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毒親育ちで自死遺族になったので水商売で働いてみた話④

前回の記事はコチラ🔻

初めに言うと、退院時に看護師から「ここでやっていけるなら他でもやっていけるよ」と言われるくらいには酷い場所だった。
精神科の病院には犯罪者を受け入れる病院と受け入れない病院があり、よりにもよって私は犯罪を犯したわけでもないけど恐らくその病院しか空きが無く、犯罪者を受け入れる病院での入院になった。
なので、これは別の記事で書く予定だが、退院してから数年後に犯罪者を受け入れない病院に入院したときに、「患者のレベル」の違いに驚かされた。
当然だけど、トラブルが多くすぐ何かやらかす患者が多いのは、初めて入院した犯罪者を受け入れる病院の方だ。
精神科の病院はこの二種類に別れ、更にそこから病棟が別れる。
開放病棟と閉鎖病棟があり、後にすぐ強制入院になることが決まっていた私は任意入院だけど実質強制入院の為、鍵付きの閉鎖病棟に通された。
病棟やナースステーションに鍵が付いており、更に多くの人が知るドラマに出てくるような病室ではなく保護室、刑務所でいうところの独房に通された。
本当に、独房そのものだったのだ。
部屋には真ん中にベッド、隅には衝立と水を流すレバーと蓋すらない剥き出しの便器、開かない小さな窓がかなり上の方にひとつ、監視カメラと音声を拾うマイクしか無かった。
マイクもアナウンサーが使うようなマイクではなく、恐らくカメラとセットになっているので目で認識出来なかった。
閉鎖病棟に入る時点で鍵がかかっているのに、更にそこから保護室が集まった廊下へ入るのにも鍵付きの扉もさを開ける。
で、しつこいけどそこから今度は保護室の扉が二重扉になっており、扉と扉の間に洗面所があるので自由に使えなくて不便だった。
うろ覚えだけど、病院は夜間は鍵が閉まっているわけで単純計算しても保護室までの鍵の数は5,6個ある。
仮に脱走するのなら人気の少ない夜間に、看護師の巡回のタイミングを把握して数日は大人しくして看護師を油断させたところで、看護師が保護室から出る際に背中を見せたときに後ろから頭を掴んで壁が床に殴り付けて気絶させて鍵を奪うくらいしか私には思い付かない。
しかし、これだって女性の力ではたかが知れてる。
これは後の話になるのだが、どうやったのかは知らないが、他の患者から「過去にこの病院の保護室のベッドを解体して鉄パイプ状態にして扉を殴った人がいる」と聞いた。
しかし、保護室のベッドを確認してみてもとても解体出来そうにない。
鉄パイプがあれば後ろから頭をガツンとやれるし、そうなれば脱出の可能性は上がる。
過激な話になったが、この病院ではそれが日常だった。
閑話休題。
保護室のことに話を戻す。
便器の水を流すレバーは、首吊り防止の為なのか、患者の便から健康状態を確認する為なのか、無い。
そして、よく見ると壁に「何か」のシミがある。
血液を連想させるような、「何か」のシミ。
こんな感じで保護室という名の独房は暇で暇で苦痛で仕方が無かった。
毎度何かある度に看護師を呼ばなければならないし、ナースステーションに看護師がいなければこちらの声が届かないわけでいるのかいないのかの確認も出来ない。
マイクは天井にあるらしいけど具体的な位置が分からないから、取り敢えずは監視カメラに向かって声をあげる。
マイクの存在を知ったのは入院してから少し経った後で、それまでは扉をひたすら叩いて外に向かって声を出すしかなかった。
反応が無いとひたすら、気が狂ったように扉を叩き続ける惨めさと絶望感は今でも覚えている。
看護師に毎度チラッと便器の中を確認され、看護師が捕まらないときはすぐに便を流せず、自分の便の臭さで具合が悪くなって惨めさに拍車がかかった。
初日は一睡も出来なかった。
入院したての頃はお菓子を食べる時間は決められているので、無意識に持参していたカロリーメイトを手渡された。
私は、お腹が空きやすいので、この管理されたスケジュールでは少しでも多く胃の中に何かを入れておかないと不安で、カロリーメイトをお願いしたのにも関わらず食べれなかった。
どうして時間内に食べれないの、と看護師に叱られるというより怒られる雰囲気。
ストレスで過食をすることがある私が、まさかの食欲が無い状態になっていた。
何もすることが無い時間と外界から閉ざされた世界。
少しでも早く時間を進める為にひたすら寝ることにした。
起きているのが嫌だった。
目が覚めれば、これから又暇な時間が待っていると絶望感に襲われる。
もうずっと寝ていたかった。
担当医は副院長だったが、忙しい為メインで私を診るのは別の若い医者になった。
私はそのときまで鬱病と認定されていたが、副院長は私に攻撃的な面があることも考慮して双極性感情障害、俗に言う躁鬱病と病名をつけた。
で、若い医者が「どうして貴方が躁鬱病と判断されたのか不思議なんですよね。鬱病でも攻撃的になることはありますし」と言われた。
マジか……。「普通」なんて曖昧な単語を使いたくはないけど、それでも普通同じ病院の医者、しかも自分より上の立場にいる医者の判断に疑問を抱いているなんて患者の前で言うか?
勿論、言いたいことを言える環境は大事だ。
だけど、それをよりにもよって患者の前で言うのか?
更にこの医者は、「この部屋でも自殺しようと思えば出来るんですよ」と言い出す。
いやだから、お前はさっきからどうして要らんことばかり言うんだ。
大体、そんなことなんて言われなくても分かる。
刑務所で自殺する人間がいる以上、保護室での自殺も頭を使えば可能だ。
私はこれらの発言内容に対しては不安にはならなかったが、そんなことを言われたら不安になる患者だっているのではないか。
あー、これはハズレの医者を引いたな、と私は落胆した。
しかも、この医者がメインで私を診るのに、私の退院許可を出せるのは副院長の方だ。
私は時間が経てば経つほどこの医者に期待することをやめていった。

そして、当直医の予想通り、私は「何をやっているんだろう。数日後には、友達とお泊まり会の約束をしていた。こんなところに居る場合ではない。此処から、出なければ」と退院したい旨を看護師に訴えるが当然許可されず、保護室の入口を塞ぐように立っていた。
これ、多分無理矢理出ようとしたら最悪拘束されるな、と思った私もあまり強気に出れないので泣いて縋るようになった。
泣いて縋るというのは惨めだ。今も心が痛い。
因みに、後に渡された書類の入院予定期間のところには三ヶ月と書かれて更に絶望した。
携帯もゲーム機も自由に使えない場所で三ヶ月。
特に娯楽品も持ってきていないのにどうしろと。

入院にあたって、お金関係の話になりケースワーカーと話すことにもなった。
何度か話したときに、そのケースワーカーは毒親とも話したようだった。
私は、ケースワーカーにも毒親からされた苦しみや弟のことを泣きながら話した。
しかし、毒親というのは外ヅラが良いパターンもあり、うちもそれだった。
私が、「私も弟も親から逃げられなかった」と言うと、ケースワーカーの口から、「でもそれ、貴方の主観ですよね?」という台詞が飛び出した。
……は? お前、大丈夫か? 私は細身の体型だけど、私と同じくらい細身な上に、私より身長の低い女が、保護室で、今は鍵がかかってはいないとはいえ、二人きりで、私はここに来る直前に父の顔面をぶん殴るくらいには攻撃的になってて、そんな奴の前でそんな失言をするなんて殺されたいのか?
私は、この女の顔面をぶん殴るところを想像してしまった。
今思うと、一発ぐらいぶん殴っておけば良かったと思う。
優しい世界でぬるま湯に浸かったような生活を送ってきたであろうこの女には、毒親なんてものの存在すら知らないのかもしれない。
この女、いつか患者から痛い目をみせられるんじゃないの、なんて思った。
てか、そうなればいい。
この手合いは経験しないと毒親が及ぼす影響を理解出来ないし、いやいや、経験したところで理解出来るのかすら怪しい。
頭のおかしな患者が暴れた程度にしか認識出来ない可哀想な頭の持ち主だ。
そんな頭が可哀想な女に金の管理をされるというのはなかなかに嫌なものである。
そも、我々人間は主観のみで生きている。
自己を客観視するなんていうのはあくまで比喩で、人間は本来はそれを出来ない。
もし、自分を本当の意味で客観視するのなら、自分が二人必要だ。
否、それでも真の意味で客観視するのは不可能か。

数日後には一時間だけロビーに出れるようになり、他の患者と雑談をするようにもなった。
そのときに、副院長と目があった。
早く退院したい私は笑顔で挨拶をした。
そのすぐ後に、一日一時間からロビーに滞在していいルールは、朝から夜までに変更された。
なんて適当な診断、判断なのだろうと、私は全然元気になっていないのに、その場で咄嗟に作った笑顔で対応を変えた副院長に期待するのもやめた。
入院のデメリットは、外来と違って医者を選べないことだなとも痛感した。
当時、通院していたメンタルクリニックの担当医は、今でも一番好きな医者だ。
人間味があって、優しくて、甘いところがあって、ゆっくり話を聞いてくれるところが好きだった。
患者の中には喫煙者もいるからという理由で、診察中に喫煙をしだす型破りなところは特に大好きだ。
なので、ここの病院の医者の酷さ、ついでに看護師やケースワーカーの酷さが余計に際立った。
ここの病院では、定期的に医者と患者が話し合いをする機会が設けられた。
一人一人ではなく、患者全体が集まって医者に質問をぶつける。
そこにいるのはあの若いハズレの医者だ。
質問に答えるのは、その医者より歳上の社会福祉士だった。
ずっと社会福祉士が質問に答えていて、医者は置物状態だ。
何で居るんだろ、こいつ、と思うくらい何も答えない。
というより、答えれないのだ。
恐らく質問に答えれるだけの知識が無い。
それでいて高い給料を貰っているのだからいいご身分だ。
アフター5にリア充ちっくな習い事をしてそうな雰囲気の、最高にクソムカつく鼻につく女医だ。
それに、社会福祉士の方が歳上ということは、業界自体の経験年数は置物女医より長いのだ。
話し合いが終わった後、私とよく話す患者何人かで、「あの医者はお飾りだ」と愚痴りあった。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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