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本日の一曲 vol.212 リヒャルト・シュトラウス ツァラトゥストラはこう言った (Richard Strauss: Also sprach Zarathustra, 1896)


使用例

リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはこう言った」は、ともかく冒頭部分ばかりが有名です。ご存知、スタンリー・キューブリック監督、1968年公開の「2001年宇宙の旅」の冒頭などで有名な使用例がありました。

また、日本の戦前の「日本ニュース」で使われた例もありました。

ニーチェ

この「ツァラトゥストラはこう言った」は、同名の哲学者フリードリヒ・ニーチェの難解な哲学書をシュトラウスさんが読んで得たインスピレーションから作曲したもので、その哲学書を具体化した音楽ではないということです。確かに、例えば「超人」を音楽にするとどうなるのか、なんて、わかりません😅

noteでは、あんずさんがニーチェについて要領よくまとめていらっしゃいますので、参考にしてください。

聴き方

さて、シュトラウスさんの音楽の方ですが、シュトラウスさんが32歳のときの作品です。もともと哲学を素材にしたものですので、掴みどころがなく、筆者も苦手にしていたのですが、聴きどころを整理してみようと思います。

音源は、ピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez)さん指揮シカゴ交響楽団(Chicago Symphony Orchestra)の演奏を選びました。カラヤンさんやベームさんの演奏は、音が全体的にまとまって、一つの楽器が鳴っているように聴こえるのですが、ブーレーズさんが指揮をすると、オーケストラのそれぞれの楽器が別々に鳴っているように聴こえるという不思議な感じがします。

改めてこの曲を聴き直してみると、ニーチェの思想など哲学的な思考からは離れて、小難しいことは考えないで、普通の人の一日の日常生活を描いたものとして聴くと、とても聴きやすい音楽なのではないかと思うのであります。シュトラウスさんの「アルプス交響曲」や「薔薇の騎士」と同じように鑑賞してみると、分かりやすいのではないでしょうか。それでは、ツァラトゥストラさんは普通の人というふうに考えて聴いてみましょう。あまりにも矮小化しすぎだと言われるかもしれませんが、交響詩「英雄の生涯」の「英雄」とはシュトラウスさん自身のことであるとの言説もあるくらいなので、シュトラウスさんも許してくれると思います😅

楽節解説

I. Einleitung, oder Sonnenaufgang(導入部または日の出)

最も有名な楽節です。2001年宇宙の旅の冒頭で使われているように、単純に日の出を表現していると考えてよさそうです。ツァラトゥストラさんの目が覚めたときの音楽ということです。

II. Von den Hinterweltlern(世界の背後を説く者について)

不安な音楽から始まります。「世界の背後」とは「苦悩」のことのようです。そして、「苦悩」を忘れるために「陶酔」するのだそうです。1:00あたりから、弦楽合奏による陶酔的な音楽が綿々と続けられます。まさにこの部分は音楽の醍醐味です。しかし、「苦悩」や「陶酔」からは離れて、ちょっと眠りが足りなかったので二度寝しました、というふうに考えましょう。

III. Von der großen Sehnsucht(大いなる憧れについて)

前のセクションから陶酔的な音楽は続きますが、途中からせっかちな音形が割り込んできて、「それではだめだ」的な雰囲気になります。ちょうどベートーヴェンの交響曲第9番第3楽章におけるのと同じように陶酔が否定される雰囲気です。二度寝から目が覚めて、毎日のルーティーン・ワークを始めよう、という感じでしょうか。

IV. Von den Freuden und Leidenschaften(喜びと情熱について)

この楽節は、陶酔を打ち破るものの正体を提示したものなのではないかと思います。非常に厳しい音形です。毎日のルーティーン・ワークの描写だと考えましょう。

V. Das Grablied(墓場の歌)

墓場には何かが葬られています。演奏指示は、「etwas ruhiger(穏やかに)」となっていますが、ルーティーン・ワークをこなしているうちに、ふとそのルーティーン・ワークをしている意味を考えてしまったといったところでしょうか。

VI. Von der Wissenschaft(学問について)

そのルーティーン・ワークをする意味は、自分のための「学問」であるとして、自分を納得させようとします。自分のためにルーティーン・ワークをこなさなければならない、と。

VII. Der Genesende(病より癒え行く者)

そして、ツァラトゥストラは、ルーティーン・ワークに戻るのです。自分を磨くためのルーティーン・ワークに。そして、粛々とこなしていると、楽しい終わりが見えてきます。

VIII. Das Tanzlied - Das Nachtlied(舞踏の歌~夜の歌)

ワルツのリズムに乗って、独奏ヴァイオリンが大活躍するセクションです。シュトラウスさんお得意のワルツ・パターンです。一日のルーティーン・ワークを終え、これからは楽しい時間なのです。それは食事だったり、友人との歓談だったり、恋人とのデートだったり、それぞれの人々の楽しみ方によるでしょう。シュトラウスさん的には、おそらく「薔薇の騎士」冒頭部分につながる感じなのでしょう。

IX. Nachtwandlerlied(夜の流離い人【さすらいびと】の歌)

楽しい時間も終わり、眠りにつく音楽です。おやすみなさい。

(by R)

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