魚類

人類の事は魚類が担当となった彼らは無口だが身を躱すのが素早くて歴史は長いひどくぼんやりとする頭を抱えた私に反対する理由は無くまた妥当ではないかと賢き辺りも頷いた気配もあり決定したようだ他の哺乳類についても揉める事無くまとめて甲殻類が担当するようだ採決は次々と行われたが爬虫類まで来て初めて沈黙が訪れた相対するべき昆虫類が戸惑っているようだった複眼をそれぞれぐるぐる回している二千年前までは立場が逆転していたと聞くが何か特殊な事情があるのだろう

支配する側と支配される側食する側と食される側例えば人類の文明は食文化が錠剤のみになった時から衰え始めたに違いないミドリムシを培養し食糧難に対応したまでは良かったが更にはそれを錠剤化して全人類に普及せしめたことで人類の進化は止まってしまった前世で私はそれを危惧し注意を喚起する立場にあったが学会で発表する書類が紛失したりその次の学会が直前に食中毒による中止が起きたり更にはパソコンが故障して私の熱意は冷めてしまったそういえばあの頃いやに私に敵意を向けてくる人物がいたどうにもこうにも眠たい鯛のような顔をしていて口は生臭い私の発表にしつこく質問を寄越してくれるので説明が足りなかった部分についても詳しく説明できて助かっていたが確かにあの時学会への参加について何度も確認された
一度など日程の間違えたメモを渡されたりもしたがまさかしかし三度の偶然と一度の故意についてはもはや疑う余地も無いそうか誰もが気付いていなかったと思っていたがあの魚顔が気付いていたかしかも邪魔をしていたか

過去の歴史や勉学を理解しそれまでの文明を発展させていくこととはつまり人類の進化であった自然な流れで進化してきた為に誰しもそれらが留まる事があるなど想像もしなかったらしい
私は人として死んだ後は人類の担当となったから人類についてはよく知っているが他の生物達は何が起こって立場が逆転したのだろう人類は明らかに食文化の衰退が文明崩壊のきっかけだ
ミドリムシの錠剤は現在では家畜の餌として魚類の手に渡った

思えばこのような会議など人類の文明が発展していた時には一度も開かれずに済んでいたように思う私は百年単位のカレンダーを見た三百年くらいの記憶があやふやだそういえば嵐の夜とあるプロジェクトの成功を祝って竜宮城へ呑みに行った浦島太郎は居なかったが乙姫は今も美しい帰り際に皆さんには内緒と媚と共に手渡された螺鈿細工の箱を私は開けてはいないいないがしかし部屋の隅に置きっ放しである私は箱に近づき思い切って蓋を開けたが何も入ってはいなかったこれが何を意味するかを考えると恐怖を感じる三百年間私の意識をぼんやりと失わせる煙が入っていたのではないか頭の中で魚顔竜宮城玉手箱と符合が一致して冷や汗が出てきた
奴は自ら舞を舞って見せたがプロジェクトの成功は魚類にとって特に祝うような内容ではなかったはずだがおかげで他の種族の誰もが愉快に呑み明かしそれから三百年間まともな判断ができなくなっていたのだ私は俄かに人類が心配になった奴の狙いは人類滅亡ではないか
状況証拠しかないが仕方ない私は自決を覚悟で賢き辺りに奏上するべく支度を始めた既に魚顔が取り入っている可能性は高いがこのまま見過ごすわけにはいかない前世で諦めた報いがここにある私は生まれ変わっても私を生きなければ

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