69.彼バレ

撮影の度に両親へは出張と偽っていました。

長引く摂食障害で、まともに働くことなど無理かも知れないという不安を持ちながら私をサポートし続けた両親は、私が社会に出て出張もこなせるまでに完治した(完治していませんが両親へは治ったことにしています)私の出張を喜ばしいことのように思ってくれていたと思います。

彼とは週に何度か連絡を取る程度でしたし、撮影で東京へ出かけている時に連絡がきた場合は実家にお泊りしていることにしていました。

撮影の為に大事な人達を欺くことに罪悪感はありましたが、なぜか自分から断ることなどできないような気がしていました。
契約書を改ざんされたことよりも、改ざんされるような間抜けな私が悪いのだと思っていました。

性被害にあってから、抵抗することや拒否することを早々と諦めてしまうようになっていました。
何をやっても無駄と思うことで、「自分自身を守れなかった」「自分自身を見捨てた」という自己批判的な思いから距離をとっていたのだと思います。

社長のいう通り仕事は次々と入りました。
何作目かの監督には、なぜかそれ以降も撮影に指名で呼ばれ、その人の作品には多分4~5回は出たと思います。

通常撮影のほかは、撮影会や所謂ハメ撮りもありました。

撮影会は事務所が一般のお客さん向けに広報し、貸切にしたスタジオでマニアカメラマンに撮影されます。

ハメ撮りはマンツーマンでの撮影で、完全にその人の趣味の世界観での撮影でした。

そしてそれらの仕事でいくら事務所がピンハネしているのか、私は知りませんでしたが、きっと頭の良い女優さん達は交渉していたのだろうと思います。

東京から帰る時は必ず子どもにお土産を何かしら買って帰りました。

「そんなことをして得たお金で何かをしてあげたところで、子どもが喜ぶと思っているのか」
と性産業で得たお金をあたかも不浄なものと捉えているようなお叱りめいた言葉を目にしたことがありますが、人から搾取したお金ではなく、例え性産業だとしても自分が稼いだお金で大事な人に何かしてあげるのは、悪いことだと私は思いませんが世の中的には私の考えは少数派なのだろうなと思います。
でも、自分の大事な人達には、性産業の世界には足を踏み入れて欲しくはないなと思うので、矛盾していると自覚はあります。

閑話休題

そもそもAVに出て稼ぎたいと思っていない私にはAV女優としての気概も自己プロデュース能力もなく、活動して2年も過ぎるとだんだんとギャラ落ちになってきているのが感じられるようになりました。

それでも、自分からはもうお払い箱にしてほしいとは言えませんでした。

私に辞めるきっかけをくれたのは彼でした。

なんの話でそうなったのか覚えていませんが、私の言動になにかを感じとった彼は、私に内緒で独自に動いていたのでしょう。

ある時、画像添付のメールが送られてきました。
「桜瑚だよな」
一言そう添えられたその画像は、私のデビューDVDのパッケージでした。



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