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癌治療をしないという選択

花咲癌だって
エリちゃんからそんなメッセージが来たのは、
母の膵臓癌がわかる前後。
3年半ほど前だったと思う。
母は膵臓癌のステージ2。彼女は乳がんのステージ4だったのだろう。
母は89。エリちゃんは45か6だったのではないだろうか。
この二人の共通点は、いわゆる癌治療の全面拒否というところ。

目的も、方法も全くちがうけれど、
文字通り命をかけて、治療を拒否した二人。
前にも書いたけれど、私はスピリチュアルな療法や
民間療法が好きではない。
いやむしろ、エリちゃんのWebに、重曹が癌にいいらしいですよ、
クエン酸もね、なんて無責任に書き込む人に
なんていい加減なとクレームをつけてもめたりっていうこともあった
くらい、無責任な民間療法は大嫌いだ。

でも。
末期癌でもなんでも、癌の診断が出たら抗がん治療という今の
流れには、QOLという意味で少なからず疑問を感じている。
なので、そういう意味で、癌治療拒否という珍しいケースについて、
多少でも情報を知りたい人の為に、とりあえず、シェア。

母はステージ2だったので、手術もできると医師には言われた。
でも、8時間近い手術とその後のリハビリに堪えられるとは思えない
という母の判断で、手術はしないことにした。
もう一つの理由は、手術後5年間の生存率が決して高くないことだった。
同時に、苦しい化学療法は放射線療法は、乳がんの経験から絶対にやりたくないと、以前から母はいっていた。
だから、母は一切の治療をしなかった。

一方のエリちゃんは、普段から民間療法、
手当を軸に生活している人だった。
いわゆる医療を信用していないといえばいいのだろうか。
なので、琵琶などの湿布、砂風呂、湯治といった
手当を軸にした治療をしてきた。
当初はただれてひどかった皮膚。
砂風呂、湯治を繰り返すうちに、傷口が塞がってきた、
と彼女は言っていた。
去年の年末からは、生活学校みたいなものを一緒にできないか、
という話をちょくちょくしてきた。
彼女は、病気になっても安心して暮らせるコミュニティを作りたい
といっていて、その前段階として、いくつかのイベントをしながら
暮らし方の提案や知恵の共有をしたいと考えていた。

母が癌を告知されたとき、
何もしなかったら寿命はどれくらいか、と母がお医者さんに聞いた。
1年くらいではないでしょうか。
というのがお医者さんの答えだった。
それが6月。母は翌年の11月に亡くなった。
頑張ったという表現が適切かどうかわからないけれど、
お医者さんの予想より半年近く長く生きたことになる。
でも、それよりもあっぱれだったのは、一月前にホスピスに移るまで、
ほぼ一人で自宅で食事を作りながら生活を続けてきたことだ。

一方のエリちゃんはというと、花咲癌の多くの場合のように
ステージ4だったとすると、40代の若さで進行癌にもかかわらず、
そこから3年以上、暮らし続けてきた。
引越をし、新しいウェブを立ち上げながら、
新しい事業を展開するなどして活動を続けてきた。

彼女の友人から、エリちゃんののぞむ手当を続けたい、
ボランティアで手伝える人は手をあげて!
という悲鳴のようなメッセージが来たのは9月5日。
腹水がたまり、痛みが強くてスマホを持てない状況だった。
そこから、8日で彼女は旅立ってしまったわけだけれど……。
民間療法では助からなかった。
という見方もできるかもしれない。
けれど、化学療法をやっていたら、
ここまでこられただろうか、とも思う。

命は一つしかなく、やり直しの効かない選択だから
どちらが正しかったかと言う問いは
意味がない。

でも。
エリちゃんはよく頑張った。
2年近く前だったか、傷口が塞がったよ、と彼女が言ったとき、
このまま癌が消えてくれれば
化学療法なしでも快癒する例になってくれればと
心から願った。
それはかなわなかったけれど、それでもやっぱり
最後まで彼女らしい生活を送れたことはなににも代えがたい
……と思うのだ。

今もう一人、知り合いが癌という診断を得て、40日だけという期限付きで
お医者さんの了承を得て、民間療法をあれこれ試している。
彼もエリちゃんと同様、その情報を共有することを大きな目的として、
それをFBやWebで発信している。

ここでも、いわゆる癌治療をしないで、民間療法で癌が治癒できるか
ということが焦点になっているけれど、
個人的には、そうやってみんながあれやこれや知恵を授けてくれて、
あれこれ実験していることそのものが彼のQOL をあげていて、
結果的にはそれが大事なんではなかろうか……などと思っているのだけれど。
もちろん、癌が消えれば素晴らしいけれど。
消えなくても、
抗がん剤の副作用の中で、効いた効かないと
一進一退のジェットコースターみたいな感情の起伏に苦しまずにすむのは
それはそれで大事なのかも……と思ったり。






得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)