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モノローグ『歩みあい』

(路地裏を歩きながら)

さっむ、マフラーもってくればよかったなぁ 
まだ夕方なのにさ、暗くなるのずいぶん早くなったよね。
ごめんね、仕事帰りにいきなり散歩行こうなんて言って、怒ってる?
…だってなんか早足だからさ、もう少し、ゆっくり歩いてほしい、うん。
昔は近所のさ、こういう、人通り少ない、小道ていうのかな、ぶらぶら一緒に散歩してたけど、なんか、こうやって歩くの久々だね。

…あのさ、初めてデートに行った時のこと覚えてる?
そう、二人で豆腐屋さんに一緒に行った日。もう4年も経つか。
たまたまデートの帰りにさ、豆腐屋さんみつけて、ちょうど、今日みたいにあの、パープーてラッパの音がして、古びた小さな店でロマンも何もないんだけど、何となく一緒に立ち止まってさ。
たくやが豆腐が好きだっていうから、じゃあ買ってみようかって言って、何でかな、昨日のことみたいに、覚えてる。

あの時ね、あの、お店の中入って、二人で初めて一緒に豆腐を食べようとした時にね、豆腐が思ったよりもやわらかくって、ぷるぷるしててさ、なんかお皿にのせてるのに、手のひらでゆらゆら揺れちゃう感じが、ずいぶんたよりなく思えてさ、落としちゃいそうでどぎまぎしちゃって、そしたら私指先が震えちゃったの。
たくやに気づかれないように、そっと隠してた。
二人でおいしいねて、目合わせた後は、豆腐食べるの一所懸命で、すっごく静かなんだけど、なんか満たされてて。
たくやの豆腐を美味しそうに頬張る顔がなんかかわいくてさ、笑っちゃった。
たくやもさ、私がみてたら一緒に笑ってくれて、だから、なんだかじんわり、豆腐の熱さとかじゃなくてね、すごく身体中ぶわああてあったかくなっちゃって。
ちょっと照れくさそうに笑うたくやの横顔好きだったなぁ 
私手を繋いだりとか、抱きしめたりとか、なかなかうまくできないことばっかだったけど、それでも、何百回でも愛してるよ、て言いたくて、胸がきゅうってなって。
あ、話それちゃった、ちゃんと今日いうって決めてきたのにね。
…聞いてくれる?

…最近私ね、ずっとそばにいるのに、あの頃よりたくやのこと、すごく遠くて。透明な膜が二人の間にあって、なんかね、なんか、一生懸命話しても、言葉はそこで突っかかって、ぱちんて消えちゃうんじゃないかて思えて 
おかしいよね、そんなの。
でも、だから、そのみえない膜が私たちのこと阻んでいて、それで私たちわかりあえないんじゃないかって、大事なこと全部、はじかれて届いてないんじゃないかなて。
…ごめん、変なこと言った。

でも、ちゃんと聞いてほしいんだ今日は。
私の言葉意味わかんないかもしんないけど、最後まで、諦めたくなくて、わかってほしいの。ちゃんと言いたいの。

私ね、私、たくやと、縁を切りたい。
みつかったでしょ。薬、飲んでるの
最近私がよく出かけるたびに、浮気じゃないかってたくやは疑っていたけど、私はいつも精神科にいってたの。
見つかった時、ああこれでもう、終わりだ、て、どっかほっとした。
私がうつ病だって言ったらたくやはずっと待つからとか、大切だから私を助けたいとか、大変だろうけど頑張ってとか、色々言ってくれたよね。
それがね、それが、私の人生を不幸だってたくやが決めつけてるみたいで、私たくやが、たくやと、頑張って、何十年この先も一緒にいる未来なんて描けないなて気づいちゃった。

昔、二人でデートするようになったばっかりの頃とか、一緒に住み始めた時とか、今もよく思い出すんだけどね、たくやは私を置いて先には絶対に行かなかった、隣で歩調をゆっくり合わせて待ってくれてる人で、それがすごく嬉しかった。

指先が震えちゃっても、隠す相手がいなくなるのって、自由で、すごく寂しいね。
私は弱いから、たくやと離れようって思って、やっとわかったよ。
ずっと一緒にいてくれて、私が躓いた時もたくやは沢山待ってくれてて、恩なんて結局一つも返せないままだったけど。

たくや、あのね、一緒に食べた豆腐、おいしかったよ、うん。なんかそれだけは絶対に絶対に、言いたかったの。うん、そんだけ。

なんでかなぁ、私今やっとたくやに触れられた気がする。バカだなぁ。でも、ごめん。もう、私、先に、行くね。うん、私が、先に行くよ。



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