂を登り切った先に旧安田楠雄邸庭園があります。
須藤公園を上がると、突然、景色が変わっていきます。
それまでに、ごちゃごちゃした下町の長屋が姿を消し、大邸宅がずらり。
昔、銀行の頭取の家が軒を並べ、銀行通りなどと呼ばれていたとのこと。

その一角にある旧安田楠雄邸庭園。
大正時代に建設したのは、豊島園を作った藤田好三郎。その後安田財閥の一人に買い取られ、1995年、当主の楠雄氏が他界して、ナショナルトラストに寄贈されるまで、人が住み続けていた家。
そういう意味では、恐らく、必要に応じてリフォームなどされながらも、当時の機能を保ってきた昔の家。

昔の家好き、昔の台所好きにはたまりません。
邸宅の主だった安田善四郎は安田財閥の実業家で、
家に客人を招いてパーティーやおもてなしをしたらしい。
それは、広い応接間からも十分想像がつくのですが、
その裏を支えたキッチンですから、もう、これは素晴らしい!
理想的なキッチンに思えました。

ということで、忘れないうちに、安田邸キッチンについてメモをしておきたいと思います。

キッチンは、調理室と配膳室に別れています。
当然のことながら、調理室の手前に配膳室。
配膳室の一部は廊下に面していて、風が入るようになっています。
その風の通るあたりに、できた上がった料理を置く配膳棚。

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両面とも金網がはってあって、空気が抜けるようになっています。

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普通の食器棚の3倍くらいの幅はありそうな配膳棚。
一度にどれほど多くの来客があったのかが偲ばれます。
そして、その配膳台のすぐ脇、客間、洋式の応接間に近い側にあるのが、冷蔵庫。もちろん、電気のない時代の冷蔵庫です。

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二段式?いえいえ、上には氷の塊を入れるわけです。

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スタッフの方が開けて下った氷室の中にはダミーの氷。朝、これが成城辺りから氷屋さんによって運び込まれて、夕方になると小さな氷になってしまうのだそうです。

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下を開けるとこんな感じ。カルピス一本、入るっていうことは、瓶ビールをたてておくこともできたでしょう。麦茶や冷やした水を入れて、カルピスを割ったりもしたのかもしれないですね。

天井はどうなっているのかしら……とのぞいてみました。

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アルミの鉄板のようなもので仕切られていて、恐らくあまり水滴が落ちないようになっていたのかもしれません。

ちなみに、配膳台の反対側にはこんな食器棚が。
そうでしょ。やっぱり、食器棚極めるとこうなるよね、と思う形です。

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奥行き20cmほど。ある意味では、お膳で配膳などすることを考えると、基本的には20cmもあれば十分なんですね、日本の食器。西洋の食器も混在するようになったから、食器棚が混乱するんだなぁ、と改めて思いました。

そして、奥のキッチンは!!!
なんと、アイランドタイプでした。

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中央に大きな流し。銅板のようでした。
水がらみのところには銅が多いのは、鉄よりさびないから?
整形がしやすいから?(調べます)
その手前にガスレンジ(とオーブン)。
そして、ガスレンジの奥にあるのは、配膳室のものより大型の冷蔵庫。
奥に調理器具や布巾その他入れたであろう棚。その上が作業台。
作業台を窓側に置くことで、電気がなくても恐らく作業が長く継続できるように配慮されています。

流しの手前の床の板をようすから、これらはフタになっていて、手で持ち上げられることがわかります。
写真をとってこなかったのですが、所々に、人差し指を突っ込めるくらいの半円があいていて、そこに指を突っ込んで、フタをあけると床下収納。
いえ、恐らく収納ではなく、瓶がいっぱいあったのではないかと思います。
梅干しや漬物類。恐らくビールもここで冷温保存して、最後にググっと冷蔵庫で冷やしてからおだしする……というパターンだったのでしょう。

そして圧巻なのは屋根です。

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この天窓!
台所は狭くて寒い北側が相場。
当時の日本家屋ならなおのことでしょう。
でも、その北側でも明るく作業できるようにということで、この量のガラス。当時としては、かなり思い切ったデザインですし、ガラスは高級品。まして屋根に使うとなると、強度の問題などもあったでしょう。
(木材の様子を見ると、天窓にしたのはもしかしたら比較的最近 あのかもしれませんが……。それにしても)

いったい、ここで何人ぐらいの女中さんが作業をしたのでしょう。
とてもよく考えられた台所。
当時のお金持ちの豊かな暮らしを彷彿とさせるキッチンでした。

得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)