75.自己責任

彼の荒治療のような行為によって救急搬送されてからは、彼は二度と私に作品を見せたり、作品中でした行為を聞き出そうとしたりはしなくなりました。

その代わり、いくつかのことを約束させられました。
・毎日必ず連絡を取り合うこと
・もう二度とAVには出ないこと
・金銭的な不安がある時は必ず自分に言うこと

約束はしたものの、事務所からは撮影の打診の電話は来ます。
全て留守電にして出ませんでしたが、着信履歴がストーカーめいてきて本籍も現住所も知られているので
「このままだと自宅に来るのでないか」
と怖くなりました。

その頃、私の映像は海外サイトでも配信されてしまっていました。
例え今出回っているものを削除依頼しても、削除されるものより新たに出回るものが多い状態に陥っていました。

きっとまともな神経の持ち主であれば、AV女優になどなる気のなかった自分の痴態が世界中に配信されていまっているなど到底、耐えられることではないと思います。

私は映像中の行為の記憶がないことも関係しているのか、それとも元々どこかたがが外れているのか、見られなければ大丈夫、見られても面と向かって確認されなければ大丈夫と変装などしませんでした。
でも彼氏から忠告され外出するときには眼鏡をかけ、髪もきっちりとしたまとめ髪にし絶対に特に男性とはオンでもオフでも目を合わせないようにし、特徴となりそうな位置のほくろはコンシーラーで隠していました。

何度目かの留守電に、私の地元で撮影という案件が入っており、これはもう脅しなのではないかと感じた私はその留守電の営業ではなく、比較的話しやすい営業の人に電話をしました。

「○○ちゃん!連絡待ってたよ~」
と弾んだ声で電話に出たその人に向かって単刀直入に
「もう出られません」
と言いました。
「急にどうした?何かあったか?」
慌てたように聞いてくるので
「彼にバレました。これ以上は無理です。もし契約違反だというなら、彼と一緒に警察に相談に行きます」
一息にそう言って、相手の反応を待ちました。
「そうか…社長には?」
さっきとは別人のようなテンションの低い声で聞かれました。
「まだです」
と答えると
「分かった、俺から言っておく。
君さ、現場受け良かったんだよ、また撮りたくなったら連絡してよ」
としつこく食い下がってきました。
ここで穏やかな反応を返しては、またつけ込まれるので
「それでは社長によろしくお伝えください」
と電話を切りました。

その後、連絡はきていません。
それでもコロナ禍で思うように撮影ができなかったせいなのか、すでに公開済のそれらは再編集されたりオムニバス編集されたりでまた新たに配信されるので、今のネットのどこかで私は無報酬で働かされています。

自己責任

契約時点で騙されたとしても、そうなのでしょう。



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