青島刑事の憂鬱

※こちらの記事は、自分が体験したことや過去の整理のために、あーだこーだと好き勝手に述べ散らかしている、自己満足感満載の自分語り記事でございます。読後感はよろしくないと思います。どうぞご容赦ください。

 信号待ちをしていました。
 10月も下旬に差し掛かり、18時になるとすっかり暗くなってきます。雨の中、奥の車道の信号が赤に変わりました。
 時差式だったんです。だから、手前の車道はまだ青信号。位置的にちょうど信号待ちしてる歩行者からは信号機の色は見えませんでしたが、車は来ていました。
 それを「バスが来た、急いで!」と母親らしき女性が子供の手を引いて飛び出したんです。
 雨の中、真っ暗な夕方の車道にですよ。
 とっさのことで身動きできず、ひぃと血の気が引きました。
 当然、歩行者側の信号は赤です。しかも手前側の車道、自動車、来てるんですよ。仮に、車の方が信号無視だったとしても、奥の車道の信号が変わったのを見て、わき目も振らずに飛び出していく視野の狭さ、だいじょうぶか、と思います。
 幸いにも、車の方が速度を落として、事故には至りませんでした。
 まあ、そのエピソードはエピソードとして。

 ちょっとばかり、わたしも興奮していたんです。自宅に帰る途中ですね。こんな妄想をしていました。
 母親、子供の手を引いて「バスが来る、走って!」
 そこにわたしがすっと左手で遮り「待って、車が来てる、よく見て!」みたいな。
 テレビドラマなんかで、そんなシーンありません? もしくは、アニメとか。その登場人物になりきって、ストーリーを生きるみたいな妄想をですね、よくしてしまいます。
 過去の自分語りで恐縮ですが、家庭でも小学校でもいじめられていて、空想の世界を妄想するくらいしか、自分を保つ方法を知らなかったのです。
 友だちと遊ぶなという保護者の方針で、学校から帰ると習い事に出るか、暗い家の中で本を読んでいました。子供らしく体を動かすこともできなかった。1日の中で許された娯楽は、テレビのアニメを見ること。「次回予告」の楽しみが、ほんとうに「生きがい」でした。
 当時は美少女戦士セーラームーンが放映されていて、想像の中でセーラー戦士になって、かっこよくふるまう、または人気者に扮してみたり、スポーツ万能で喝采を浴びてみたり、名探偵コナンみたいに難事件を解決できる人物になってみたり……、全部想像の世界で妄想しているのですよ。まあ、現実に生きがいやお友達がいなかった、悲しい小学生~高校生の有様です。

 昭和後期からテレビが普及し、ドラマやアニメが広く見られるようになりました。また、携帯電話やインターネットが普及するまでは情報の媒体が「テレビ」「ラジオ」「新聞」と限られておりましたので、全国的に単一の大きな流行を作りやすかったのだと思います。昭和生まれの方で「おかあさんといっしょ」の「ジャジャ丸、ピッコロ、ポロリ」とか「ミド、ファド、レッシー、ソラオ」とか、懐かしく覚えておられる方が多いのではないかなと思います。ソレくらいしか、なかったんですよ。当時の幼児の娯楽って。
 令和の現在ではその娯楽も多様化し、「これが流行り」みたいな単一的な流行は生じにくいようになったように思います。ただ、人間は自分が育ったものに愛着があるもので、自分が仮に親になれば、子供に「おかあさんといっしょ」は見せるような気がします。「サザエさん」「ドラえもん」「紅白歌合戦」のような、世代を超えて共通認識となる娯楽は、今後も残ってほしいなあと思いますが、たとえばサザエさんに見られる「平屋の家族3世代」の価値観がこれから先どこまで受け継がれて残っていくのかは、さびしいことですが分かりませんね。

 話がちょっと逸れてしまいました。
 そんなこんなで、令和元年現在にてアラサーからアラフィフ世代は、その幼少期に「テレビ」の影響を多大に受けた世代と言えます。それより上の世代となると「ラジオ」や「新聞」が強いし、それ以下の世代は携帯電話やインターネットがずいぶんと普及し、「自分が発信する」文化が醸成されている環境で育ったことと思います。
 で、仮面ホワイトな職場でですね。あるアラフィフさんを見ていると、ふと思うことがあるのです。

 以前、職場に「クレヨンしんちゃんみたいな人」がいると記事に書いたことがあります。ぽっちゃりを通り越して肥満メタボ体系、靴下や下着を洗濯しない(臭う)、シャツははみ出ている、仕事の優先順位より自分のやりたいことを優先するなどなど。野生児です。インドだか東南アジアだかを涼しい顔で一人旅してきます。同僚のひとりは「どろんこの犬みたいな匂いがする」と評していました。えーと、一応述べておきますが、「公人」として、職場で清潔にするのは、勤め人の義務でございます。しかし彼はヒトの言うことなど聞きません。仕事上の指示も聞きません。人事異動の時期は、はてどの係長が今年はアレの世話をするのかどうか、で戦々恐々とすると聞き及びます。
 なんでも、田舎のちょっと裕福な家の長男で、(おそらく母親から)ベタベタに甘やかされてきたとか。純朴なガキ大将、または野生のわんこ、またはクレヨンしんちゃん、です。わたしが述べるのもなんですが、相当個性的な方です。
 そんな彼ですが、「いまこの人、青島刑事の皮をかぶってるなあ」と思うことがあります。踊る大捜査線という、大ヒットした刑事ドラマシリーズで織田裕二さんが演じた主人公刑事です。
 青島刑事は熱血漢です。「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」というとてもカッコイイ決め台詞があります。ドラマ開始時刻は21時、冒頭で事件が起きて、山があり谷があり、21時45分ごろに青島刑事が犯人の罠にはまりピンチ!汗だくで町を走りながら「くっ……これじゃ、間に合わない」と何とか状況を打開しようと悪戦苦闘している、……そんな、クライマックスの青島刑事の皮を、例のクレヨンしんちゃんがお仕事中に被っているように見受けられることがあるのです。
 ちょっと処理が複雑な案件を見つけて、「ん、これは……」とカッコヨク呟き、「くっ、このままじゃ書類を通せない、訂正しなければ」とアンニュイに眉をひそめ、上司から「いいから、早く訂正処理してくれる?」と急かされようものなら「待ってっ! 待ってください、いま大事なところなんだ!」と既得権益?と戦います。
 いやスゲーな、と思う。見た目メタボの野生児なんですけどね。かっこいい織田裕二さんでなくて。
 「半沢直樹」の皮を被っているように見えることもあります。「バカ野郎、そんなことしてみろ……、一発で業務停止命令だ!」と、堺雅人さん演じる半沢直樹が檄を飛ばすシーンがありますが、その緊迫感、空気感を背負って、「こんな業務改善じゃあ、……ダメなんですよっ!」とか言ってたりする。
 仕事ができるかどうかと言われると、わたしの印象では、とっても大味(大雑把ともいう)な仕事をする人だなあ、という感じです。いや人のことは言えませんけどね。

 そんなクレヨンしんちゃんの同期が同じ係にいます。
 彼は病弱()で、忙しい時期によく体調を崩して休んでいます。高校の部活や大学のサークルで、「先輩に上手に甘え、後輩の世話を焼く」いい人ポジションを演じているのだろうな、と傍目に感じます。実際、わたしなどよりコミュニケーションはとてもお上手で、周囲ともうまくやっておられる。わたしには「ボクちゃん、かまってちゃん」にしか見えません。
 そんなボクちゃんは、クレヨンしんちゃん先輩のやることなすことを「ははは」と笑い、「いやあ」と呆れ、「誰もがドン引きする個性的な仲間を、ちょっと呆れながらもながらも相手して、仲間として程よい距離感で受け入れている」いい人ポジションで接しておられます。
 なんというか、テレビ世代でストーリーに慣れ親しんでくると、こういう「ストーリーを生きたい願望」が表出してしまうんですかね。
 とくに、わたしの職場は仮面ホワイト企業にて、ノルマなく、クビの心配も(今のところは)なく、パソコンで淡々と書類チェックするのみでございます。体を使ったやりがいだったり、自己表現の場に飢えているのかもしれない。「座り仕事」の人の寿命は、体をよく動かす人の寿命と比べて、短い傾向にあるそうですよ。人間の体にとって不自然な環境で、行き場のないエネルギーの発露が、青島刑事だったり半沢直樹だったり、ボクちゃんイイコちゃんなのでしょう。

 本人たちは、おそらく無意識だと思うし、周囲も「変わった人だなあ」くらいにしかとらえていないと思います。
  だけど、生粋のいじめられっ子で、生粋の妄想族のわたしのような人間不信が見れば、「演じてるなあ」というのがわかってしまったりする。わかりたくなんか、なかったよ。素人のヘタクソな演技を見せられて、キモチワルイったらございません。
 他のふり見て我がふり直せと言います。自分も今まで親や学校の先生から、「勉強ができない人間をバカにしてきたんだろう」と言われて、「バカをバカになんてしない」とか、「バカと同じバカのようにふるまう」みたいなイタイことをですね、やってきたわけです。本当は理解していることを「えー、分かんない」とブリブリ言ってみたりとか。
 なので、彼らに感じるいらだちは、同族嫌悪的なものです。さんざん他人をこき下ろしておりますが、わたしも紛うことなき同類です。

 わたしたちは自分の五感を通して経験した「ストーリー」を生きています。ともすれば「過去」にとらわれ「未来」に浮き足立ち、現在という瞬間が置き去りにされてしまう。
 現在という一点に地に足付けて生きることが、「今を生きる」ということであれば、気持ちのいい「ストーリー」を捨てる勇気を持つことが、テレビ世代に課せられた宿命なのかも知れません。そんなことを考える、秋の夜長の今日この頃です。

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