それは突然の出来事だった
２７日満月を迎える日の朝
ピーンポーン　
インターホンが鳴る

まだ朝７時前
宅急便ではないはず
誰？こんな早くに

緊急な事かな？
気持ちがざわざわする

モニターのボタンを押して外の様子を見る
まだ暗くてよく見えない

暗闇の中に右側の壁にぼんやりと白い光が写っているだけ

前の部屋のドアが遠くにうっすらと見える

そこに人影は全く見えない

ピーンポーン　
２分くらいしてまた鳴った

外の映像を凝視するが誰もいない

じっと見つめる私　
ピーンポーン

見つめる映像に変化はない

インターホンを押すには
姿がうつるはず

押してすぐに走り去ったとしても
物音はするはず

ピーンポーン

押して見えない死角に倒れているのか
わざわざ隠れて押しているのか？
見えない何かが押しているのか
謎だ

何の用ですか？誰ですか？と聞いてみた

答えはない　
ピーンポーン
喋れない状態なの？

さすがに怖くなってきた

誰か亡くなった人のお知らせなの？
幽体離脱して知らせに来たの？
勝手に恐怖のシナリオを脳は作り出す
亡くなりそうな高齢の人の顔を浮かべてしまうひどい私

ピーンポーン
　

その思いはすぐに打ち消す
恐怖の感情には巻き込まれないぞ

ドアを開けて外を見るのは怖い
人が倒れていたらどうしよう
ドキドキする

宇宙人仲間が満月の挨拶に来たのかな？
変な妄想が膨らむ

夫も見に行ってくれない
怖いのは同じ

少し明るくなるのを待とう

その間も時々
ピーンポーン

ピーンポーン

何度見ても
モニターの映像には何もうつらない

勇気を出してドアを開けるしかない

刺されたらそれまでだ
仕方ない運命と諦めよう
それよりお化けだったら
宇宙人だったら
どう挨拶しようかな

ガチャ
そぉっと開けてみた

でもそこには誰もいなかった
古いマンションの古い廊下が見えるだけだった

試しにインターホンを押してみた
ピーンポーン
ピーンポーン
ちゃんと鳴る

しつこく押してみた
ピーンポーン
ピーンポーン
ブチ
ブチ
今度は鳴らなくなった

なーんだ壊れたんだ
私が壊したわけ？


部屋に入って
鳴らなくなったから壊れたみたいよ
と夫に告げた

管理会社に連絡しなきゃと言われた
めんどくさいな
年末だし来年でいいかも
と言うと呆れられた

しばらくすると
ピーンポーン　
また鳴った
なんで？復活するのよ
壊れたままのほうが良かったのに

年末年始このままだと寝れないでしょ
と夫が言った

確かに寝れないかもしれないし
寝れるかもしれない


じゃあどこかに正月明けまで泊まりに行こう
と言うと
なんて呑気な考え方なのとまた呆れられた

怒ったかも

そう言われたら私は呑気かも
泊まるにはお金がいるもんね

仕方なく夫が緊急時対応してくれるところに電話をかけた

夕方には来れるとのことだ
全てはそれからだ


それからも時々
ピーンポーン
ピーンポーン

気にしないことにしよう
鳴るのは
インターホンの自由だし



約束の時間に
ピーンポーン
ドアを開けると

ヨレヨレのおじさんが笑顔で立っていた

右手に新しいインターホンの箱を持っていた
彼は救世主だった

新しいインターホンになった
故障はしますからね
長く使えたほうですよ
と褒められた
喜ぶことなのか？

こんなことで新しいステージに立てた気がした

満月の日の出来事だった

真夜中にベランダに出て
ひとりで空を見上げた
コールドムーンと呼ばれる
今年最後の満月に出会えた


綺麗　キレイ　きれい
たくさんの星も月と一緒に見ることができた

明日から新しいインターホン
もしかして見える世界が変わるかも

バージョンアップしたんだ
ガッツポーズをしてみた

あいかわらず呑気な私
あいかわらず古いマンション
新しいインターホン

壊れてお別れする前に
インターホンの
最後の叫びだったのかな
ピーンポーン
ピーンポーン　
さようならsaku
僕はゴミになるよ
リサイクルはしてもらえそうにないからね
さようなら

ありがとうね
長い間一緒に暮らしてくれて
外の人と私を繋いでくれて
インターホンさん
お疲れ様

さようなら
今度は何に生まれ変わる？

記事の写真は麻布台ヒルズギャラリー開館記念

オラファー・エリアソン展

の作品を私が写した写真です。
記事と写真は全く関係ありません。

こんな記事に使ってオラファー・エリアソンさん
ごめんなさい😓。
使いたくなる気持ちが湧きました。

✩このインターホンはテレビドアホンのことです。