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もっと背景の話をしよう

アルスマグナをひとつのフィクションと考えたときに、1度恐いくらいぴったりくる結論に辿り着いてしまったので書きます。結論って何ってそりゃ、フィクションには終わりがあるでしょ、きっと。

私立クロノス学園高等部に入学した朴ウィトくんがダンス部を作りたい!と思い、偶然ダンス欲が湧いていた榊原タツキくんと出会い、知り合いの神生アキラくんを誘い、それに同じクラスの泉奏くんが巻き込まれ、クラス担任の九瓏ケント先生が顧問を頼まれ、無事ダンス部は結成されました。タツキの友達であるぬいぐるみのコンスタンティンもメンバーとなり、アルスマグナというチームとして5人と1匹は活動を始めたわけです。

文化祭のステージ直前にコンスタンティンが誘拐されたり、風紀委員会の部屋を勝手に部室にして怒られたり、2次元と3次元を行き来できる扉の鍵を奪われて解散を迫られたり、色々バタバタしながらも楽しい学園生活。
そして、池袋で本人がビラ配りをしても全然お客さんが来なかった頃、タツキが怪我したこと、【踊ってみた】でバズったこと、憧れのダンマスのステージ、メジャーデビュー、はじめての全国ツアーのファイナルでのアキラの涙、武道館公演を先生が発表したあの瞬間、その武道館公演は2度も成功して今に至るグループとしての活動。
その2つがアルスマグナのメインストーリー、であれば、永遠に続いていくような気がするのだけれどね。

最初に書いたようにバラバラと集まったメンバーたちは、実はそれぞれの過去や家庭事情を抱えていて、だんだんとそれが明らかになるという物語の進みかたがひとつ、ある。その話がしたい。してますけど。

最初は、アキラ。アキラは高校1年生の秋にクロノス学園に転校してきた。その前は美原島というところで家族と島のみんなと一緒に暮らしてた。だけど夏休み、車ごと土砂崩れに巻き込まれて天涯孤独になり、祖父のツテで全寮制のこの学園に来たのだ。アルスマグナを結成してしばらく、島での大親友シレンがクロノス学園に乗り込んできたことで、アキラが事故のショックで島での暮らしの記憶を失っていることが発覚。シレンはアキラが記憶を取り戻さなければアルスマグナを解散しろなんて言うけれど、どんなことをしても結局記憶は元には戻らなくて、アキラは奇跡的に身体が覚えていた約束のダンスをシレンと2人で踊る。記憶は戻らなかったけど今のアキラにはアルスマグナっていう仲間がいて楽しそうで、シレンにもまた仲間がいて、それぞれ頑張ろうねよかったねっていう話。

次が奏。学園では完璧キャラでも、音楽一家の冴えない末っ子であった奏は武道館公演直前に兄からアルスマグナをやめろと迫られる。ダンスなんて遊びはやめて、ピアノに集中しろ。泉家の人間として恥ずかしくないのか、と。親戚からはいつも「兄じゃないほう」として扱われることにコンプレックスを抱えていた奏は兄に対して何も言えず、メンバーにも相談できず思い悩むが、様子がおかしいことにアキラが気付く。また、幼少期の弱気な奏を知るある生徒の登場とか色々あって、奏が隠していたその部分がみんなにバレてしまった。でもメンバーはそんな奏を優しく受け入れ、一緒に踊りたいよと伝え、奏も自分が本当にダンスがやりたいのだという気持ちを兄に宣言することができた。兄もその本気度とレベルの高いダンスを見たことでアルスマグナの活動を応援してくれるようになった。よかったね。

ついこの前あったのが、ケント先生。先生にも兄がいるのだが、ウン10年前から1度も会っていない。優秀でなんでもできる完璧な兄に昔ケンカで大ケガを負わせてしまったことが原因。ケント先生はコンプレックスと自分の過失に悩み苦しみ、兄の方も自分と違って奔放で完璧でなくてもみんなから愛される弟に対してこじらせていて、ひどいディスコミュニケーションのまま大人になってしまった彼ら。それが、クロノス学園の理事である九瓏家の跡取りを決めるために父から呼び出されウン10年前ぶりに会うことになったのだ。先生はケンカでの事故のことを謝らなきゃ、と思いながら色々な感情で無理無理ってなり、だけど誇りであるアルスマグナと大好きな生徒たちのことを思い出して、こんなんじゃダメだと決心する。結果的にはちゃんと謝って、お互いにお互いのことを羨んでいたんだ、裏返せばお互い大好きだったんだということに気づき、ふたりとも跡取りにふさわしい大人になるよう精進しましょうということになって、よかった。

あと朴。隠れて(?)パクドルやっているということは今分かっているけれど、2重生活で大変だったり親に強いられてやっているみたいなことは匂わされているけれど、まだ朴の話はちゃんとやってない。次やるならここだろうと思ってるけどどうかな。やってほしい。結局朴の苦しみを救えるのは一番近くにいるメンバーだよなあとか、勝手な予想と希望。

とにかく、この過去パートとその解決を見ると、実は胸のうちに孤独を抱えた人々の集まりだったこと、さらにはアルスマグナになったことによって彼らが間接的に救われていく話であるという風に考えて大きく間違ってはいないように思う。アルスマグナのフィクションは。

さて、ここでタツキとコンスタンティンだ。なぜ上にタツキの話を入れなかったかというとタツキの過去、すなわちふたりの出会いに関しては既に何度か語られているからだ。
あまりにもお金持ちなせいで広いお屋敷で独りぼっちのタツキと、同じような環境で(その上実は夫婦喧嘩を止めようとして死んでいて)寂しい思いをしていたコンスタンティンは奇跡的な出会いをし、一緒に踊り、一番の友達になった。幽霊であるコンスタンティンはうさぎのぬいぐるみに宿ってタツキのお家までついてきたので、ふたりはずっと一緒にいられる。満月の夜には鏡の魔法で人間の姿になったコンスタンティンにも会える。一番のよき理解者、お互いのことが大好きなふたりは幸せそうだ。

つまりタツキも他のメンバーと同じく孤独だったけど、コンスタンティンによって救われている。アルスマグナによってではない。ふたりはずっと一緒でハッピーエンド。いや本当にハッピーエンドなのだろうか?

冷静に考えてみてほしい。高校3年生の男の子がウサギのぬいぐるみと話すことで、肌身離さず持ち運ぶことで、精神の安定を保っているの、全然ダメじゃん。根本的には何も解決してないじゃん。アキラも奏も先生も自分の過去と孤独とどうにか折り合いをつけてきた。朴もきっと、アルスマグナのみんながいれば大丈夫。だけどタツキは?タツキは本当は、コンスタンティンと離れなきゃ、いけないんじゃないの。それがタツキのハッピーエンドなんじゃないの。

コンスタンティンはアルスマグナのメンバーだ。踊らないし、たまにしか喋らないし、だけどメンバー。なんでだろう?

コンスタンティンがメンバーである限り、アルスマグナが存続し続けることはタツキがコンスタンティンに依存し続けることと同じだ。メンバーとして、友達として、ウサギのぬいぐるみとそこに宿る幽霊に依存し続ける。つまり、タツキがコンスタンティンから解き放たれるためにはアルスマグナが解散するしかない。度々解散を迫られるアルスマグナではあるけど、今度こそ、本当に。だってタツキが完全に救われるとき、それはアルスマグナが解散するときなんじゃないの?しかも、そうしたらコンスタンティンがなぜメンバーなのかという謎もとけて、メンバー全員が救われて、アルスマグナというひとつのフィクションはやっと丸く収まるんじゃないの?

アルスマグナはサザエさん方式で彼らは年をとらないけれど、もしも止まった時間が動き出したらタツキは高校三年生で、一番早く卒業する。その彼が最後の大きな課題を持っている。これは偶然?クロノス学園のダンス部としてのアルスマグナがいつか終わりを告げるとき、これ以上ない感動のエンディングかもしれない。

もう一度言うけどここまで全部私の妄想です。ただ、いつかあるかもしれないクロノス学園卒業式をぼんやりと夢想する。アルスマグナが解散したら私は悲しくてしかたがないだろうけど、いつまでも踊っていてほしいけど、もっと背景の話をしてよ、とは思う。あなたたちの紡ぐ物語が見たい、ちゃんと、最後まで。

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