ラヴェルの全作品を年代順に聴く⑸ 1924〜33年
今回は《♪ボレロ》や《♪ピアノ協奏曲ト長調》が作曲された晩年の11作品を聴いていきましょう。
この時期の作品は「スイスの時計職人」(ラヴェルのあだ名)の洗練の極地がみてとれます!
(このシリーズでは、近代フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルの全作品を作曲年順に聴いていきます。
作品一覧としてもご活用ください♪)
【シリーズ一覧】
ラヴェルの全作品を年代順に聴く⑴
ラヴェルの全作品を年代順に聴く⑵
ラヴェルの全作品を年代順に聴く⑶
ラヴェルの全作品を年代順に聴く⑷
ラヴェルの全作品を年代順に聴く⑸ 👈
1924年
♪ロンサールここに眠る (歌曲)
Ronsard à son âme
…ルネサンス期の詩人、ピエール・ド・ロンサールの生誕400周年記念号のために作曲された歌曲です。
ピアノ伴奏の、中世音楽のような平行5度を用いた生硬な響きが特徴的です。
♪ツィガーヌ 演奏会用ラプソディ (ソロヴァイオリンとピアノまたは管弦楽)
Tzigane
↓こちらの五嶋みどりさんによる演奏は「女侍」のようでかっこいいです!笑
…「ツィガーヌ」とはジプシーを意味するフランス語で、ハンガリー出身のヴァイオリニストの協力のもとに作曲されました。
モンティの《♪チャールダーシュ》やサラサーテの《♪ツィゴイネルワイゼン》のように、
無伴奏のヴァイオリンソロが続いたのちに、技巧的な伴奏が加わって、情熱的なフィナーレを迎えます。
1925年
♪こどもと魔法 (オペラ)
L'enfant et les sortilèges
…フランスの文豪、コレットの台本による2部制のオペラです。
ラヴェルはこの作品を『ファンタジー・リリック(幻想的オペラ)』と呼んでおり、題名は直訳すると「こどもと魔法にかかった物たち」となります。
こどもや動物たちがたわむれる優しく幻想的な世界観のオペラで、巨匠ラヴェルのまた違った側面がみえる作品です。
↑冒険的な試みもおこなっており、《♪猫の二重唱》という歌は、なんと歌詞がずっと『ミャオミャオ』です🐱
【あらすじ】
主人公の男の子が、宿題をしたくないとダダをこねています。
ママに叱られたので、部屋中のものを壊しまくりました。
ひととおり暴れ終わると、部屋中のものに人格が宿りました。
安楽椅子とアームチェアが「もうあの悪い子に踏まれなくてすむんだ」とワルツを踊りはじめます。
腹部の振り子を引っこ抜かれた大時計は大音量で男の子を責め、
ティーポットとカップは物騒なことをつぶやきながら男の子を脅します。
そして煙突から出た火が男の子を追いかけ回し、
壁掛けの絵の中の羊飼いのカップルも、引き裂かれたことを非難します。
男の子は涙が出てきました。
そしてかわいいお姫様が現れますが、絵本を破ってしまっていたせいで地面にのみこまれて消えてしまいます。
教科書からはおじさん先生と数字たちが現れ、算数のロンドを踊って男の子を苦しめます。男の子は目を回して倒れてしまいます。
黒猫が現れ、男の子のブロンドの髪の毛で遊び始めます。白猫も現れ、ふたりで二重唱を歌い、庭へと出ていきます。
猫に着いて行くと、庭の木が喋りはじめました。木は以前男の子がナイフでつけた傷について責め、男の子は悪いと思って、木に頬擦りしました。
トンボが現れ、標本になった恋人を返せと言われ、
スズメ蛾からは、子どもたちの母親を返せと言われます。
捕まえてかごに入れていたリスからも、閉じ込めていたことを責めたてられます。
話をしている間、いつのまにか庭は動物たちで埋めつくされました。
動物たちは喜びや幸せの感情に満ちており、あたりはパラダイス状態になっています。
男の子は孤独感にさいなまれ、「ママ!」と叫びます。
すると動物たちが狂気じみた憎しみを男の子に向け、一斉に飛びかかって攻撃してきました。
この攻撃に巻き添えになってしまったリスがいました。男の子はリスの手当てをした後、力尽きて倒れます。
動物たちは男の子の行動におどろき、手当てをしようと抱き上げて運びます。
男の子の血が止まると、「いい子だよ、この子は…賢いしとってもやさしい子さ…」と言いながら男の子を降ろし、遠ざかっていきます。
男の子の「ママ…」というつぶやきで、幕引きとなります。
全文訳は、こちらのサイトから読むことができます。
1926年
♪マダガスカル島先住民の歌 (歌曲)
Chansons madécasse
…テキストは、マダガスカル島の先住民の歌をフランスの詩人が訳したもので、内容がかなりエロティックです。
独唱、フルート、チェロ、ピアノという変わった編成で作曲されており、「声が楽器として加わった一種の四重奏曲である」とラヴェル自身は語っています。
《♪ヴァイオリンとチェロのためのソナタ》と同時期に作曲されたため、線的で宙に浮いたような雰囲気が似ています。
ラヴェルの歌曲ジャンルの最高傑作と評価されている作品です。
1927年
♪夢 (歌曲)
Rêves
…ラヴェルの若い頃からの友人、レオン・ポール・ファルグの詩による歌曲です。
儚くも優しい詩の雰囲気を、シンプルなピアノ伴奏が引き立てています。
♪ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
Sonata pour violon et piano
…初演が、ラヴェル自身のピアノと、パリ音楽院の同窓生のヴァイオリニストジョルジュ・エネスクによって行われました。
第1楽章の、透明感のある音色によってもたらされる幻想的な音響空間は味わい深く、
『ブルース』と題された第2楽章では、クラシック音楽の古典的な形式と、新しい時代のジャズ音楽が見事に融合した、物憂げなラプソディーが展開されます。
♪ファンファーレ〜《ジャンヌの扇》のための (管弦楽曲/合作バレエ)
Fanfare
…バレエ学校の経営者からの依頼により、10人の作曲家が合作した、子どものためのバレエ音楽です。
(ラヴェルは第1曲めのを担当し、フランス6人組のミヨー、プーランク、オーリックも参加しました。)
複調が使われており、響きがかなりフランス6人組に近い曲です。
1928年
♪ボレロ (管弦楽曲)
Boléro
…舞踏家のイダ・ルビンシュテインから「スペイン風の舞曲を作ってほしい」と注文されたのが、創作の出発点でした。
ラヴェルはアラビア感も混じったメロディーを思いつき、ピアノで弾きながら、友人にこう言います。「この旋律を全く展開させずに、管弦楽を少しずつ大きくするだけで、何度も繰り返してみようと思うんだ」と。
初め『ファンダンゴ』と名づけられていたこの曲は、発表後すぐに人気曲となり、作曲者自身も驚くほどだったそうです。
そして、全作品中で1番の「稼ぎ頭」となったボレロでしたが、著作権料の管理がしっかりできておらず、それが原因で2017年にラヴェル博物館が突如閉館してしまいました…。
(『誰がボレロを盗んだのか』という2016年制作のドキュメンタリー番組に詳しい情報があります。)
1930年
♪左手のためのピアノ協奏曲
Concerto pour la main goche
…第一次世界大戦で右腕を失くしたピアニスト、ヴィトゲンシュタインからの委嘱作品で、
左手1本で弾いているとは思えないほど音響が充実しているため《♪夜のガスパール》に匹敵する難曲に仕上がっています。
単一楽章の曲で、深く暗い序奏から輝かしいピアノソロが堂々と奏でられると、途中行進曲風のアレグロを挟み、主題へと回帰します。
「制限があればあるほど、それを乗り越えようとし、結果として独創性の高い作品が生まれる」という、作曲家ラヴェルの創作の根本原理が現れている楽曲だといえるでしょう。
(「自由の中に規律を作り出すドビュッシー」とは好対照です!)
1931年
♪ピアノ協奏曲ト長調
Concerto pour piano et orchestra
…こちらの協奏曲はラヴェルが「モーツァルトとサン=サーンスをモデルにした」と語っており、古典的で明るい曲調は、《♪左手のためのピアノ協奏曲》とは対照的です。
ピアノとオーケストラの調和をめざして作曲されており、後期ロマン派のピアノ協奏曲の「巨大化したオーケストラに対抗して、叩き叫ぶように弾かれるソロピアノ」という構図からの脱却をはかっています。
この曲でもジャズのイディオムが随所に散りばめられており、
第1楽章は故郷のバスク地方の「7つは1つ」のスローガンをもとに、7つのモチーフが使われています。
第2楽章はモノクロ写真のような穏やかで優しい曲調で、
無窮動の第3楽章の華やかさは、まるできらびやかなパレードが熱狂しているかのようです。(37小節からの動機が『ゴジラ』のテーマに似ており、よく小ネタとして語られています😄)
1932年
♪ドゥルシア姫に思いを寄せるドン・キホーテ (歌曲)
Don Quichottè à Dulcinée
…民謡のようなシンプルなつくりの歌曲で、故郷のバスク地方や、スペインの舞曲のリズムを使って作曲されています。
全3曲からなり、最後の曲《♪酒の歌》では、人生の喜びを高らかに歌いあげています。
おまけ ラヴェル名言集
書籍中でラヴェルの発言とされている言葉をまとめました。
"私の音楽は解釈するに及ばない。書かれたとおりに弾いてくれればそれでよろしい。"
…ラヴェルを演奏するときは、極端なルバートや感情表現は避けた方がよさそうです!
"演奏家は作曲家の奴隷である。"
…《♪左手のためのピアノ協奏曲》を依頼したヴィトゲンシュタインに、勝手に編曲して弾かれたために言い放った言葉です😅
"偉大な音楽というものは常に心から生まれるものだ。技術と頭脳だけで作られた音楽には、五線紙以上の価値はない。"
…ラヴェルの音楽は理知的で冷たいといった印象もありますが、こういった言葉を残しているのをみると、しっかりロマン派の延長線上にいる作曲家といえますね。
"実際のところ、音楽には二つのタイプしかない。喜ばせるものと退屈させるものだ。"
…ラヴェルやドビュッシーは、ベートーヴェンやワーグナーなどの生真面目なドイツ音楽が嫌いだったそうです笑
"模倣しなさい。模倣しながらも自己を保っていられるということは、語るべきものをもっているからである。"
…一番心に響いた言葉です!日々鍛錬を積み重ねることによって、オリジナルの作品へとたどりつきたいと思いました✨
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みなさんのコメントもお待ちしております☺️
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
さくら舞🌸
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