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人はなぜ山に登るのか

人はなぜ山に登るのか。

ごつごつした山道を一歩ずつ踏み締めるたびに、この疑問が頭に浮かぶ。
上まで登ったとしても、降らないと帰れない。
ジムでランニングマシンに乗れば涼しく有酸素運動ができるのに、何のために登っているのか。

ふと耳元に、ブーンと羽を擦る虫の音が聞こえた。
黄色と黒のしましまな蜂。
また現れたかと舌打ちをしながら、太い毒針に刺されたくないなと思い、素肌を隠しながら早歩きをする。

上着を羽織っていた時は寄ってこなかったのに。
もしや両腕に塗った日焼け止めの、独特な匂いに惹かれてやってきたのではないか。
横道で立ち止まり、上着を来て山道に戻った。
するとあんなに寄ってきた蜂がまとわりつかなくなったのだ。

この山には、はるか昔から生息している虫たちがいる。鳥たちも、植物たちもいて、我々人間はあくまでも後からやってきた異邦人といえるのかもしれない。
勝手に文化を開花させ、豊かさを求め、オゾン層を破壊させ、暑い暑いと日焼け止めを塗りたくる。
ここまで思考を巡らせて、蜂に舌打ちしてしまった自分を恥ずかしく思った。

気を取り直して頂上を目指すことに。

たらたら。たらたら。
お盆真っ只中にも関わらず、山道の80%は日陰。地上よりずっと涼しい。
首の横をすっと滴る汗も、嫌な汗ではなかった。
臭い日焼け止めを流してくれるのであれば、なおさら歓迎だ。

ざくっ。ざくっ。
歩きやすく整備された地面とはいえ、一歩一歩踏みしめるたび、岩の硬さ、木の根の強さ、草の柔らかさを足裏に感じる。
会社の昼休み、ごはんを買いに行くコンクリートの道路より、ずっと優しい。

ほーほけきょ。
突然聞こえた鳥の鳴き声があまりにも美しく、誰かが流した音源ではないかと疑ってしまう。
再生される音源よりすこし不正確で、姿は見えねども緑の中から背中を押してくれるよう。なんだか嬉しくて広角が上がってしまった。


人はなぜ山に登るのか。

3時間かけて登って、1時間で降りてきて、それでも理由ははっきりと分からなかった。

けれど、虫や鳥や植物が生息する山に触れて、「SDGs」「CSR」「ESG」といった難しいテーマを考えるうえでの原点はここにあるのではないかと思った。

自然の恩恵に感謝し、自然に生かされる我々の生活をみなで大切に守っていく。

山でも、海でも、川でもいい。ふとした瞬間に自然に触れている者は、わざわざそんな言葉やテーマを持ち出さずとも、日々実践しているのではないかと思う。

未来のためにできること、それは自然に向き合う時間をつくることだ。
そして今日もまた、私は山に登り続ける。



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