神戸の夜

重い木の扉を開けると
耳に飛び込む トランペットの輝くような音
席につき 飲み物を注文する間もこころが動く

神戸は老舗のジャスクラブ
壁も床も木の店内のバーカウンターで
黒いバーテンダーエプロンをつけたボーイがシェーカーを振っている

指でテーブルをタップしてリズムをとる白髪の紳士
トランペッターの真ん前に陣取るちょっぴり太めのおじさん
瞑想しているかのような中年女性
おひとり様が多くのテーブルを占めるなか
沢山の料理を前にした若い男女のグループも
隅っこで肩を寄せ合うカップルも
それぞれに体を揺らしている
ここに居場所を求めている

みんな 寂しいのだ

私はビターカクテルを飲んでいる
墓じまいし
離檀し
はらからと訣別した旅の終わりの
解放の夜


木ノ衛ちょむ(きのもり ちょむ)さんという方に下記のような感想を頂きました。大変うれしかった。

ジャズクラブでひとときを共にする老若男女、絵画のような作品。私の飲むビターーカクテルが黒い墓石や仏壇の色とリンクする面白さ。諸行無常を注いだグラスはそれでも寂しい明るさを反射して、きっと美しいのだと思う。