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手乗りインコのピー太 第3話

第3話 家族
「ピー太、じゃあ行ってくるね」
「ユータ、カッコイー、ハッピーバースデー」
「違う、誕生日じゃないよ。今日は卒業式なんだ。小学校最後の日なんだよ」
「ユータ、オメデトー」
「ありがとう」
「ヨッシー、オメデトー」
「そうだね、ヨッシーにも伝えておくよ」

「お母さん、お父さん、行ってきま~す」
「いってらっしゃい、後で私たちも行くからね」


「厚志(あつし)、カメラ持った?」
「準備完了だ。仁美(ひとみ)、そのスーツ似合うな」
「これ、優太が幼稚園を卒園するときも着てたのよ」
「だから、あれから6年たっても体型キープしてて、若々しくて…似合うなあって」
「あ・り・が・とう~。厚志、青森で単身赴任してる間に、口上手になったんじゃない?女の子を喜ばせる方法、磨いてきたんでしょう」
「青森の3年間で一番学んだことは、それだ~。ハハハ・・」

 「優太、そのスーツ、カッコイイじゃん。ネクタイがいいよ。オレなんて、母ちゃん忙して・・・」
「ヨッシー、そのセーター似合ってるよ。ボク、このネクタイ苦しいよ。 そうだ、家出るときピー太がね、『ヨッシー、オメデトー』って言ってたよ。ボクたちの卒業を祝ってくれてるんだ」
「そっかー、卒業式が終わったらピー太に会いに行っていいか?」
「もっちオーケー。ピー太と一緒に記念写真撮ろうよ。この格好で」
「オレ、こんなんでいいのか?」
「そのセーター似合ってるって。卒業証書も持ってきてね」


 ピンポーン。
「あっヨッシー、大変なんだ!ピー太が、また居なくなっちゃったんだよ。お母さんが朝慌ててたから、台所の小さい窓、開けっ放しにしちゃったんだ」

 「優太~、ピー太の居場所分かったわよ~」
リビングから、お母さんの声が聞こえた。
「ヨッシーも来て!」
「うん」
 芳紀は慌てて靴を脱ぎ、優太とリビングへ行った。

「お母さん、ピー太は?」
「前、優太たちが青森へ行ったでしょう。あのトラックの運転手さんから今、電話があったの。ピー太、いつの間にか、あの人の助手席にある上着に隠れてたんだって!運転手さん、気付かないで静岡営業所まで来ちゃったって」
「あの運転手さん、静岡の人だったもんな」
お父さんが言った。
「なんでピー太、静岡なんかに行っちゃったんだ?」
芳紀が言った。
「ピー太のことだもん、きっと何か訳があるんだよ」
優太が答えた。

「お父さん明日は会社だし、今日なら車で静岡まで行けるから、これからピー太を迎えに行くって、トラックの運転手さんには伝えておいたから。優太も早く支度して」
「オレも行きたいな・・・」
芳紀がボソッと言った。
「なら家に電話して、オーケーがでたら連れていってやるぞ」
お父さんが言った。


 「そしたら出発進行!」
 優太と芳紀、お父さんとお母さんの4人がシートベルトを締め終ると、お父さんは、そう言ってアクセルを踏んだ。


 静岡営業所は沼津にあり、4人が到着したときは午後4時近かった。
「イヤ~、またピー太と会えるとは思ってもみませんでしたよ~。1年ぶりですね」
 トラックの運転手さんが、笑いながら出迎えた。

「民子(タミコ)さ~ん、ピー太連れてきて~。飼い主さんが来たんだ」
運転手さんが、奥の方にいる年配の女性に声をかけた。
「ピー太、お別れだね~」
民子さんという人は、自分の手に乗っているピー太に話しかけながら、やって来た。
「可愛いインコだね~。よくしゃべるし・・・」
そう言って民子さんが、ケージを持っているお父さんにピー太を渡そうと思ったとき、ハッという顔をした。
お父さんが、
「あっ、・・・どうも・・・」
と言った。
「あつしさん・・・よね」
民子さんが言った。
「ハイ、ご無沙汰してます」
お父さんが言った。

「厚志、こちらは・・?」
お母さんが、小さい声でお父さんに尋ねた。
「ああ・・・」
と言ってから、お父さんは、民子さんの方に向き直って、
「妻の仁美と、息子の優太です。この子は優太の友達の芳紀くんです」
一人一人を紹介していった。
「まあ、こんなに大きくなったの・・・」
民子さんが優しく微笑みながら、優太を見た。
「優太、お前のおばあちゃんだ。挨拶しなさい」
お父さんに言われ、優太は戸惑いながらも
「はじめまして」
と言った。
「いくつなの?」
と民子さんが聞いたので、
「12歳です。今日卒業式だったんです」
と優太は言った。
「そう。それは、おめでとう」
と民子さんは優太に言ってから、お父さんの方を向いて、
「厚志さん、みなさんで、うちに寄っていってください。お父さんも喜びますよ。私のパート時間は終ってるから、これから帰るところなんです」
と言った。

 お父さんが返事をせずに黙っていると、お母さんが
「厚志、ちょっと寄っていきましょうよ。せっかく言ってくださってるんだから・・・。私もお義父さまに会って、ちゃんとご挨拶したいから」
と小声で言った。
そして慌てて、
「あっ、はじめまして、仁美です。是非お邪魔させてください。」
と民子さんに笑顔で伝えた。

 優太のお父さんは高校を卒業して実家を出てから、一度も帰ったことがなかった。
 お父さんが高校1年生のときに母親が亡くなって、高校3年生のとき、父親が民子さんと再婚をした。
 そのことが、どうしても受け入れられなかったから、高校を卒業した日、実家を出た。
 その後、お父さんは妹を通して実家のことを聞くぐらいだった。


 お父さんの実家に着いた。
 門の前でお父さんは立ち止まって、しばらく家を眺めていた。

 「あの頃とちっとも変わってないでしょう。さ、上がって。ピー太を風邪ひかしちゃいけないから」
民子さんが言った。


 4人が和室にあるテーブルを囲んで座って待っていると、年配の男性が入ってきた。
「いらっしゃい」
 その人は優しそうな表情をして、みんなに挨拶した。
 一瞬、部屋がシーンとしてしまったので、優太のお母さんが慌てて立ち上がり、
「はじめまして。厚志の妻で、仁美と申します。長い間、ご無沙汰をしていまして申し訳ございません。こっちが一人息子の優太です」
と言った。
優太も、その場に立ち、
「はじめまして、優太です。こっちは親友の芳紀です」
と言った。
「ピータ、ピータ!」
ピー太がパタパタ羽ばたきながら叫んだので、みんなが笑った。

「お、これがピー太か」
優太のおじいちゃんが言った。
 そのとき、お父さんが立ち上がり
「ご無沙汰してます。父さん」
と言った。
「おー、元気そうだな。よく来てくれた」
おじいちゃんが言って、ウンとうなずいた。


 「はい、みなさん、どうぞ召し上がれ。新鮮なお魚の刺身ですよ」
そう言いながら、民子さんが入ってきた。
「わ~うまそ~」
芳紀が思わず声に出してから、恥ずかしくなって黙ってしまった。
「ウマソー、ウマソー」
ピー太もピョンピョン跳ねながら言っている。

 「沼津は魚がウマイんだ。今日は子どもたちの卒業式だったからな。新鮮な刺身食べられるなんて、よかったな」
さっきまで顔がこわばっていたお父さんが、いつもの調子で言ったので、優太も
「ボク、お刺身大好き!」
と言った。
「そうか、沢山食べろよ」
おじいちゃんが、晴れ晴れとした顔で言った。

「ピータ、スキー、ピータ、スキー」
ピー太は、水飲み場に止まりながら言った。
「ピー太は、お刺身食べられないだろう」
優太が笑いながら言うと、みんなも笑った。


 「こんなに大勢で食事するなんて、久しぶりですね」
民子さんが、おじいちゃんに言った。
「そうだな。・・・優太、このマグロ食べるか?最後の一切れだぞ」
おじいちゃんが聞くと、
「うん、ありがとう、おじいちゃん。ボク、マグロ好きなんだ」
優太は、口に頬張りながら答えた。
 優太が『おじいちゃん』と言ったのを聞いて、お父さんとお母さんは顔を見合わせて微笑んだ。


 「ごちそうさまでした」
玄関で、優太たちが挨拶をした。
「優太、春休み中にゆっくり遊びにおいで。芳紀くんと二人で来られるだろう。もう中学生になるんだもんな」
おじいちゃんが言った。
「もちろんだよ!だってボクたち、去年は二人で青森まで行ったもんね」
優太が、芳紀の方を見ながら言った。
「あのときは、優太がお父さんに会うためだったけど、今日は、おじいちゃんに会うために、ピー太、家を飛び出したんだな」
芳紀が言った。
「そうだね。それと、お父さんが、おじいちゃんとおばあちゃんに会うためにだよね」
優太が、お父さんの方を見ながら言った。
 お父さんは優太の肩をさすりながら、
「そうだな。ピー太が沼津にいるって電話もらったときから、お父さんは、こうなる予感は少ししてたんだ。ピー太が訳もなく家出するなんて、ありえないもんな」
と言った。
「ピータ、スキー、ピータ、スキー」
ピー太は、ピョンピョン跳ねながら羽ばたいた。
「ピー太、好きって、お刺身のことじゃなかったのかもね」
優太が言った。

 「今日は優太に会えたから、おじいちゃん、元気出てきたぞ」
おじいちゃんは、笑いながら言った。
「父さん、僕も近々改めて来ます。母さんの墓参りしたいって、ずっと思ってたから」
お父さんはそう言ってから、チラッと民子さんの方を見た。
「おう、母さんも喜ぶだろうから・・・待ってるぞ」
おじいちゃんが言った。


 帰りの車で、優太と芳紀は、ぐっすり眠ってしまった。
 卒業式がとっくの昔のことに思えるぐらい、今日は色々あった。
ピー太も止まり木に止まって、静かに目を閉じていた。




「あとがき」

 私が子どもの頃、手乗りインコを飼っていました。
 結婚して、わが子たちが小学生になり、子どもたちが飼いたがったので、やはりヒナのインコを買って、手乗りに育てました。

 飼っていたインコや子ども時代の私自身や、インコを育てているわが子のことを思い出しながら、この物語を書きました。

©作良子

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