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古い写真を訪ね歩く 6 〜市川好子さんを訪問〜①

国道141号に沿って流れる千曲川には、たくさんの橋が架かっている。今回は、宿岩交差点を曲がった所にある八十巖橋。そこを渡ってすぐの『日本料理 市川屋』を訪れた。残念ながら今は閉店してしまったが、こちらを営んでいた東町出身の市川好子さん(74)を訪問した。

『古い写真を訪ね歩く 6 〜市川好子さんを訪問〜』は2部構成となります。

写真を見ながら懐かしいエピソードを話す市川好子さん

子どもたちが大勢泳ぐ 千曲川の夏の思い出


「父がカメラが趣味でね、いつも三脚持って歩いていたような感じで。」と好子さんは、古いアルバムを数冊持ってきた。好子さんの父は、特別な時によく写真を撮っていたと話す。白黒の家族写真の端々には、当時の地域の様子が写っている。

今では考えられない水量の千曲川の景色。見覚えのある背景も

遥か遠くに見えるシルエットは、お馴染みの浅間山の景色。見覚えのある橋の形は、栄橋だ。変わらない風景が写真の中に写っているが、川の様子はだいぶ違う。千曲川の水は今よりも多く、深く見える。何より、子どもが大勢で泳いでいる風景がとても新鮮だ。

「今では渇水期のように水がなくなっちゃったけど、昔はもっと深かった。プールがなかったから、みんな川で泳いでね。」

この頃の水深は、川の真ん中あたりでは子どもが立てない程だった。それぞれの地区に川の遊び場があり、子どもたちは夏になると近所の川に泳ぎに行った。地域の保護者が当番で児童の安全のための監視をしていたという。写真の中ではみな、思い思いの水着を着ている。プールの授業もなかったため、まだスクール水着はなく、浮き輪は車のタイヤチューブを使う人も多かった。タクシー会社がご実家の好子さんも、会社のものを使っていた、と笑う。

写真をよく見ると、岸に立つ建物も今とは違い、木々が茂っている。河原にも大きな石が目立つ。

甲羅干しの様子。きっと唇が青くなるくらい、川の水は冷たかったのだろう

「これ、甲羅干し。」と好子さんが指さした写真では、さらに河原の様子がよく分かる。当時は気温も今とは違い、暑い日でも30度くらいだった。川の水も冷たかったので、子どもたちは太陽に照らされた大きな石に張り付いて、暖をとっていた。今もいくつか残っているが、当時は写真に写っているような大きな石が、もっとたくさんあったそうだ。川の上流にはまだダムもなく、このような石は、台風の度に流されて入れ替わってしまったと、好子さんは話す。

「この河原にね、タンク石っていう大きな石があって、子どもたちは基地みたいに遊んでたよ。弟なんかは近所の男の子たちと、タンク石の所でテント張ってキャンプしてた。火を起こして遊んだり。親は心配で、夜中に見に行ってたけどね。」

好子さんが小学生の間は川で泳ぐことができたが、それ以降は水質調査で汚染が発見され遊泳禁止になってしまった。同じ時期に学校にプールができ、子どもたちが川で泳ぐことはなくなった。

今ではもう見られないが、写真の中の子どもたちが遊んでいる景色。写真を眺めているだけで、賑やかな声が聞こえてくるようだ。


羽黒下タクシーから見た"ヨタカ"の思い出

レトロな車のフォルム。多くの人がタクシーを利用した。写真の車は日産ブルーバード

白黒写真ながらも、そのカラフルな色が目に浮かぶのは、好子さんの実家でもある羽黒下タクシーの車両。「今ではもう、クラシックカーだね。」と懐かしそうに話す。温かみのある柔らかいフォルムの車両の前に立つのは、好子さんの母。乗っているのは妹だ。

車種はクラウンなど、トヨタの車が殆どだった。ベンチシートで前にも3人乗ることができた。窓はハンドルを回して開閉する。小学生だった好子さんも、度々タクシーに乗っていたそうだ。

「余地にある『峠の湯』の鉱泉には、結構人が来てね。羽黒下駅で降りて向かう人も多かった。お客さんを乗せて行く時、私もよく“助手”として一緒に乗ったの。山の方へ走って行くと、道路の真ん中にヨタカがうずくまっていてね。タクシーのライトが当たるとバッと走っていく。子ども心に、あれは何だろうと気になって、今もよく覚えてる。」

好子さんが小学生の頃はまだ無線がなく、羽黒下駅のすぐ近くにタクシーの待合所が設けられていた。そこには直通の電話があり、小海線を降りた人などが電話でタクシーを頼んだという。夏休みや休日には、高校生だった従姉と共に、好子さんも事務所で電話番をした。
子どもたちも手伝ったタクシー会社の仕事、きっとお客さんもそのかわいらしさに和んだに違いない。当時の東町は、子どもがそこかしこにいて、賑やかだったそうだ。

「古い写真を訪ね歩く 6 〜市川好子さんを訪問②〜」では、さらに子どもたちにまつわるエピソードをお聞きした。写真に写る車が走ったまちなかが、さらに華やかに賑わったお祭りごと。写真とともに、その様子を振り返る。

次回はこちら↓
古い写真を訪ね歩く 6 〜市川好子さんを訪問〜②

文・櫻井麻美


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