桜塚ひさ

詩を書いています。読んだ本の感想、好きな詩、折々の思いを書いていきます。

桜塚ひさ

詩を書いています。読んだ本の感想、好きな詩、折々の思いを書いていきます。

最近の記事

巨匠の作品に感じること

最近とつおいつ、詩の世界の巨星である谷川俊太郎氏の全詩集を読み返している。私の編著書『親と子の詞華集-知恵の花かご』というアンソロジーに最も多く採らせていただいたのは谷川作品だった。もっとも感銘を受けてきた、真言の詩人です。それでも全作品にあたりきれていない。作品数もだが内容も多岐にわたっていて、追いきれないでいた。そこで、難解な作品は後回し、隙間時間でも読める読みやすい作品を読み返しているのだ。 谷川氏は生活するために書いてきた、としばしば発言していらっしゃるが、それは読ま

    • 難解詩に挑む

      現代詩は読まれない。難解だからだ。現代人には気晴らしは多くあり、なんでもタイパで、映画さえ早送りで見る時代に、苦労して訳の分からないものを読む人は詩人以外ではよほど酔狂な人だけだろう。私は難解詩には反対、というより書けないのですが、難しいことを易しく書くためには、難解詩を攻略する必要があると思う。分からないから排斥するのでなく分かったうえで敬遠したい、というので、一例を岡井隆著『岡井隆の忘れ物』の引用で検証してみる。この著者の教室に参加していたので人物像を知っているし多くの著

      • 読まれる詩を

        詩とは対話である、とパウル・チェランが言ったという。詩に限らず書き物は誰かに読まれることを本質的に望むものだ。エミリー・ディキンソンは作品を一切発表せず、ひとり書き溜めていたというが,死の前に処分した訳ではないから、いつか誰かに、という気持ちがなかったという証はない。 詩は投壜通信ともよく例えられる。いつか誰かに届くことを願って投げられる通信なのだ、と。しかしチェランは、非常に難解な詩を書いていた。誰にでも読まれることを拒むような。日本の現代詩もそうである。読者を選らんでいる

        • 現代詩は読まれない 1

          わが市の図書館は週に一度購入した新刊書を書架とは別の棚に陳列する。その棚は大変人気で、ときのベストセラーなども出るそうでその日は開館前に行列ができるほどです。開館時間を遥かすぎて行くと棚はすっからかんか、または大変不人気の書物しか残っていない。私はベストセラー読みではないのでその行列に参加したことはないけれど、どんな本が残っているかに興味があり,たまに覗いていました。先回は棚に数冊残っていた中に、河津聖恵さんの新刊詩集があるのを見たものの、著名であっても、難解で私の心に響く詩

        巨匠の作品に感じること

          大岡信のモダニズム批判

          大岡信氏が若き日に書いた 現代詩試論。  ぼくは、詩は詩人の肉声を伝えるべきものだと頑なに信じている。小ブルトン、小エリュアール、小アラゴンはたくさんだ。まして、小西脇、小北園、さらに,クレジットさえわからぬ模倣のごった煮に至っては,まさに,反吐だ。 大岡さんが22.3歳の頃のデビュー作とも言えるこの試論はおおいに話題になったという。この一節を,当時新人作家だった開口健が賛意を表明、大岡さんに手紙を送ったのだそう。 大岡さんが  肉声に対して恥を感じるというくせは現代詩が持

          大岡信のモダニズム批判

          100人の詩人たち

          「青い凪」の会による『凪組Anthology2024』というアンソロジーを読んだ。凪の会というのは、ネット、それもXに詩を投稿していた方々が集まって作った同人誌であるようだ。その会の主宰者の石川敬大さんという詩人が一念発起して創られた100人のネット詩人によるアンソロジーである。私はネットに投稿はしていないし、その会の存在も知らなかったものですが、欠員が出たことを偶々知って参加させていただき、100人の詩人のひとりとして作品を掲載していただいたのです。石川氏の大変なご苦労の上

          100人の詩人たち

          切なくて詩を書いた

          未推敲で、ある合評会に出した詩です。 「完」                   何も持っていきません 全部残していきます 悔いはあります 残してあげられなかった 私が子どものころの海 松林に続く白い浜 素潜りして手づかみで魚を取った海を 残してあげられなかった 私が子どものころの秋の雁行の空  北極星北斗七星天の川  屋根の上に見た夜空を 残してあげられなかった 私が子どものころメダカをすくって遊んだ 川底の砂の光る小川 岸辺のすみれたんぽぽ 玉虫を追いか

          切なくて詩を書いた

          若い友人の作品

          「帰り道」 あなたと夢の中の 夜の駅前通りを一緒に通ったのは どのくらい前になるのか あなたは変わらずかっこ良くて元気で 何も変わってなかったね どうかこれからも あなたの信じるものを 好きな人を 好きなものを 大切にしながら ワタシには辿り着けないそっちで 永遠に生きてて下さい ワタシはあなたのかっこ良さにしびれながら 期限付きの今日と一生を生きていきます

          若い友人の作品

          現代詩手帖12月号年鑑を読んで

          現代詩手帖12月号年鑑の2023年代表詩篇を読んでいる。現代を代表する詩人130人が選ばれその詩人の1年のベスト作品が掲載されているのでしょう。が、そのほとんどに何の感興も覚えなかったことに衝撃を受けている。自分の鑑賞能力も疑っているのですが、谷川俊太郎、平田俊子の2氏の作品にはいつも期待を裏切られたことがない。が、その二氏以外では3,4篇の作品しか心に響かなかった。とても長い、長すぎる作品が多く、何か言いたいことがあるのだけは分かるが、表現を一ひねりも二ひねりもしてあるので

          現代詩手帖12月号年鑑を読んで

          続荒川洋治『真珠』に挑戦するの記

          かなり以前、何かの雑誌で作曲家久石譲氏が養老孟司氏との対談で興味深いことをおっしゃっていた。心に残ったので要点をノートに書き写していたのを思い出した。現代音楽の傾向について、不協和音の音楽が今や大半で、現代音楽家は感覚より意識で作曲していると。自分のために作っていて自分だけで完結しているから、聴衆は離れていくということだった。これは全く現代詩に通じると思ってメモしていたのだろう。感覚より、意識、それはおそらく世界的傾向で、その意味で言えば現代音楽も現代詩も世界に伍していってい

          続荒川洋治『真珠』に挑戦するの記

          荒川洋治 『真珠』と格闘する

          荒川洋治氏の最新詩集を読む,いえ,読もうとしている。あまりに読めないので現代詩手帖の12月年鑑の佐々木幹郎,藤原安紀子,石松佳三氏の鼎談を参照しながらよんでみた。分からない。このわからなさは,私の理解力の乏しさによる。それは確かなこと。この詩集が近年稀な、画期的で詩の愉しさを十分味わえる詩集であるとされる藤原さんの読み,背景を示唆する佐々木氏の解説でようやく掴んだこと。 それはこの詩集が現代詩の最先端,最前線,独走するトップランナーの総集編だということ。荒川洋治氏は,叙情を否

          荒川洋治 『真珠』と格闘する

          ヒーロー

          大嘘つきの首長が 嘘ばっかりいわれるんです!と強弁する 高名な大学教授が時の首相に お前は人間じゃない! ぶった切ってやる!と叫ぶ 声を持たない者は 唇を噛み うなだれる しかし  挫けてはいないのだ 歩み続けているのだ 牛のように がっしがっしと 明日は 明日は とつぶやきながら ヒーローとはそういうもののことだ

          精神科医中井久夫の詩魂 

          日本精神医学会のウルトラマンである中井久夫は類いまれな語学と文学の才能の持ち主でもあった。1934年生2022年没の88年の人生で実に多方面で鬼才を発揮した、日本が世界に誇れる医学者文学者である。阪神淡路大震災を経験し、大学病院の病床を開放して避難民を受け入れたなど、行動力もたいへんなものだったが、何よりそれまで本邦にはなかった,PTSDという概念を用いて災害に遭遇した人々の「心のケアに」当たった日本初の精神科医である。かねて御著書を幾冊か愛読していたので、今回最相葉月氏の『

          精神科医中井久夫の詩魂 

          若い友人の投稿詩2

          無題  あんたをつかまえてやるの 呪物(まほうのグッズ)使って ひいひい呻くあんたのこと この両腕の中にね 念じて投げたお札は 落とし穴に変わるわ 髪から引き抜いたばかりのヘアピンは 針のお山に変わります ワタシが今履いているガラスの靴は 実は10km(キロ)を5分で走るシロモノ… 涙を流すあんたは 今ワタシの腕の中 せいぜい可愛がってあげるわ ハッピーエンドをご期待🖤 若い友人から詩が届いた。無題ということですが題のつけようがない作品だと思う。

          若い友人の投稿詩2

          山に来て

          冷たく澄んだ空気 深い湖のような青空 銀杏の金色 銀色に光るすすき 鮮やかな黄色のつや蕗 紅葉の真紅から橙色へのグラデュエーション 鳴きかわす小鳥たちのおしゃべり 山にいて ほかに何を望もう やがて 老い行く哀しみのような山霧が忍び寄ろうとも 今 ここにいる喜び いずれ消えゆくものとして

          神戸の夜

          重い木の扉を開けると 耳に飛び込む トランペットの輝くような音 席につき 飲み物を注文する間もこころが動く 神戸は老舗のジャスクラブ 壁も床も木の店内のバーカウンターで 黒いバーテンダーエプロンをつけたボーイがシェーカーを振っている 指でテーブルをタップしてリズムをとる白髪の紳士 トランペッターの真ん前に陣取るちょっぴり太めのおじさん 瞑想しているかのような中年女性 おひとり様が多くのテーブルを占めるなか 沢山の料理を前にした若い男女のグループも 隅っこで肩を寄せ合うカッ