53.私は邪魔者

その後も、ありとあらゆる貶し言葉を舅は吐き続けました。

私はベッドの上で子どもの耳を塞ぎ、じっと耐えました。

「それは全てご自分のことでしょう?」

子どもを胸に抱いていなければ、私はそう言い返していたでしょう。
人を支配し嘲ることしか能のない舅の汚い言葉の羅列など、言葉尻りを捉え挑発しおちょくり倒して木端微塵に撃退することはできると思いましたが、私はじっと耐えました。

舅に反撃する私の言葉はきっと、侮蔑や軽蔑や怒りなどの感情が籠った穏やかな声音ではなく、そんな母親の声音を産まれたばかりの我が子に聞かせたくはありませんでした。

私が舅に反論しないことで舅は私を言い負かしてやったと思ったのでしょう。意気揚々と胸を張って病室を出て行きましたが、当然後に続くと思った姑はベッド脇にあった丸椅子に腰を下ろしました。

ちょうどその時、看護師さんが子どもをこれから必要な検査に連れて行く為に病室に入ってきて、子どもを連れて行ってくれたので、これで姑に何を言われても子どもは無事だとホッとしました。

姑はそれから午前中いっぱい病室にいました。
そして産まれたばかりの私の子どもの話については一切触れず、舅の無礼な振る舞いを詫びることもなく、ひたすら養子である息子と自分自身について話し続けました。

自分がいかに息子を愛しているか
自分がいかに息子から喜びを与えてもらってきたか
息子だって今も自分から喜びを与えてもらいたがっているに違いないとか
自分と息子の間に割り込んできた私が、いかに邪魔者であるかとか

要約するとこの4点について、繰り返し繰り返し姑は話し続けました。
私は一切無反応で全ての言葉を受け入れないように神経を張り詰めて過ごしているうちに猛烈な吐き気に襲われてぐったりベッドに横たわっていましたが、姑はそんな私の様子にお構いなしに延々と話し続けました。
そして昼食の配膳の気配に、やっと姑は腰を上げ
「毎日来ますからね」と言い残し去っていきました。

「随分長い面会でしたね?」
昼食を運んでくれた看護師さんに聞かれ
「姑です」
と答えた私の顔色が優れなかったのでしょう。
看護師さんは私のメンタルバランスを心配してくれ
「面会中でもすぐ来ますから遠慮なく押してくださいね」
とナースコールボタンを指差しました。

午後は穏やかに過ぎて行きました。
夕方にはまた両親が来てくれましたが、心配させたくなくて私は舅らの言動を知らせることはしませんでした。
私の夕食後に彼が来たので、午前中の出来事を話すと顔色がさっと変わりました。

「オヤジのところに行ってくる」

怒りでどす黒い顔色をした彼は、そう言って病室を出ていきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?