お父さんもお母さんも私もいつかはお年寄りになるのが怖い

お年寄りとはあまり縁のない暮らしをしてきた。典型的な核家族育ちだ。

祖父母は父方も母方も遠方で、盆か正月にしか会わなかった。

仕事もお年寄りと関わる機会はほとんどない仕事しかしたことがないし、
あまりお爺さんお婆さんと関わることなく大人になった。


「これはあんた、押したほうがいいんか、これは」
祖父に呼ばれてスマホの画面を覗き込んだら、有料課金させるための広告だった。

私からするとどこからどう見ても広告なのだが、祖父からすると画面に出てくる何が何やらさっぱり分からないようだ。


「このじいちゃんのパソコン、あんたのパソコンみたいにケーブルに繋がんでもネットできるようにできんのか」
「うん、おじいちゃんのパソコンは無線対応してないから、そもそもWi-Fiを受信できないからね」
「ほぉ、そうか」

翌日また、
「あんたほれ、おじいちゃんのパソコンはWi-Fiはあかんのか」
同じことを聞いてきた。

「うん、おじいちゃんのやつは、無線をキャッチする機能がそもそもなさそうだからだめだねぇ」と返事すると
「あー、そうやったそうやった」と納得した様子だった。


「なんでこんな簡単なことが分からないんだろう」
「なんで自分で変なボタンを押しちゃってるのに、勝手に画面が変わったと思うんだろう」
と不思議で仕方がない。

だけど私もお年寄りになったら、孫の代くらいの子たちが当たり前のように分かることが、さっぱり分からなくなるんだろうと思った。

すごく怖くなったし、いやだなぁと思った。


祖父は85歳だがかなりしっかりしていて、最近ゴルフでエイジシュート(※自分の年齢より低いスコアで回ること)を達成したらしい。

よく食べ、よく笑い、よく眠る、素敵なお爺さんだ。


祖父母と三人で食事する。1日に3回。

咀嚼音が気になる。口を閉じて食べてくれないかなぁ。音も、見た目も、気になる。

祖父はピザにも甘いパンにもひきわり納豆を乗せて食べるし、祖母はごはんとポテトサラダを海苔で巻いて食べる。

びっくりした。あぁ、びっくりしたぁ。

なんでぇ? と思うことがたくさんある。


清潔にしているように見えるけれど、近くで話すとお年寄りのにおいがする。
顔をしかめそうになって、そんな自分が嫌になって、とりあえず鼻の前に手を持ってきたりする。

私の父も母も、いつかはこんなにおいがするようになるんだろうか。
そしたら私は、自分の両親に対しても「いやなにおいだなぁ」と思うんだろうか。

そしてそのうち私自身が、お婆さんのにおいになるんだろうか。

今と変わらずに身体を洗っても、どうしても、お婆さんのにおいになってしまうんだろうか。

いやだなぁ、いやだ。
すごくいやだと思ってしまう。

お父さんとお母さんがお年寄りになって、私の言ってることをぜんぜん理解してくれなくなって、
食べ方がちょっといやな感じになって、
もしかしたらいまピカピカな実家だって、不潔な感じになったら、どうしよう。


私には少し潔癖なところがある。

床に髪の毛が落ちているとソワソワして落ち着かないし、ぬるぬるしている水回りには鳥肌が立つ。

大丈夫かなこの食器、ちゃんと洗えてるのかな。
そんな風に考えてしまう自分が心底いやになる。お風呂場でつま先立ちしてしまう自分。吊り革を掴めない自分。台布巾は雑菌だらけに見えて触れない自分。

みんなそうなのかな。
私がちょっと神経質なのかな。

年々、神経質になっていく。


祖父母のことが大好きだ。

パソコンやスマホを設定するとすごく喜んでくれる。

私が仕事する様子を見て「あんたは立派だねぇ〜」と褒めて、喜んでくれる。

そのことはまた別の日記に書こう。


とにかく、私は自分の潔癖なところがいやになった。もっと大らかで何も気にならないタイプだったら、生きやすいのにと思う。

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