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平和とは【#シロクマ文芸部】

「平和とは、疑いもなく愛する人と花火を眺めることが出来る瞬間だと思うのだよ」
教授は、教室の窓から夕焼けを眺めながら呟いた。

「何ですか、急に真面目くさって」
レポートを提出しに来た男子生徒が、怪訝な顔をした。

「花火というものは、火薬と金属の粉末が詰まっているだろう?使い方を違えれば、凶器になる。平和だからこそ、空を眺めることが出来る。暗闇を歩いていても、怯えることもない。心が平和だと、愛する人を疑おうとも思わない」

「不安な時って、あらゆることが疑心暗鬼になりますよね」
男子生徒がうなずいた。

「そう。他愛もないひとことですら、否定されたと思ってしまう。不安が増長され続けると、他者を攻撃したくなる。ネガティブなことは、ポジティブなことより伝染しやすい」

「攻撃されて、ヘラヘラしていられる人はあまりいませんよ」

「そうだね。だけど、それでは報復の繰り返しになってしまうではないか」

「教授、もしかして今日何かあったんですか?」
男子生徒が教授をじっと見つめた。

「実は、助教授とあることで揉めてね。落ち込んでいたのだよ」
教授が大きな溜息をついた。

「そうだったんですか。じゃあ、気晴らしに今夜僕と花火を観に行きませんか?愛する人でなくて、申し訳ないですが……」

「ありがとう。君のお陰で僕の平和を取り戻せそうだ」


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