桜井竜生

さくらい・りゅうせい 1965年、奈良市生まれ。奈良学園高校を卒業後、国立佐賀医科大学…

桜井竜生

さくらい・りゅうせい 1965年、奈良市生まれ。奈良学園高校を卒業後、国立佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)を卒業。消化器、一般外科を専攻。ケンタッキー州立大学を経て帰国後、北里研究所(現・北里大学)東洋医学総合研究所にて漢方の研究と診療に取り組み、現在女子美術大学非常勤講師。

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イメージで診断しイメージを変える 「オーラ」を出す役割 漢方診療日記51

漢方の診断はイメージで行うことが西洋医学と比べて多い。例えば、「女性で更年期障害でストレスが溜まっている」とうイメージがあると加味逍遥散が効くというような具合だ。そこには、「上の血圧が160以上もあるから薬を出しましょう」などという検査数値を判断材料にする過程はない。漢方にあるのはイメージだ。だから漢方を人に伝えるのも難しい。 これは大きな問題を含んでいる。イメージなので人に伝えることが難しいのだ。西洋医学では病気には診断基準というものがある。もちろんこれは文字で書ける。 し

    • 骨折して分かったこと 1ヶ所が全体に影響 漢方診療日記㊿

       先月、足指の骨を折った。顕微鏡の台座が足に落ちてきたのだ。骨折したまま、重い荷物を動かしたので少し骨がずれてしまい翌日は足の甲まで腫れてしまった。さすがに怖くなってレントゲンを撮ったら見事に割れていた。その後、アルミ板を足に敷き、そこに足指と足全体をテープで固定していた。 骨折には治り易い部位と難治性の部位がある。鎖骨骨折などは治り難い。場所によっては血流や固定のし難さ等の理由で治り難い場所があるのだ。治り難いと、何カ月も痛みが続く、さらに時間が経つと、偽関節と言って本来関

      • 病気治したくない心 漢方診療日記㊾

        心と身体は一体だとよく言われる。漢方の世界では「心身一如」などと言われる。一般にはストレスを受けると身体に悪いなどの意味で捉えられていることが多い。でも漢方診療をしているとそんな症例を沢山経験する。  二四歳女性 事務職 5年ほど前から膠原病で病院に通院している。症状が改善されない為、漢方外来に来院した。話を聞いてみると「痛みで仕事もできない状況だ」という。早く復帰したいという。1年の通院後、膠原病の症状は軽快し働けるようになった。暫くして彼女は漢方外来に来なくなった。症状

        • 行きつけの漢方専門の本屋さん 一見客は来ない営業 漢方診療日記㊽

          漢方を勉強する為によく通った本屋がある。変わった本屋でマンションの一室で営業している為、外からは分からない。一見の客は絶対に来ない。私も人から紹介されて知った。  先輩に連れられて漢方を勉強する為にこの本屋に多くの研修医が訪れていた。 漢方専門の本屋は珍しく、当時、初学者の私はよく通ったものだ。漢方の本は高い。発行部数が少ない為に一冊最低五千円はする。また内容が難解で、自分の力量に合った本かは、暫く読んでみないと分からない。さらに東洋医学では書籍の切り口が多様で題だけ見ても分

        イメージで診断しイメージを変える 「オーラ」を出す役割 漢方診療日記51

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        • 漢方診療日記101-105
          5本
        • 漢方診療日記106-110
          5本
        • 漢方診療日記111-115
          2本

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          言葉以外のコミュニケーション 触れ合い伝わる何か 漢方診療日記㊼

          友人の病院の待合室で私が待っていた時の話だ。横のソファーで何やら初老の女性がカバンの中をゴソゴソ触っている。何か見られたくない様子でカバンの中で作業をしているのだ。何もすることが無かった私は横の女性に興味を持って観察していた。 暫くするとその女性はカバンの中では上手く行かなかったとみえてカバンの外で作業をし始めたのだ。彼女はIC 音声レコーダを操作していたのだ。カバンの外で録音機の説明書を見ながら何かを設定している様子だった。診察室での会話をこっそり録音するのだろう。こんな

          言葉以外のコミュニケーション 触れ合い伝わる何か 漢方診療日記㊼

          不調を癒すのは自分 医療の効果 漢方診療日記㊻

          昔と比べて寿命が長くなった。一般的には医学が発達したことが大きな理由だと思われている。私もそう思っていた。  著名な医学雑誌 New England journal of Medicine の編集長Ingelifinger はいろいろな症例の治療経過を追跡すると「近代医療を適応しても80%の患者は別によくも悪くもならず、あるいは自然に落ち着くところに落ち着くことを発表した。医師の働きはそれが有害でない限りこれらの原則的な経過に影響することはないという。10%をやや上回る症例

          不調を癒すのは自分 医療の効果 漢方診療日記㊻

          健康に生きるコツ 四季を感じる力 『環境に合わせ生きる』漢方診療日記㊺

          私が専門の漢方医学の古典の一つに黄帝内経(こうていだいけい)がある。大きく言えば環境に合わせて生きるのが健康に良いというような内容だ。春は芽生えの季節。陽気に満ちあふれ、いろいろなものが、外に出ていくような季節だ。だから四月から新学期が始まるようにしているのだろう。 秋からは新しい分野に手を伸ばそうという感じではなく、少しづつ動きを少なくして冬眠、家の中で過ごす時間が長くなるイメージだ。このように、みんなが自然に持っている四季の感覚に合わせて生きると無理がない、つまり病気にな

          健康に生きるコツ 四季を感じる力 『環境に合わせ生きる』漢方診療日記㊺

          一切智 知ってもうことは安心 愛情・慈悲につながる 漢方診療日記㊹

          先日、北鎌倉 臨済宗円覚寺管長 横田南嶺老師と対談した。孤独死がなぜ嫌なのかの話をしたのだ。その時に「知る」ということについて考えさせられた。 子供の頃から受験勉強をしたり、医師国家試験を受けたり、専門医の資格を取ったり、論文を書いたりと私は今まで知識を集めることを熱心に行ってきた。それはどこか、後ろめたいというか、下世話というか、競争心を煽られるというか、優劣の話に近いと思っていた。医者の中でも専門医の資格を持っている者はそうでない者より勉強しているなどとつい考えてしまう。

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          扁鵲(へんじゃく)の六不治 現代にも通じる教訓 漢方診療日記㊸

          古代中国の名医と言えば扁鵲(へんじゃく)である。扁鵲のことは司馬遷の書いた中国の歴史書「史記」の中で扁鵲倉公伝にて記されている。名医の代名詞だ。立派な医師が現れると扁鵲の再来などと表現される。扁鵲は春秋戦国時代の人で紀元前三~八世紀に活躍したとされる。ただ、活躍期間が長すぎて複数の医師団の総称だとする説もある。いずれにしても漢方や鍼灸の祖師である。その中に医者が治療しても患者の病気が治らないパターンが説かれている。扁鵲の六不治である。 一、驕り高ぶって道理をわきまえない人 二

          扁鵲(へんじゃく)の六不治 現代にも通じる教訓 漢方診療日記㊸

          経営者のための漢方 集団を率いる「気力」漢方診療日記㊷

          67歳 男性 上場企業 代表取締役 妻の知り合いが私に以前かかったことがあることから来院。主訴は「元気が欲しい」 1年前から疲れ易かった為、大学病院を受診し全身の精密検査をしたが多少糖尿病を示唆する結果がでたものの食事療法で対応できる程度の軽いものだった。それ以外は異常が無かった。精神科にも回されたが、睡眠薬を処方されただけで、翌日頭がぼーっとするからという理由で今は処方された薬を飲んないらしい。 初診時は話してくれなかったが、数回診察後、少しづつ本音を語ってくれた。最近「人

          経営者のための漢方 集団を率いる「気力」漢方診療日記㊷

          病名がわからなくても 想像以上のストレス 漢方診療日記㊶

          漢方医をやっていて気付くことがある。 病名が分からない人が意外に多いということだ。「病名が分からないが診てくれるか」という問い合わせもあったぐらいだ。勿論、診ると答えた。 現代医学では、色々な病気の原因や病態をパターン化し、それぞれの対応として治療が存在する。その為、そのパターンに無い場合、医者は困ってしまう。現代医学では病名が分からなければ、治療は進められない。 皆さんも病院に行くとまず検査されることが多いと思う。お腹が痛いといって病院に行けばまず、血液検査、レントゲン、場

          病名がわからなくても 想像以上のストレス 漢方診療日記㊶

          人は地球のひも付き 大自然に従い生きる 漢方診療日記㊵

          最新のビッグデータを使うと、人の大きな傾向が分かること、そしてそのデータが古代の書「黄帝内経」(こうていだいけい)に、既に書かれていたことを前号で書いた。何となく古来、感覚で言われていたことが、最近の研究で数字化されていたのだ。  「自然のリズムに従えば健康だ」と「黄帝内経」は言う。自然のリズムとば、季節や年齢など時間の経過で変化していく要素に自分を合わせていけば、健康に生きることが出来るというものだ。  「四季により生活を変えて行け」と書いてある。夏は早起き、冬は少しゆっく

          人は地球のひも付き 大自然に従い生きる 漢方診療日記㊵

          ビッグデータ "感覚"が解析結果に 漢方診療日記㊴

          最近、大手電機メーカーの研究員と、研究の内容を議論する機会があった。そこで、「Big data」(ビッグデータ)を使った興味深い話を幾つか聞いた。この会社は血圧計や睡眠計のメーカーだ。医療機器も開発している。    最近の家庭用血圧測定機はかなり進化しており、測った血圧をインターネット経由でサーバーに送られ、そこで記録されるのだ。もちろん、ユーザーは自分の血圧しか見ることができないが、サーバーには10万人単位のデータがたまり、それを分析することで今までは分からなかった傾向が分

          ビッグデータ "感覚"が解析結果に 漢方診療日記㊴

          効かない葛根湯が効く人 若く体力がある場合 漢方診療日記㊳

          葛根湯(カッコントウ)を飲んだことがあるだろうか? 葛根湯は漢方の代表格で、漢方を飲んだことがない人でも、名前くらいは知っている。  市中の開業医の8割以上で漢方薬を処方している現在、どこかで漢方を飲んだことがある人がほとんどであろう。  でも、葛根湯が良く効いて風邪が治ったという人は、あまり聞いたことがない。  以前、医学部の漢方の授業を行った際、学生全員に「漢方薬を自分で飲んで良く効いた経験があるか?」と聞いたことがあった。その結果、「漢方が良く効いた」と答えた割合は1割

          効かない葛根湯が効く人 若く体力がある場合 漢方診療日記㊳

          漢方で痩せる 心の安定が不可欠 漢方診療日記㊲

          漢方薬の世界では、心を大切にする。  例えば風邪をひいても、ただ体調が悪いと感じるだけの人もいれば、「自分は身体が弱い」と落ち込む人がいる。この二つのタイプではそれぞれ違う漢方薬を選ぶことになる。体調の狂いは同じでも、そこから脱出させるために免疫をつけさせるには、人によって漢方を使う方法が違うということだ。  これはなにも病気の場合だけではない。今日、雑誌の取材があった。「漢方で痩(や)せる」という特集を健康雑誌で組みたいからアドバイスをくれ、とのことだった。  女性の編集者

          漢方で痩せる 心の安定が不可欠 漢方診療日記㊲

          母の不安 子に伝染 脱毛の原因

          「子どもの気持ちが分からない」と親から相談されることがよくある。今回はそんな症例だ。  14歳・中学生。男子―。生徒会に所属する優等生だ。クラブはサッカー部所属だ。主訴は脱毛だ。  初診は、「子どもが学校の行事で来られない」とのことで母親が来院した。半年前から脱毛が酷(ひど)く、五百円玉大の脱毛班が複数頭部にあるとのことだった。  スマートフォンで撮った写真を何枚か見せてもらった。確かに直径3㌢前後の脱毛班が、複数認められた。周囲の皮膚に問題なく、アトピー性皮膚炎等のアレルギ

          母の不安 子に伝染 脱毛の原因