君が死んだ場所へ行く

旅行。それは面白くて楽しくて、良いイメージを持っている人は多いのではないだろうか。
私は北海道に住んでいて、よく関東へ旅行に行く。
理由は観たい舞台やミュージカルといったイベントが北海道では開催されないからだ。
自殺した弟は関東に住んでいた。
だから、私は旅行の度にそれを思い出し、苦い気持ちになる。
君が前に進む為に上京した場所。
君が生活していた場所。
君が生きていた場所。
君が、自分で自分を終わらせた場所。
だから、私は毎回心の底から旅行を楽しめない。
ふとした瞬間に、辛い現実が頭をチラつく。
そして、私は今日又関東旅行をする。
君が自殺したのもちょうど9年前の今頃の6月で。
亡くなったのは上旬だったけど、一人暮らしだから遺体の発見が遅れて。
遺体を発見したのが、9年前の今頃だった。
君が死んでから放置されていた間の二週間、私は北海道で友達とお祭りに行っていたのを覚えている。
もうその楽しかった記憶すら、痛くて、苦しくて、苦い。
弟が亡くなっているのに、それに気付かないで友達と遊ぶ馬鹿な姉。
自分の痛みには敏感なくせに、他人の痛みに鈍感な姉。
こんな自分、死んでしまえとすら思う。
死んだところで、償いにはならないけど。
こんな風に自嘲的な文章を書いておきながら、私は苦みを抱えたまま、なんだかんだで今回も旅行を楽しむのだ。
どれだけ出来損ないの無能でも、私のようにふてぶてしさと図々しさがあれば生き残れるという酷い世界だ。
最近、考えることが増えた。
元々よく考え込む方ではあるけど、それが増した。
最期の瞬間、どんな気持ちで、どんな状況で逝ったのだろう。
私ならきっと、泣いてしまう。
子供みたいに馬鹿みたいに泣いてしまう。

もうすぐフライトの時間だ。
私は心の苦みを薬で誤魔化して、旅行を楽しむ。
本当に、私は嫌な奴だ。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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