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私のじゃありません

空港の方からやって来た電車。大きな荷物をたくさん持った外国人が席を立って降りたので、そこに座った。その二駅くらい後で右隣の女性が降りたのだが、その時になって、私の右足のすぐ横に、小さめの紙袋が置いてあることに気がついた。

今降りた女性が忘れて行ったのか、それとも元々私が座る前に居た外国人のものだろうか。デパートの厚手の紙袋は受け取ったばかりのように綺麗で、折り目も正しくスキッと立っている。いいものが入っていそうな佇まいだ。

その紙袋のせいなのか、私の右隣はしばらく誰も座ろうとせずに不自然に空いていたが、いくつ目かの駅で乗って来た初老の男性が、「ちょっとすいませんね」という感じで紙袋を私の方にひょいと寄せてから、隣に座った。

え? 私の荷物だと思われてる?
そんなことするかいな。

私じゃなくたって、紙袋を電車の床に置くことはほとんどしないだろう。ましてや25センチ四方くらいの小さなサイズだ。なのに、それがまるで私のもののように足元にあるのがだんだん煩わしくなってきた。

もしかしてこれって「不審物」ってやつじゃない?

なんて思ったらゾワゾワもして来る。

もうすぐ駅だけど、降りる時に「(紙袋)忘れてますよ」と声をかけられるだろうか。その時はどう返そうかなんてシミュレーションしたりして、さて、降りる駅が来た。隣のおじさんは気づくはずだと思いながら席を立った。

…何も言われなかった。

言われなかったら言われなかったで、なんでよ! という気持ちになるのもゲンキンなもので、はてさてあの紙袋はどうなったんだろう。