リクルート・オブ・ザ・ラブ:新しい「就活=小説」のために

 「就活=小説」を、始めなければならない。

 京都まで足を運んだ最終選考に落とされ、悲しみの余り自転車で自宅近くの月極駐車場のフェンスに突撃した私は、横倒しになってカラカラと回るタイヤを静かに見つめながらそう心に誓ったのでした。

 「就活」を通じてわかったことがあります。それは、「就活」とはあらゆる小説の起源であるということです。混沌たる存在である自らを、社会に貢献し意欲に満ち溢れイノベーティブで成長し続ける存在をめぐる物語として再構成していくこと。それこそが私たちにとっての「就活」です。そして「小説」もまた、虚構の物語を意図的に立ち上げていく行為だといえます。なぜ日本で手書きのESという文化が根付いたのか。言うまでもありません。「就活」とはあなたを「小説」として書くことにより始められるものだからです。あなたの身体を介してひとひらの言葉を紡いでいくことへのやりがいを持つこと。言葉が書かれてしまうことに伴う不可逆性を、ビジネスパーソンの倫理として引き受けていくこと。手書きのESとは、この「就活=小説」という原理を後代に継承していくために必要不可欠な制度なのです。このことに気付いてから、私は手書きのESを書くことが大好きになりました。

 「みん就」を見てください。「大手に受かった先輩」の話を聞いてみてください。「リクナビ」のホームページを覗いてみてください。そこには、自らの経験を「就活=小説」として昇華させようとする無数の言葉が飛び交っています。「小説」は日本中に溢れている。そして同時に、私は気付いてしまったのです。日本近代文学の偉大な始祖である二葉亭四迷の『浮雲』は、まさしく内海文三の「就活」をめぐる小説だったことに。日本文学の歴史は、初めから「就活」によって規定されていました。第二十九回文学フリマ東京に参加した「自らが<文学>と信じるもの」を発売するすべての方が、そして私たち「絶対文芸同人・炸裂ミラクルガールズ」のメンバー全員が、「就活=小説」という根本原理に多大な影響を受けています。文学フリマというイベントは、手書きのESの大規模即売会なのです。

 「絶対文芸同人・炸裂ミラクルガールズ」は、その名の通り絶対的に面白い「小説」を書くことを目標としています。となれば、これまで連綿と続いてきた「就活」の連鎖にぼんやりと乗るわけにはいかないのではないか。ビジネスパーソンとして、新たな価値を打ち出しグローバルに展開できるものを作らなければならないのではないか。私たちは、新しい「就活=小説」を立ち上げなければならないのではないか……。「就活」をしながら、私はそのことばかり考えていました。これまでの「就活」とは全く異なる、次なる「小説」を書きたい。まさにそれこそが、私がほんとうに心を込めて叫ぶことができる「志望動機」だったのです。

 そこで今回私は『リクルート・オブ・ザ・ラブ 第一部「自己分析 まだ、ここにない出会い」』という小説を執筆し、無限に等しい枚数の手書きのESをばらまき日本を完全に崩壊させることを決断しました。手書きのESが乱舞し御社への犯罪が続発する中、20卒無い内定の就活生タケダはある決意を固めていきます。一方、手書きのESの中では「リクナビ」なる組織に支配された世界での闘争に挑む、野島美波という就活生の物語が語られています。22歳になったすべての学生は、「就活」を行い世界から消え去ってしまう。姉のように慕っていた涼乃を「就活」で失った野島もまた、「リクナビ」との絶望的な「就活」戦争に身を投じることとなるのです……。

 新しい「就活=小説」のために。求められるものは「愛」です。「就活」には圧倒的に「愛」が不足しています。私たちは、「愛」によって「就活」を乗り越えていかなければならない……いや、それは本当は、日本文学の起源への回帰なのかもしれません。『浮雲』とは、内海文三の「愛」をめぐる小説でもありました。「就活=小説」は、「愛」を媒介にして起源に立ち返る。そして、そこから次なる「小説」が誕生するのです。手書きのESを書き続けた「就活」の5ヶ月間は、すべてこの「小説」を書くために必要な時間でした。だから、私にとっての「就活」はまだ終わっていません。もはや、現実に内定を得たかどうかなんてことは関係ないのです。「就活」は、「小説」を書くことによってしか終わらない。11月24日(日)東京流通センターにて開催される文学フリマ東京は、私たちの「就活=小説」の真価が問われる戦場と化すでしょう。

 今回の作品では「就活」を通じて私が考えたことをすべて詰め込みました。だから本当は、この「小説」こそ「リクナビ」のサイトに掲載されるべきものなのかもしれません。あらゆる22歳の就活生を抹殺する「リクナビ」に対して、今、革命の狼煙が上げられようとしている。人はそこで、自らの「愛」のためにすべてを賭して新しい「就活=小説」を作動させるのです

(灰沢)

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