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入門用フライ釣り道具・私論

 だいぶ以前、某所で何十万円もする高価な竹のフライロッド(バンブーロッドという奴ですね)を振っているのに、全くフォームができておらず、前に飛ばすことすらできない……という人を見たことがあります。
 話を聞いてみると、「趣味には金をかける」「高価なものは初心者にも良いもののはずだ」という信念をお持ちのようで、練習にと差し出した私の道具も遠慮というか固辞されたので、そのまま放置しました。あれじゃいつまでたっても無理でしょう。まっさらの初心者にとって、バンブーロッドはものすごく投げにくいですから。
 バンブーロッドのような、工芸品的な趣味性の高いものは、性能と価格は全く比例しません。それどころかフライフィッシングの場合、海外有名ブランドのカーボンやボロンであっても、腕が悪ければノーブランドの安物に飛ばし負けする、腕の差が見ていて歴然ということも普通にあります(だから人気が下火になったという部分もあるんですけど)。

 ということで今回は、フライフィッシングを始めるとしたら、どんな道具を選べばいいか、を取り上げます。

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●有名メーカーのセットものを勧める理由

 初心者に「何買えばいいですか?」と聞かれたら、メーカーさんのセット売りを薦めます。続けるか、途中で楽しめなくなってやめるかわかりませんから、実売2〜3万円程度で、きちんとしたメーカーさん(要は釣具屋さんで店頭販売している)が入門用セットとして出しているものなら問題ない、という判断です。例えばダイワのこれとか、アングルのこれとか……。ティムコのこれはDVDまで付いていますが、その分ちょっと高いですね。

 私が自分で確認/指導できるなら5000円以下の、ノーブランドとかそれに近い会社のセットもありなんですが……。実際に幾つか見た過去の経験では、竿にガイドリングの数が足りない(次項参照)、ジョイント部のすり合わせが悪い、付属する糸類(フライライン、リーダーとも)がデタラメだったり質が悪かったり、みたいなものが多かったです。
 以前某店で3980円で大量入荷していたセットをある雑誌の編集部で薦めていると、そこに遊びに来た、名の知られた釣り人であるO山氏が「そういう道具はさぁ、もぅ〜やめよ……あれ、この竿、使えるじゃない」となったことがあります。もちろん使えるのは竿と、プラスチック製のリールだけで、糸関係は全部買い替えだったのですが、目利き冥利につきますね。

 それでは以下、セットではなくバラバラに買わなければならないとき、あるいはセットものに理解を深めるためのご参考に、個別に書いていきます。

●ロッド(竿)

 一応、竿の選び方の目安ですが、渓流や管理釣り場を考えると、ラインウエイトは4番が標準。長さは7フィート6インチから8フィート。つないで軽く左右に振った時にジョイント部から「カタカタ」という音や「キシキシ」「ミチミチ」というようなキシミ音がしないこと。これは最低線です。
 そして! ここで重要なのが糸を通すガイドの数です。この長さですと、竿の先端のもの(トップガイド)を除いて8個(または9個)。ダメなのは7個以下ですね。取り付けは手作業に近いので、ここでコストダウンしているものが多いです。ちなみにグリップのすぐ上にちょこっと付いているのは、移動時に鈎を掛けておく「フックキーパー」なのでお間違いなく。

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 あと竿には、硬さや反発力の強さ、曲がり方など、いろいろあるのですが、4番で、あまり高価でないもの(9800円〜1万9800円とか)だと気にしなくていい感じです。特殊なものはずっと高価ですし、はっきり表示があると思います。なお、湖でも使える6番くらいから上になると、遠投用/近距離用、反発力がピンピンしているの/もったりしているの、といったように、いろいろ癖や差が出てきます。

●リール

 フライリールは、シンプルな丸い形のものなのでわかりやすいですね。正直言って、手で糸を引いてのやり取りになる40cmくらいまでの魚が相手なら、糸関係が全部きれいに収まれば何でもいいです。実際の用途は、移動時の糸の格納用でしかありません。
 カセット式で糸の交換ができるものや、一般的なリールのように糸を引き出されてもハンドルが逆転しないもの、2倍〜4.5倍の増速ギア付きとか、いろいろありますけど、シンプルな、糸巻き部分に直接つまみの付いているタイプでOKです。いや実際、サーモンはおろか、海の巨大カジキですら、このシンプルなものが主流です(個人的には、ちょっと不思議なんですが)。

 素材はだいたいが耐食性アルミ素材を使っています。しかし竿の手元末端に付ける構造上、どうしても使用中に傷ついたり曲がったりするので取り扱いには注意。マグネシウム素材もありますが、超軽量という利点はあるものの、強度不足+耐食性が良くないために、最近は減っています。
 むしろこのことを考えると、ウッカリの多い初心者には、強度に優れ腐食の心配もない点で、安物セットなどにも同梱される、プラスチック製の方が優れているとすら言えます。デザインはイマイチのものが多いのですが……下の写真左のはプラスチックとは思えないデザインですね。

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  形状としては糸巻き部分が外側まで出ているアウトスプール・タイプと、枠にはまり込んで外から触れないインスプール・タイプがありますが、基本的に今はインスプール・タイプは少数派で、趣味性の高い特殊なものか、あるいはオールド・スタイルのものが今でもたまたま入手できるか(中古屋さんで、全部ネジで組み立てたようなものや、ブリキ細工のようなものを見かけますけど……やめた方が)に過ぎません。ごく普通のアウトスプール・タイプにしておきましょう。

 あとリールは、糸を引き出すなどの逆転時のブレーキに差がありますね。ギヤと爪とスプリングでブレーキをかける「クリック・ドラグ」と、円盤に圧をかける「ディスク・ドラグ」があります。魚とのファイト用というより、頻度としては投げる前に手で糸を引き出す方が多いですし、手でたぐってのファイトが中心となりますので、手の中で押さえている糸を微妙に滑らせる技術の方が重要だったりします。
 「ディスク・ドラグ」を採用しているもの方が高級機としての位置付けと言っていいでしょう。糸がスムーズに出ることや、音が小さいので好まれる傾向にあります。しかし「クリック・ドラグ」のものは安いうえに、20年くらい前までは高級ブランドの最上級機でもクリック式が普通だったことを考えると、そのへんは予算と好みでしょうか。

●フライライン

 竿に書いてある番号(冒頭の推奨通りなら4番)を守るのは前提ですが、さらにこれにはダブルテーパー(記号:DT。両端が同じ形状)とウエイトフォワード(記号:WF。片側にだけ重量部を作ってあり、反対側は飛ばしやすいように細い糸が続く)があり、さらにちょっと特殊な、遠投専用のシューティングヘッド(記号:ST)というのもあります。
 で、初心者レベル、15m以内での釣りならダブルテーパー、ウエイトフォワード、どっちでもいいですが、使い勝手がいいのはダブルテーパーですね。遠くへ投げるのに不向きな傾向とは言っても、20m近くは飛ぶわけで。

 あと、ダブルテーパーは巻き返して反対側も使えるといいますが、実際はしょっちゅう巻き返したり、しごいて伸ばしていないと、コイル癖が付いて使い物にならなくなります。はじめからこの利便性は切り捨てて考えた方がいい、かもしれません。
 なおウエイトフォワードは、「こちら側をリールに結べ」というタグが一応ついているように、反対側からリールに巻かないように注意しましょう。あと、後ろが細くなっている分、リールへの収納に余力があります。

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 それから浮くものと沈むもの(フローティングとシンキング)がありますが、これはもう「フローティング」を選んでください。渓流や一般的な管理釣り場ならそれで足りるはずです。記号表記すると「DT4F」、あるいは「WF4F」となります。沈むものにはその沈む速度によっていろいろありますけど、ここは無関係ですので割愛します。また先だけ沈む「シンクティップ」というものもありますが、これも入門時の釣りには無関係です。

 色については魚の視覚のところで触れたように、野生の魚を相手にするならナチュラル系が理想ですが、最初は投げる練習/管理釣り場用と割り切って、黄色などの見やすい色をセレクトしましょう。その方がキャスティングの上達が早いと思います。

 なお、ダブルテーパーの両端を使うために初めから半分に切って2本としてしまう方法もあります。お得ですが、かなりマニアックな話なのでここでは省略します。さらにマニアックな話としては、竿の個性と、自分の使い方に合わせ、あえて指示番号を無視して重いラインや軽いラインを使う方法もありますが、これはもうベテランの経験と勘の世界です。

●ランディングネット(たも網)

 ランディングネットですが、全部ゴボウ抜きにするというならともかく、ひとつは必要でしょうね。特にリリースが前提なら、魚体に傷を付けない、「ラバーコーティングネット」、あるいは目の細かい「リリースネット」などと呼ばれるものがいいでしょう。
 ウッドフレームのフライフィッシングっぽい奴が理想ですが、ワンタッチで展開するトライアングル型でも、固定式アルミフレームの丸型でもOK。もちろん、ルアーなどで使う透明網の付いたラバーネットでも構いません。ただ公共交通機関を使うなら、折り畳んで棒状にまとまるトライアングル型がいいかもしれませんね。ポリ袋に密封しやすいですし。

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 以前、バネ素材を枠にした、ネジって網の部分を1/3サイズに格納する渓流釣り用のタイプ(いわゆる居合い手網)も使っていたことがありますが、枠が柔らかいので使い心地は今ひとつでした。ただ、登山や沢登り+釣りというような場合は、小さくなるこの手は便利ではあります。

●その他の小物、ウエア関係など

 あと必要なものは……
●リーダー
(初心者なら6X・7.5フィートが基準。慣れたら9フィートに)
ティペット(ハリス。まずは6Xと7X)
毛鈎を入れる箱(当面100均にあるピルケースみたいなプラ箱で十分)
糸切り用カッター(これも100均の小型爪切りで代用できます)
鈎外し用のフォーセップス(釣具屋に売っている鉗子。細いラジオペンチで代用可能)。

フィッシングベストはなくてもいいです。最初はショルダーバックやウエストポーチで十分。また昨今、外国の動画を見ていると、ベストを着ている人は少数派になってきたのかな?という印象もあります。ディパック+ウエストポーチ・スタイルも気軽でいいですね。
 ベストを買うにしても、フライフィッシング用品ブランドか、釣り部門のあるアパレルメーカーがいいでしょう。もちろん釣具屋さんの店頭で直接買うのはOK。一方でどこで作っているのか怪しいもの(通販でよく見ますね)は避けるのが吉。あと、釣り用として(特に長靴と組み合わせて)かっこいいのはショート丈なんです。通販系の怪しいものは登山用、カメラマン用みたいなロング丈が多いので、どうにも締まりがなくなります。

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長靴。長さは釣り場によりけりです。膝下、股まで、腰まで、胸までといろいろありますが、当座、管理釣り場メインなら一般的な長靴の丈で十分でしょう。あえていいのを買うなら、もうちょっと長い膝下ですかね。
なお、股までのものは腰までや胸までのものと比べて中途半端と言われることが多いのですが、何と言ってもトイレが楽。個人的に、行ける限りは股までの「ヒップブーツ」でいきたいです(たまに川を渡れずに詰みますが)。

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偏光サングラスは安物でもなんでも、とりあえず入手してください(2018年の初夏にはダイソーにすらあった)。色は、こだわる人は使い分けするのですが、まず一番に入手すべきものは、色に影響の出ない万能なグレー系ですね。メガネ使用者にはクリップオン・タイプもあります。

 ということで、ほぼ一式揃えるための説明はできたと思います。周辺のものは代用できるものは代用しつつ、行く釣り場に合わせつつ、手の届くところから、コツコツと揃えていけばいいと思います。(了)

*  *  *  *  *

※ランディングネット補足
 私自身は、渓流用にはウッドの安いものを2サイズ使用しています。ヤマメ用は小さめでカーブ、管理釣り場用はひと回り大き目のストレートです。ただし、網をヘラブナ用の柔らかく目の細かい網に張り替えているのが普通ではないところでしょう。結びコブのない、編み上げたものですね。ラバーコーティングネットが普及する前から使っているもので、リリースネットと呼ばれているものより、浅めでさらに目が細かく、柔らかい感じです。
 基本的には水から上げず、魚に触れることなくリリースするので、ラバーコーティングネットと同等、あるいはそれ以上にダメージを与えにくいとは思うのですが、実はもうひとつ、理由があります。
 本来は円筒型のヘラブナ用の網を、楕円形(水滴形)の枠に張っているので、縦(前後)方向はまっすぐなのですが、横方向は巾着状に、上が狭く、下が膨らんだ形になります。そして素材は他のネット素材よりずっと柔らかい。このため中に収まった魚は、体全体をふわっと包まれてしまうのでしょうか、比較的おとなしくしていてくれる……ような気がしています。

 湖用は骨董品屋で見つけた年代物のトライアングルネット(雰囲気はいいけど重い)に、アングルのラバーコーティング網を張り替えたもの。一辺45cmです。あと磯玉網は45cm径のラバーコーティングネット。折りたたみジョイント装備。柄の長さは4.5m(3m、6.3mもあります)となっています。

フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3


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